第十九話
「姉さん、大丈夫ですか?」
「ああ、私は頑丈だからこのくらい平気だ」
整った顔を歪に腫らしたフォナは、怪我が無くてよかったとフィナを抱きしめた。
「あの男、最低ですわね……こんなに顔を腫らすまで攻撃するなんて」
カレン達を追い傍で見物していたエレノアが治療する。
「まぁ冒険者というのはこういうものだろう。実際に襲われた時に女性だから顔を狙わなかった」
顔を抑えながらフォナがフォローする。そういう。
冒険者という稼業上、怪我をする事も多い。
モンスターは女性の顔だからと手加減しないし賊の女性が襲ってきたとして男もそんな躊躇はしない。
たが、先のは模擬戦だ。
こうまで酷く攻撃する事は無い。
実際にダースに対してフォナは速さこそあれど、手加減をした攻撃であった。
ダースにも相手に怪我をさせる訳にはいかない、その少しの配慮があればこういう事にはならなかったはずだ。
実戦ではない場所で、仲間になるかもしれない人に対しての攻撃ではなかった。
「ダースは……半分ソ……ロ?……みたいなも……の」
「そうですわね、パーティーの中級聖職者や中級剣士さんも乱暴に扱われてますし」
そしてフォナの傷が癒えたのを見て、カレンは一つ頷いた。
「ねえ、良ければ私達のパーティーに入らない?アイツの所よりも稼げるし、居心地もきっといいわよ?」
「そうじゃのう、こっちのお嬢ちゃんは魔法の組み方が綺麗じゃったし、ワシは反対せんぞ?」
エレノアもシノブも賛成する。
「……だが、そういう訳にはいかないだろう、私達はもう加入してしまったのだから」
「そう。一度、本当に長く楽しくやれそうか考えてみるといいわよ。それなら私達は行くわね」
カレンはあっさりとフォナの言葉を聞いて訓練所を出ていく。
カレンは自分で決めた本人の意思を尊重する。それが良くない事だと解っていても本人が行きたいと言えば止めはしない。
「お主はどうじゃ?」
シアもフィナに尋ねる。
「私は姉さんと一緒じゃないと何もできませんから」
「ふむ、依存は時に力をうむし否定はせんよ」
シノブとエレノアも声をかけながら出ていく。
「俺はあのパーティーでやってる上級賢者だ。結局はお前らも俺達も責任を持った冒険者だからお前らの判断は否定しない」
そして俺はフォナとフィナの頭を軽く撫でて言った。
「決めるのはお前らだ。だから思うようにやってみるといい」
俺はカレン達の後を追うように、訓練所を離れた。
一月後、ダース率いるパーティーも即戦力の加入によりいくらかの依頼をこなして評判が上がっていた。
そしてフォナとフィナもそう居辛そうな感じはない。
時折ダースが『こいつらは俺が育てた』という自慢気な声が聞こえてくる程度だ。
フォナとフィナは一歩譲った立場からダースを持ち上げ、窮屈そうな印象はあるが居づらそうにはしていなかった。
品行方正な二人の美女、フォナとフィナの二人がダースを否定しない事で、パーティーとしての評判も高まっていた。
「よお、俺達もついにB級パーティーへ認定されたぜ」
上級三人、中級二人。バランスが取れており、それに見合う実績をあげただけに、B級認定もスムーズに通った。
「フォナ、フィナ。こいつに酷い事されてない?」
「ダンジョンでは私達に気を遣ってもらっているくらいだ。問題ない」
「ダースさんはいい人ですよ。きちんと報酬の分配も公平にされていますし」
無駄話の中にある待遇は、そんなに良い物でもなかった。
気を遣う。体力、魔力を気にして運用する。
それは仲間として当然の話で、体力も気力も尽きている中を突っ込めと言う方がありえないのだが。
報酬も働きに応じて支払われている、というがフォナ、フィナ、中級剣士、中級聖職者。
全員一律週給七万イエン。
二人の報酬額は中級の人達と同じだった。
それは冒険者として安くもなければ高くも無い。上級冒険者としての扱いなら悪い方だった。
こなす依頼から考えて、ダース達は週に百万イエン程度は稼いでいるだろう。
依頼の準備金、パーティーへのプールを考えても少なすぎる。
依頼のための準備金、ポーションや宿、馬車の手配をパーティー共通資金から出す仕組みだとしても少なすぎる。
ダースの金遣いから考えても、報酬をパーティーの運営費用とダースの報酬を多めに抜いた後の残り。
中級冒険者平均程度になるように調整されて支払われているのが解る。
「依頼のための準備は冒険者それぞれの責任で準備する物だろう?私はそう聞いたが……」
依頼の金をどう分けるか。それはパーティーを組む冒険者達の永遠の悩みだろう。
均等割り?
それなら魔法使いや近接職はマナポーションやポーション分、不利になる。
アーチャーなんて金をばらまいているようなものだ。
では働きに応じて?
誰がその働きを評価する。冒険者という仕事を選んだ皆は我が強い人が集まる。
俺がやる!俺が倒す!そんな人間でないと務まらない。
そんな我を張り合って
「俺今週はいっぱい働いてるからいっぱい貰うわ。お前らカスだから水でも飲んで生活しとけや」
すぐに殺し合いが始まるだろう。
一番揉めないのが給料制度だ。
貢献度については職種レベルを見て決める。
上級ならいくら、中級ならいくら。
そして貢献度に見合ってないという合議があれば給料を引き下げる。
それに不服があれば辞めればいい。
残った金はパーティーの共有資産として、矢やポーション、マナポーション等の経費はそこから出す。
高額な物を買う時はパーティーメンバー全員で決める。
基本的には給料制度が多いが、うちは均等割りだった。
「均等割りよ。うちは使えない人だから、とケチる事はしない。辞めてもらうだけだから」
そうクールに言うカレン達に俺は惹かれた。
実際にこの数年後、俺は『ヤクタターズ』になっても均等割りの額を貰っていたのだから、カレン達は口に出した事は必ず守るのだ。
「いや、うちのパーティーだとそうだが……お前らの所は給料制だろ。自分で、となるとポーションにしても千イエン、宿もとなると足りないだろ」
宿で一万イエンとすれば宿代だけで全部吹き飛ぶ額だ。
格安の宿を借りたとしても五千イエン、三万五千イエンしか残らない。
基本的に五日宿を借りないといけない依頼は、通常の依頼に加えて宿の代金相当の額も含まれている。
それを共有資産として出すのが給料制だし、均等割りなら宿の代金を支払っても余る金が入るはずなのだ。
給料制で経費を自分持ちだと……?
低級ダンジョンを潜ったとしても魔術師は魔力が不足するだろう。一本一万イエンするマナポーションを三本使えば残り五千イエンだ。
「そうですね、ダースさんを除いて私達は部屋を借りず野営する事が多いですね。足りない事はないですよ」
そうフィナは明るく言うが、それが間違っている事だと誰も言わない。
四人に七万イエンずつ出して二十八万イエン。残りは全部ダースの懐って事か……?
特級剣士のカレンや特級魔術師のシアの二倍弱くらいをダースが取ってるって事か。
よくこの搾取制度に文句を言わないな




