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第一話

少し気分を変えて軽いお話の連載を始めます。

よろしくお願いいたします!

 まず、冒険者ギルドの中を紹介しよう。


 重いドアを開くと、まず中心には大きなフロアが目に入る。

 そのフロアには、飲食店のように多くのテーブルと椅子が並んでいる。


 パーティーの仲間で座り、どの依頼を受けるか。どういう作戦で行くか。


 ギルドでは一週間分の仕事を計算し、週に一度まとめてお金が支払われる。

 清算日は分け前の話であったり、経費であったりとお金を出して仲間達と話し合う冒険者の姿で溢れる。


 奥には受付カウンターがあり、依頼の受託・報告。

 後は手に入れた素材の買い取りをしてくれるカウンターがある。


 直接、取り扱う人や店へ売り払ってもいいが、冒険者ギルドが一定量の素材を下ろす事で取り扱う条件が良いため個人で持ち込んでも受付で売っても値段に大差は無い。


 荷物を持ってあちこちを走り回るより、報告のついでにカウンターで引き取ってもらうというのが一般的な冒険者のスタイルだった。


 ギルドの中にうろつくウエイトレスに声をかければ食事をとれるようにもなっている。

 受付の人や清掃の人。ギルド職員達が昼食をとるのが主な目的だが、冒険者達も利用できる。


 料理人ギルドも食材を冒険者ギルドに頼るため、いい関係を築けているのだろう。

 ここの食事は、料理人ギルドの有望な新人を交代で送ってくれるため、料理の質は悪くない。

 街中の店よりもやや美味しいくらいだ。

 

 冒険に疲れた後のご褒美に美味しい物を食べ、笑顔で仲間達と会話をして翌日へのやる気を育むのだ。

 

 その冒険者ギルドの一角で俺達のパーティーは、食事をとっていた。

 

 時刻は昼を少し過ぎたくらい。

 冒険者はほとんどいなかった。依頼を受けてみんな依頼に勤しむ時間帯だ。

 

 雰囲気は重く、俺は軽口で場を和ませようとしたがあまり効果は無かった。


「今日の日替わり美味しいぜ。カレンも喰ってみるか?一口だけならいいぞ」


「……チッ」

 パーティーリーダーのカレンが舌打ちして、俺の言葉を無視し自分のパスタを強く啜った。


 パーティーメンバーのシア、シノブ、エレノアも消化不良のような顔をして、それぞれが食事を黙々ととっていた。

 

 そこに楽しそうな会話は全く生まれない。


 なぜこんな事になってしまったのだろうか。

 

 時は今日の早朝に遡る。

 

「ついにボスね……」

 朝早くからダンジョンに潜る事五時間。俺達はようやくボス部屋の前まで辿り着いていた。

 そしてカレンが行くわよ、と声をかけパーティーメンバー全員が気を引き締め頷き、部屋に踏み込もうとする所で、俺はみんなを止める。


「ボス部屋には罠があるかもしれない。ここは『賢者』の俺に任せろ、解除してやる」

「お願いするわ、オルタニート」

 微笑むパーティーリーダー、カレン。


 俺はサムズアップして、任せとけと胸を叩く。

 そして俺はトラップ解除に失敗して入り口に戻された。

 

 パーティーメンバーのみんなは何が起こったのかと口を大きく開けて、呆然としていた。


 急勾配の坂や縦に上る梯子が多いダンジョンだっただけに……うちのパーティーメンバー達の下着がチラチラ見えて『おかわり!』と叫びたいダンジョンではあった。

 

 だが……


「わざとじゃないんだ!本当だ!」


「うるさい、わざとじゃないならなお悪いわよ!この能無しの役立たず!」

 そう叫んでパーティーリーダー、戦士のカレンが俺の足を蹴る。

 

 燃えているような赤い髪を肩まで伸ばしたアスリート体形の美人だ。

 年齢は十九歳。若々しい肌の艶に少しきつめな顔立ちをしている。

 しまった筋肉を抑えつけるように軽い革鎧に身体の動きを邪魔しないような薄い服を身に着けている。

 パツパツ、ムチムチっとした身体の線が動くたびに強調される。

 その太腿や臀部の柔らかな動きに目が吸いつけられ、放してくれない。


 痛みにしゃがみ込み足を押さえて顔を上げると、そこは……お子様なデザインの下着が見えた。

「どこを見てのじゃ!この変態!」

 魔法使いのシアが、杖で俺の顔面を強かに打ち付けた。


 シアは水色の髪を腰まで伸ばしたロリっ子……幼さを感じさせる美少女エルフだ。

 年齢は八十歳の合法ロリ、合法美少女である。


 ロリババアという言葉がある。

 ロリよりも蔑まれる傾向にあるが、外見ロリで中身は成熟した大人なんてロマン以外の何物でもないと俺は思う。

 外見少女に経験豊富な大人の理性を持っても止められないクズ視線に俺はゾクゾクする。


 細い身体にまとったダブダブの大きなローブは、動くたびに鎖骨や胸元がチラチラと見え、その白い肌がチラチラと目に入るたびに多幸感を感じる事ができる。

 

「き、気持ち悪い……よ?シアの下着見てニヤニヤしてる……の」

 武道家のシノブが拳を固めて俺の腹を殴る。俺は身体を『ク』の字に曲げて吹きとばされる。

 

 艶のある銀髪を短く刈ったボーイッシュな武道家、シノブ。年齢は二十三歳。

 男っぽい訳ではなく、あくまでボーイッシュな美女だ。


 大人しい顔をした賢そうな清楚美人に見えるが、外見に騙されてはいけない。


 加減を知らないのか加減をしないのか。俺を洒落にならないぐらい痛めつける。

 身体が『ク』の字になるくらいの威力の衝撃なんて生きていてそうそう受ける物ではない。

 馬車に跳ね飛ばされたレベルの衝撃だ。

 

 それだけでもオーバーキルなのに、追い打ちでかかとを落としてくるあたり本当にバカだと思う。


 「ほ、本当に無……理。生理的に無理だ……よ。し、しねばいいのに……」

 本当に死ぬかもしれないんだぞ……?と後ろに割けようとした所で、シノブのスカートのスリットが目に入った。

 スリットが大きく開いたスカートのかかと落としで、ふわりとスリットが広がり、白い足の根本が……。


 ……ガンッ……

「アーーーー!痛えぇぇぇぇ!」

 衝撃を額に受け、痛みのあまり俺は地面を転がる事になった。 

「……ちょ、よ、寄らないでくださいまし……ヒール!」


 僧侶のエレノアが俺に嫌な顔をしながら近づいて回復魔法をかけた。


 彼女は本当に俺が死ぬかも、と思った時にヒールをかけてくれる優しい女性だ。


 ちょっとの傷なら魔力の無駄だと放置されるのだが、本当に死にそうな時には助けてくれる。


 エレノアは輝くような金髪をしたゴージャス美人だ。

 

 国教にもなっている女神教の大僧正の一人娘で上級貴族でも頭を下げるようなお嬢様だ。

 

「ありがとうエレノアちゃん、助かったよ」 

「……さ、触らないでくださいまし!」


 柔らかい手をニギニギと撫で、俺は名残惜しそうに手を放す。


「お前ら、いくら俺達の世界ではご褒美と紙一重とは言え、もう少し俺を大事にしてくれよ」

「はぁ……?大事にされるような働きをしてからいいなさいよ!」


 暴力系ツンデレ、合法系エルフロリ、清楚系体力バカ、腹黒系お嬢様。

 個性的なうちのパーティーメンバーに向けて、もっと大事に扱いなさいよ!とヒステリックに女言葉で叫んでみる。

 

 カレンが赤い髪をかき上げ、俺を指さして叫ぶ。

「もう我慢できないわ!このクズ!何度失敗するつもりよ!先週もダンジョンのトラップ解除失敗していたじゃない!」

「本当に庇えんのう……鳥頭賢者じゃな」


 シアが水色の髪の毛先をいじりながら興味無さそうに答える。

 ちょっとイラっとしたからシアの枝毛を見つけて裂いてあげる。

「……枝毛を裂くなと言っておるじゃろうが!髪の毛が痛むんじゃぞ!」

 禿げたらどうする、と杖で再び顔面を殴られた。


「おいおい、カレン……もう我慢できないって?まだ昼から夜まで我慢しな」


 勿論俺とカレンはそんな関係ではない。

 そういう関係へのお誘いが来たら間違いなく乗るのだが、残念ながらそういうお誘いが来たことは無かった。


 軽口を返す俺に、心底引いた表情でシノブが自分の身体を抱く。

「き、気持ち悪い……の」


「まあ落ち着いてくださいまし。でも不思議ですわね、オルタニートさんは【賢者】なのに確かにトラップ解除の失敗が多すぎますわね」

「シーフじゃないからある程度は仕方ないけど、それにしても多すぎるわね」

「確かにトラップ解除専門家のシーフの方が得意じゃろうが、【賢者】であれば普通ここまで失敗はせんような気もするのう……」

 そしてエレノア、カレン、シアが首をかしげている所に、


「け、【賢者】から……変わってた……り?」

 シノブがなんてね、と笑う。

 

 みんなの動きがピタリと止まった。


「冗談はやめて頂戴。一月前の教会の鑑定で賢者だったのよ?」

 そうだ。こいつ本当に賢者なのか?と疑られて一月前も鑑定させられた。その時は賢者だった。

 

「まぁ、職業賢者とその人が本当に賢いかは別ですので……」

 教会の神父にそう鼻で笑われた事を思い出す。

 

「そんなにコロコロ職業が変わらないわよ……多分」

「じゃが、ジョブが変わる事もありえるしのう。【賢者】にしては愚かじゃと思わんか?どっちかというと愚者なんじゃが」


「「「「……」」」」

 パーティーメンバーが俺を見て無言で黙った。

 

「黙るなよ!怖くなるから辞めろよ!!」

「ねえオルタ、ちょっと鑑定してきなさいよ」


…… ……

「これが貴方の鑑定結果になります」

「……え?」


 無理やり連れてこられて受けた鑑定結果に俺は震えた。


 教会から出た所でカレン達が寄ってきて俺に尋ねる。

「どうだった?愚者になってたかしら?」

「まぁ……職業が変わる事なんて一生に一度あるかないかじゃからな」

「け、結果……は?」

「どうでしたの?」


 俺は大きく笑った。

 

 笑ってごまかすしかない。


「どうでもいいじゃないか。そんな事より冒険行こうぜ!」

 そんな事より野球やろうぜ!くらいのノリで押し通そうとする。

 

「「「「……」」」」

「貸しなさい!」

 俺が持っていた教会のステータス転記票がカレンに奪われる。


「や、やだぁ……見ないで。エッチ……!」


「「「「こ……これは!?」」」」


 職業欄は【賢者】から謎の職業【ヤクタターズ】に変わっていた。


 ステータスはどれも一桁、レベルは1。上限も1。

 魔法無し、剣技無し、知識無し。


 ステータス大幅ダウン、覚えた賢者のスキルも魔法も知識も……


 俺は全てを失っていた。


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