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 -4 『外れ者』

 よくわからない疑いは晴れた私だが、相変わらず奇異の目で見られることには変わりなかった。貴族の一部は私を相変わらず「ゴリラ」を見るような目で見てくるが、もう気にしないでおくことにした。


 ――今に見てなさい。高学歴を手に入れて大金持ちになったら、貴族といえども偉そうな口をきけなくしてやるわ。庶民に追い抜かされるなんてどんな気持ちかしらね。


 なんて適当に思ってあしらうことにしている。


 受験という狭き門をくぐってきた私の方が明らかに勉学の成績などは上なのだ。彼らはろくに勉強せずともぬくぬく進級してきたおかげで、まるで学力を伴っていない生徒も少なくない。まさしく、貴族という地位を笠に着て威張っているだけなのだ。


 しかしそういった人間は日陰者のように心象が悪くなる。私がエルクと一緒にいることが多いせいもあって、むしろその一部の貴族生徒たちは陰口を振り回す不良生徒として見られるようになっていた。


「貴族だからといって他人を下に見るのはよくないよ」とエルクが注意をしてくれたり、「リーズさんは努力してこの学院に入ってきた素敵な人です。悪く言うなんてひどいです」とクルシュがすかさず励ましてくれたりしたが、私としてはなんとも複雑な気持ちだった。


 ――貴族だから、か。


 前世の私が聞くと何と答えるだろうか。


 それからもクルシュが分け隔てなく接してくれたり、なにかと学院の廊下で出会うエルクと話している姿を見た同級生たちが、「どんなことを話していたの?」と興味深げに話しかけてくることも増えた。そうしていつの間にか、自然と会話をする級友みたいなものが私にもできていたのだった。


 思えば、こんなにも同年代の子たちと話すことなんてなかった。それは前世を含めてもだ。ずっとお屋敷に引きこもって、食べては寝ての生活ばかり。


 ついさっきの授業の内容や、先生の話。それに恋バナなんてものも。まるで本当に私がまっとうな学生生活を送れているみたいだ。いや、実際に送れているのだ。


 ことさら、私はエルクと相対するごとに「何でいるのよ」といった風に邪険に扱うので、他の女子からは「リーズさんはエルク様には特別な想いは持っていないんですよね」なんて認識されているらしい。おかげでエルクとよく一緒にいる私に「エルク様ってどんなものが好きなんですか」だとか「エルク様は普段どういった風にお話しするんですか」だとか、そういった話を多く持ちかけられた


 どうやらこの学院、相当な数のエルク好きがいるらしい。


「そんなに好きなの? 彼のことが」


 休み時間。私が呆れ調子に尋ねると、同級生の貴族少女は瞳に星を輝かせたように両手のこぶしを握っていた。


「当然ですよ。だって一国の王子様ですし、そのうえ誰にでも分け隔てなく優しく接してくださるんですもん」

「それにイケメンだしねー」

「そう!」


 他の女子までが混ざって華々しい会話を咲かせていく始末。

 彼女たちからしてみればまさしく王子様なのだろうけれど、私にはその片手に死神の鎌を持っているように見えて仕方がないのだ。彼に気づかれれば私は処刑の未来があり得るのだから。


「それじゃあそれじゃあ、リーズさんは誰が好きなの?」

「へ?」


 話半分に聞き流していたら、いつの間にか変な話になっていた。


「いや、別に――」

「リーズさんって意外と強気なタイプがいいかも?」

「あ、わかります。ぐいぐい押されると逆に弱くなっちゃって、みたいなですよね!」

「そうそう!」


 随分と好き放題に言ってくれている。


「最初はそんなに興味がないって思ってたのに、向こうからぐいぐい来られるとつい気になりだしちゃって」

「そうですそうです! それで、逆に向こうが来なくなったら無意識にこっちから目で追うようになってしまったりするんですよね! そうして自分の中の恋心に気づいていく、とか」


 ――なによそれ。そういう恋愛物語でも流行っているの?


 案の定、彼女らの机の上には『狼少女の色めき恋慕』という表題の小説がいたるところに転がっていた。まあそういった色めいた話に興味を持つ年頃ではあるだろう。それが他人話ともなれば乙女の妄想が止まらないのだ。


 とはいえ私はそういったお花畑とは縁がないと思っている。

 なにしろこの学園生活。明日には首が飛ぶかもしれないスリルと隣り合わせなのだ。


「もしそういう相手だったとしたら……この学院だと誰だろう」

「誰でしょうね」


 まだ続いているらしい。


「強気って言ったら……あのノーベルザークの、とか?」

「ええっ……それは強気というか、ただの悪い人ですよ……」


 ――ノーベルザーク?


「誰なの、それ?」

「あー、そっか。リーズさんは入学したばかりだから知らないよね。最近は教室にすら来なくなったし」


 女子生徒の口ぶりからして、その人物が級友なのだろうということは予想がついた。しかし私がこの学院に通い始めてもう半月は経っている。それまで一度も登校してこないとはどういうことだろう。


「引きこもり、とか?」

「ううん、ちょっと違います」

「なんというかね、ノーベルザークの悪童、って呼ばれてて。なんていうのかなあ。やさぐれた子で」

「不良生徒ってことね」


 なるほど、と理解した。


「彼はあんまりいい噂がないんだ。物を壊したり、危険物を持ち込んだり。そういう悪さばかりしてるっていう話なんだ。みんなは何か悪いことをしてるって思われたくないなら近づかないほうがいいって言ってる」

「そんな生徒でも退学にならずにいられるのね」

「一応、それなりに良い家柄だから……」


 学院側がその家に配慮して退学はさせていない、ということか。授業に出ずとも在学していられるなんて良いご身分だ。


 きっとそんな不良生徒に絡まれでもしたら相当に面倒なことになるに違いない。しかしまあ、教室にすら顔をしていないのなら私が会う機会はないだろう。そんな見るからに危なそうな人に近づいていく必要もない。


「私には関係のない話ね」


 そう履き捨て、私はすっかり興味をなくしたのだった。


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