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 ー7 『なんだかんだで』

 屋上菜園は順調だった。

 数日が経った頃にはもう芽が出始めているくらいで、一日ごとに少しずつ成長していく様子を見守っていくことに私は楽しみを覚え始めていた。


 お父さん曰く、生育がかなり早い小カブらしい。これなら収穫もそう遠くはないだろう。


「いい子に育つのよー。ふふっ、我が子の成長を見守るってこういうのかしら」


 にんまりと笑顔を浮かべながら水をやる私の後ろで、はっ、と鼻で笑う声が聞こえた。


「どうせ食べる癖になにが我が子だよ」

「愛情っていうものが湧くのよ、こういうのには」

「食べちまえば一緒だろ。話しかけたところで野菜の味が変わるわけもない」


 相変わらず、屋上には不良生徒の彼が昼寝をするために居座り続けている。


「わかってないわね、ミゲル。野菜だって生きているのよ。こういうのはね、甘くなれ甘くなれって言えば野菜も甘くなるし、大きく育てって言えばそれに応えてぐんぐん育ってくれるのよ」


 私が自信満々にそう返すと、不良生徒は馬鹿にした風に口角を持ち上げながら哀れんだような目を私に向けていた。


 不良生徒――彼の名前はミゲルというらしい。


 ミゲル=ノーベルザーク。

 級友が話していた『ノーベルザークの悪童』とはまさに彼のことなのだろう。


 このセントエルモス学院に入ってからほとんどの授業をさぼっている根っからの悪童とのことだ。この学院で何か物が壊れたり悪いことがあると、まず真っ先に彼の名前が過るくらいには信用のない生徒らしい。彼に直接聞いたわけではないが、級友の女の子たちがそう教えてくれた。


 私が彼の居座る屋上に通うようになってから、級友たちは「大丈夫?」としきりに心配してくるようになったが、いまのところは何も問題がない。ミゲルはいつも、休み時間に私が訪れると決まって昼寝をしているだけで、これといって何かをしてくることもなかった。


 たまに目を覚ましては、さっきのように挑発的な悪態を漏らす程度か。しかし私はそれくらい軽くいなせるので、やはりまったく不都合なんてものはなかった。


 ミゲルの方も、最初は散々に追い出そうと威圧を向けてきていたが、私が全く引かないと悟ったのか次第に諦め、むしろ暇つぶしとばかりに私の農作業を眺めることが多くなっていたくらいだった。


「お前、そんなの楽しいのか?」

「私も最初はこんな土いじりの何が楽しいのかって思ってたけど、やってみるとけっこう楽しいわよ。作物ができあがると、自分の努力が報われたみたいというか……なんか達成感があるのよね」

「へえ……」


 横たわりながら眺めてくるミゲルの物言いはまるで興味もなさそうだったが、いつしか私に対するトゲもほとんどなくなっていた。


 みんなが話しているほどの不良、という印象は正直のところあまりない。ただひねくれているというか、睡眠欲が強いだけのさぼり癖がある子っていう程度だ。


 ――まあ、とにかく菜園は順調ね。これならもう少し面積を増やしていろんな種類の野菜なんかにも手を出してみるのもありかも。自家栽培で食料調達できればいつでも美味しいご飯を食べれられるようになるし、ゆくゆくはこの屋上一面を野菜農園に、なんてことも……。


 屋上中が緑いっぱいに生い茂る様子を妄想し、つい顔をにやけさせてしまった私は、次なる野菜候補を考えることにした。


「ねえミゲル。私、これからちょっと行く場所があるから代わりに水あげといてちょうだい」

「ふざけるな。そんなことするくらいだったら踏み荒らしてやるよ」

「それじゃあよろしくね」

「あ、おい。聞いてるのかよ!」


 寝ころんだまま顔だけを持ち上げてミゲルは私が見えなくなるまで何か言っていた。けれど私は気にせずにそそくさと立ち去り、屋上の階段を下っていったのだった。


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