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第十四話

 銀行の窓口はみんな綺麗な顔立ちだった。

 冒険者も基本的には綺麗な人が多い。

 

 食っちゃ寝、食っちゃ寝してぶくぶくと太っている男よりも

 適度な運動をしているしまった身体をしている男がモテる。


 当然、それは女性にも適用される。

 

 冒険者は基本的に持久力勝負になる。モンスターと戦う時もそうだが、移動も長くなりがちだ。

 獣と殴り合うような真似をする武道家。

 一撃で屠るようなパワーで粉砕する大槌使い。

 

 彼らは例外だが、普通は逃げる。

 

 戦う必要が無ければ逃げる。

 戦う必要がある討伐でも最初は逃げる。

 

 筋肉は瞬発的に力を出す筋肉と、持久的に力を出す筋肉とは別物なのだ。

 モンスターや野生動物は瞬発的に力を出すタイプが多い。

 獲物を狩る場合、戦う場合。どちらもそちらの方が有利だからだ。


 そんなパワーのあるモンスターと戦う時はどうすればいいか。

 十分も躱せばほとんどのモンスターはバテて動けなくなるのだから、そこで距離を取り矢を射る、魔法を打つ。

 それが大半の冒険者の戦い方だった。

 

 何が言いたいかと言うと、ゴリマッチョではなく、みんな健康的な細マッチョなのだ。

 そして男も女も理想的な体格を持っているため、美人度にスタイル加点が加えられる。

 

 大槌を持つ鍛冶屋や、瞬発力を求められる兵士と比べて、ややモテる職業に含まれる。

 

 その美人が多い冒険者をよく見る俺でも銀行の窓口の人は違っていた。

 銀行という商売上、雇用条件が良いのだ。

 採用を求めて集まる人達の中には、少しでも印象を良くしようと見栄えを整え、適度な運動をした者が集まる。

 

 採用する人が、銀行業務を贔屓にしてくれそうな人を。

 具体的にはお金を預けたり、お金を借りたくなるような、商店街の中でも選りすぐりの美人が選ばれる。

 

 整った顔立ちの所に、修行僧のように食事を制限し、適度な運動をする事でより美しさに磨きをかける。

 女冒険者との一番の違いが……脂肪にある。

 

 喰ったエネルギーを筋肉に変換する女冒険者と、食ったエネルギーをコントロールし女らしさを強調する位置に脂肪を蓄える女銀行員。

 もはや勝負にならない。

 

 なんちゅうもんをもっとるんや……これに比べたら女冒険者なんてカスや!

 と言いたくなる程の大きな胸の美人女性が多いのだ。

※この物語は異世界フィクションです。実際の銀行とは関係ありません。


 俺がニヤニヤしながら銀行員の窓口の女性を眺めていると、聞き覚えのある声がした。

 

「あれ?そこにいるのは、クズな商売で大儲けしたオルタニートさんじゃないですか?」

「ん?げ……」


 会いたくない奴にあってしまった、と俺は身じろぎする。

「……久しぶりだな、リルイ」


 教会の神官服を身に纏い、ハンサムな顔立ちの青年、リルイ。

 その首元にはジョブ賢者の証である鷹の意匠のペンダントがあった。

 

「どうです?知識の深遠とやらに手が届きましたか?角を独占して値段をつりあげる下種な転売が知識の深遠とやらですかね?」

 そう言ってコイツはニヤニヤと笑った。

 厭みったらしく俺を煽る。


「一人か?」

「いいえ、彼女とデート中です。元賢者先輩は一人みたいですね。パーティーはどうしたんですか?」

 ギルドから除名されている事を知らない訳がない。元賢者先輩と呼んでいる事からこれも煽りだろう。

「彼女か、厭み製造機みたいなお前と付き合えるなんてレアだぞ、大事にしとけよ?元賢者先輩からの人生アドバイスだ」


 リルイの後ろから一人の女性が顔を出す。

「もう、デート中なんだから私のことも考えてよね」

 よく見るとジョブがヤクタターズになったときに会った教会の死んだ目をした苦情係だった。


「ごめんね、知り合いを見つけてさ」

「知り合い?……げっ」

 苦情係が俺の顔を見て顔を顰める。

 セクハラ未遂とヤクタターズスキルの詰問で印象は最低のようだ。


「聞きましたよ、ジョブが賢者からヤクタターズとかいう変なのに変わって除名されたらしいじゃないですか。大変ですねえ」

「おい苦情係。こいつは今俺のジョブを街中で言ったんだが、おかしいよな?」

「おかしい……?」

 苦情係が首を横に傾げる。

 

「どこから俺の個人情報が漏洩したんだ?」

 苦情係が目を逸らす。


「さぁ、冒険者ギルドで入手したんじゃないかしら」

 困った苦情係がリルイの方へと向き助けを求めるように見つめた。

「冒険者ギルドで聞いた気がしますね」

「除名した冒険者。つまりギルドと関係の無い一般人の個人情報を冒険者ギルドが出したって言うんだな?」

 そして俺は紙を取り出す。


「ちょっと一筆書いてくれ。あと法廷では証言しろよ?」

「そ、そんな小さい事気にしなくてもいいでしょ?ステータスやジョブ情報なんて公開してる人も多いじゃない」

 

 逆ギレする苦情係に俺はいや、それは違うと言う。

「気にしなくていい訳が無いだろ。低ステータスだと触れ回られると強盗に襲われるかもしれない」


 そして、俺はもう一度訊ねた。

「リルイ、誰から聞いた?冒険者ギルドか?教会の誰かか?それともお前が教会で管理されているステータス結果を見たのか?」


「……確かに言ったのは私だけど。彼は賢者だし、相談に乗れる事もあるかと思ってやった事ですよ?」

 仕事向けの口調に切り替えて苦情係が言う。

「そうか。その相談結果が『クズな商売をしてダメなジョブの低ステータスで大変だな、頑張れ』か?」


 リルイがうつむく。

「聞いた悪人が低ステータスだし脅して金取ろうぜ!ってなってたらどう責任取ってたのさ。お前それでも賢者なの?」

「でもここにいるのは銀行員くらいですし」

「じゃあ銀行員が聞いているとして、俺が商売を始めるために金を借りに来てたらどうするの?」

 ありえない話じゃないだろう。冒険者ギルドを除名されたのだ。人は生きるために金を稼がないといけないのだから。

「聞いたことの無いジョブの低ステータスが商売したくて金を借りに来た!ってなった時、不利にならないと言い切れるの?」


 それは……しかし、と言い訳を探した後、リルイは悔しそうに頭を下げた。

「すみません、オルタさん。私が軽率でした。どうか許してください」

 クレームを受け流すためにリルイが謝罪し、少しだけ留飲を下げる。

「おう、お前は未熟だから仕方ないな。許してやるよ」


 そう言った所に俺の呼び出しがかかった。

「引き出しでお待ちのオルタニート様、こちらへどうぞ」

「おう」

 十万イエンを引き出して、俺は財布にしまう。

「今回は許してやるけど、今後は賢者らしくきちんと考えて行動しろよ?」


 そう言って俺は十万イエンをヒラヒラさせる。

「何が商売を始めるだ!やっぱりお金をおろしに来ただけじゃないか!」

 リルイの声が後ろから聞こえたのを無視して、俺は銀行を後にした。


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