第十六話
斧戦士は斧を持つと能力が上昇する。
槍戦士は槍を持つと能力が上昇する。
フォナが持っている【ビキニアーマー剣士】というジョブは……その名前の通り『ビキニアーマー』を装着する事で能力が大幅に上昇する。
水着のような形状を持つ鎧ーーービキニアーマー。
本来のアーマーの役割、『身体を守る』という機能を果たしていないデザインになっている。
都市部の娯楽の一つ、コロシアムのショーの一種で女性剣闘士は半裸のような格好……つまりビキニアーマーで戦わせる所もあるがそれくらいである。
通常の戦場をビキニアーマーで戦うことはない。
毒矢が剥き出しの身体にかすっても致命傷なのだから、そんなバカな格好は普通しない。
だがビキニアーマー剣士のジョブを持っていれば話は別である。
過去の勇者が持っていたというこのジョブは、とてつもなく強力だ。
まずビキニアーマー剣士への遠距離攻撃は『無効』だ。
つまりビキニアーマー剣士を倒すためには彼女の得意な近接戦闘で勝たなければならない。
では、その近接戦闘能力はどうなのか。
ビキニアーマーをつけて【もっと激しく動き回れ】と言いたげな神の意思により、素早さが大幅に上昇する。
前に出やすいように防御力も大幅上昇する。
肌を剥きだしている部分へ斬撃が当たっても弾くくらい防御力が上昇する。
遠距離攻撃も無効化、近接攻撃はビキニアーマーなのに重装歩兵の防御力を持つ軽装歩兵並みの速度で動かれるのだ。
もはやチートの世界である。
「強いんだからビキニアーマー着て戦ってみればいいんじゃないか?」
「バカか貴様は!そ、そんな格好で人前に出られるわけがないだろう!!」
だがフォナはビキニアーマーを身に着けない。
「いっそ下にシャツを着たりとか、その上に鎧を着たらいいんじゃないか?」
「……無理だ。ビキニアーマー以外の上半身防具や下半身防具を身につけると効果が消えるのだ」
ビキニアーマーをつけなくても普通の上級剣士並みの力を持つフォナはビキニアーマーを基本的につけず、上級剣士ですが何か?という顔でフォナは冒険者ギルドにいるのだ。
だが彼女はまだいい。ビキニアーマーは一応防具なのだから。
フィナの【マイクロビキニ魔法使い】は文字通り【マイクロビキニ】を装備する事で能力を発揮する。
防具ですらない。マイクロビキニだ。
戦場にマイクロビキニを着てうろつくなど正気の沙汰とは思えないがこの職業もチート性能なのだ。
空気中に漂う魔力を身体で吸収する事ができる。
つまり無限の魔力を得ることができるようになるのだ。どれだけ魔力をバカ喰いする魔法を連発しても魔力切れが発生しない。
そしてビキニアーマーの【遠距離攻撃無効】と同じく、彼女には【近距離攻撃無効】と【常時回復効果】がつく。
通常は魔法使いを倒すためには何とかしてガードをくぐり抜け近接武器で仕留めていくのがセオリーだ。
だが彼女はその近接攻撃が無効になるのだ。
【お触りは禁止ですよ】と言うような神の意思が感じられる。
近距離がだめなら弓でと思っても矢では魔法使いの扱うシールドを通さない。
フィナに勝つためには、
無限の魔力を持つ相手と魔法の打ち合いをして攻撃を通すしかない。
だがそれも常時回復効果で倒しきれなければ傷一つ無く戦線に復帰する。
そして無限の魔力で蹂躙が始まるのだ。
無限魔力の沈まない魔法使いである。
「強いんだからマイクロビキニ着て戦ってみればいいんじゃないか?」
「バカなのですか?そんなもの着て戦場に出るなんてどう考えてもまともな人じゃ無いですよね」
マイクロビキニをつけなくても普通の上級魔法使い並みの力を持つフィナはマイクロビキニを基本的につけず、上級魔法使いですが何か?という顔で冒険者ギルドにいるのだ。
冒険者登録してから上級剣士と上級魔法使いのふりをして一年、ようやく皆が忘れかけた頃にガストが
「【ビキニアーマー剣士】のフォナちゃんと【マイクロビキニ魔法使い】のフィナちゃん!」
そう声をかけるのだ。
言葉のセクハラと身体のセクハラを交えつつ。なぜこいつは嫌われてないと考えられるのだろう。
俺のようなイケメンでも気を使ってジョブは話題に出さないのに。
「ビキニアーマー剣士?」
「マイクロビキニ魔法使い?」
酒場の客の視線が二人に集まる。
「え?彼女達は上級剣士と上級魔法使いのフォナさんとフィナさんですよね?」
二人を知っているらしい冒険者が声をあげる。
「なんだ?お前知らないのか?フォナちゃんはビキニアーマーを着るとあのカレンにも勝てる程の剣士だぜ」
「こ、こらバカ!余計な事を言うな!」
フォナがガストの口を押さえようとする。
「こっちのフィナちゃんもマイクロビキニを着ればあのシアにも勝てる程の魔法使いだ。うちの最高戦力だぜ?」
「……最悪ですこいつ」
フィナがガストを睨みつけ怒りに震える。
そしてマイクロビキニやビキニアーマーという言葉がボソボソと酒場に広まっていく頃、俺は二人に連れられて外に出た。
「あああ!せっかく上級剣士と上級魔法使いで通してきたのに!そろそろパーティーに加入しようかと話していたのに!」
「またみんなが忘れるまで二人で活動しないといけませんね」
フォナとフィナが元気の無い声でうなだれる。
「……お前らパーティー組みたかったのか?あんな事が前にあったのに」
「それはそうだよ。カレン様達みたいな、みんなで助け合えるパーティーって憧れるよ」
「そうです。シア様達みたいな、楽しそうなパーティーに入ろうと、ずっと上級剣士と上級魔法使いのふりをしてきたのに!」
ガストのせいで俺はフォナとフィナの愚痴を延々と聞く事になるのだった。




