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 -6 『尾行の理由』

「ミゲル……貴方まで私をはめようとしたの!?」


 私が問いかけると、ミゲルは不機嫌そうに眉を吊り上げながら言い返してきた。


「はあ? なんのことだよ」

「いや、だから……私をひっとらえるつもりだったんじゃ」

「そんなことしねえよ」

「じゃあなんでここに? しかもそんな恰好で」


 純粋な疑問を投げかけた私に、ミゲルは少し気まずそうに視線をそらして頬を掻いた。


「べ、べつになんでもねえよ」


 何でもないわけがない。

 現に、他の外套の男たちもミゲルを心配するように集まってきていた。彼が、その仲間と何かをしていたのは間違いない。おまけに後を追ってくるようにユーステインも駆け寄ってきている。


 ちょっとした集まりができてしまい、人の多い市場でもやや目立ってしまっていた。


「これは一体どういうことだい。説明してくれないか」


 言ったのはエルクだった。

 どうやら彼も知らないことらしい。ミゲルとユーステインを交互に見つめ、彼らの前に立ちふさがった。


 凄むような目つきで睨まれ、ミゲルが気まずそうに視線を泳がせてユーステインへと助けを求めた。エルクもユーステインへと視線を移すが、しかし彼はいたって物静かに佇んでいる。


「……どうもこうもない。たまたま、会っただけ」

「たまたま、そんな大人数で僕たちをつけていたのかい?」

「……彼らは王国兵の人たちさ」

「王国兵?」


 外套を被った男たちがミゲルの傍に集まる。


「親父の兵をちょっとばかし借りてきたのさ」と何故か胸を張るようにミゲルが言う。


「どうして彼らが」

「そりゃあ……ほ、ほら。一国の王子が警備もなしに出歩くなんて万が一があったら大変だろ? そのために陰ながら警護してたんだよ」


 ミゲルの言葉はやや上擦っていたが、まだ少しばかり説得力はあった。しかしそこにミゲルやユーステインが同行する理由が見当たらない。それに関してはエルクも未だ不審がっていた。


 エルクはしばらく逡巡した風に頭を垂らすと、しばらくして「なるほど」と顔を持ち上げてミゲルたちを見やった。


「監視、か」

「監視? どういうこと?」


 王族を監視だなんてなにか深刻な問題なのだろうか。

 私の不安げな問いに、振り返ったエルクは優しく微笑むように言う。


「今度、学院で舞踏会が行われるんだ。毎年恒例のものなのだけれどね」

「舞踏会?」


 思っていたよりもまったく深刻じゃない言葉が出てきて逆にビックリしてしまった。


「実はそこに出るためには二人一組にならないといけないのさ。基本的のその組み合わせは男性側から申し出るもので、この時期になると僕たちは相手を探さないといけなくなるのさ」

「……へえ」


 だからなんだというのだろう。


 ミゲルもユーステインも、家柄で言えばこの国の三大勢力の一つといっていいくらいだ。なにしろ軍事と立法のトップの子なのだから。将来はその役職を継ぐ可能性も大いにある有望株だろう。そんな二人なら、わざわざエルクを監視などしなくても相手候補なんて引く手数多だろうに。


「ミゲルは素行が悪くて付き合いのいい異性がいないんだよね。先輩も本ばかりと仲良しであんまり女友達がいるようには見えないですしね」

「つまり……ふたりとも相手がいなくて困ってるってわけ?」


 うぐっ、と気まずそうにミゲルとユーステインが顔をしかめた。


 どうやら図星らしい。

 それで、唯一普段まともにしゃべったりしている私に目を付けたということか。


 しかし監視するほどのことなのだろうか。私はまだ誰からも誘われてなんていないし、そもそも学院生活は今年が初めてなので舞踏会の存在すら知らなかった。


 というか、わざわざ兵まで動員してストーキングしてくる必要はあったのだろうか。あまりに大事になっている気がするが。


「エルクは抜け目ない奴だからな」

「……抜け駆けはしない。昨日、そういう協定をしたはず」

「どういうこと?」


 ミゲルとユーステインの言葉に私が小首をかしげると、エルクはややいたずらに笑ったような口許で「さあ、なんだろうね」と呟いていた。


 まあ、舞踏会とやらの相手を必ず選ばなくてはならなくて焦っているのだろう。男子生徒というのは大変なものだ。


 私としては、舞踏会なんて行ったことがないからあまり乗り気ではないのだが。ナターリアだった頃もそういう面倒ごとは嫌がって出なかったから、多少のダンスレッスンはしたものの、まともに踊ることはできないだろう。


 ――うーん。私としても舞踏会は出たくないなあ。でも、二人のためにも一緒に出てあげたほうがいいのかなあ。


 断ったら断ったで罪悪感が生まれそうだ。

 かといってへたくそな舞踏会にも出たくない。


 葛藤が私の中で渦巻く。


 そんな迷っている私の前に、ふとエルクが歩み寄ってきた。身長差で覆いかぶさるようなほど近くまでやって来たかと思うと、急に彼は膝をついて私の手を取ってきた。


 そうして横目にミゲルたちを見やると、


「でもすまない、二人とも。この子はもう僕と一緒に出る約束をしてしまっているんだ」

「ええっ!?」


 ――なにそれ、聞いてないんですけど!!


 急なエルクの発言に、ミゲルやユーステイン以上に私がひどく驚いてしまっていたのだった。


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