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第94話 あれ?なにか忘れてなかったか?

師匠のところへ修行に行くようになって数日が過ぎた。オレはまだ2人の闘いを見ているだけだ。一方コタロウの方はどんどん先へと修行が進んでいく。



「いいか、お前のようにスピードが武器のヤツは一撃で決めようとするなよ。常に2手3手先を読んで、奥の手を隠しておけ。絶対動きを止めるなよ、避けたらすかさず攻撃に転じるんだ。直線的に動くなよ、円の動きをしろ」



おお、なんだか主人公の特訓っぽいなあ。そしてそれを見ているだけのオレ、なんだか立場が逆の様な気もするんだけど・・・



いや、誰が主人公なのかはひとまず置いといてオレはオレでこれでも上達しているのである。2人の修行を見ている事により、剣士としての攻撃パターンをそれも超達人のものをどんどんデータとして蓄積しているのだ。え?そんなに膨大なデータが蓄積されていったら、オレの脳がパンクするんじゃないかって?その点は大丈夫だ。実は、主にオレの視覚から取り込まれているデータは、一旦オレを経由した後に電脳界に設置してあるサーバーへと転送されている。サーバーの容量はオレの数十万人分だそうで、十分余裕がある上にもし足りなくなっても後から増設も出来る。完璧だ。



『シュウの容量は小さいけん、つくっとってやったよ』アイはにっこり笑いながら言う。その屈託のない笑顔からは1ミリも邪心を感じない。100パーセント善意で言ってくれているのだろう。それは分かっているのだけど、やっぱり傷つくものは傷つくのである。



ちなみにコレもこの世界では能力スキルの一種なのだ。スキル名は「容量拡張」である、そのまんまの能力名だ。この世界ではとても便利で奥が深いスキルであるが万能ではない。



アイに一度、戦闘時に全ての判断をしてくれるスキル作成をお願いしたのだが「できない」と言われた。なぜかと聞くと「そんなの神様でもムリやけん」とのことだ。つまり、通常戦闘に於いて相手が格下であったりそもそもスキルを持たない獣などの場合は、数秒程度観察すれば固有のクセなどの戦闘パターンを把握しそれに対処できる。ところが超上級者同士の戦闘は互いに希少レアスキル持ちであり、相手に読まれるようなクセはない。結果として、全ての局面において最も有効な行動を選択させる事になる。



「え?それでいいんじゃない?」




するとアイは首を縦に振った。「最適解が正解じゃーないんよ」「え?」

つまりお互いが同じ選択をすることになり、いつまでたっても決着がつかないのだ。言われてみるとそうだよな。



「高次元の戦闘に於いては、客観的に見て悪手だと思われる選択が結果として戦局を決定することが往々にしてあるんよ」



その時は何の事を言っているのかよく分からなかったが、師匠の戦い方を何日かみている今なら確かに分かる気がする。いや、全然分からないと言った方がいいのか・・・









師匠とコタロウの組手の方に目をやってみる。コタロウの動きは日増しに良くなっている。非常に滑らかな流線型の動きだ。まるで精密機械のような正確な動きで見ていて惚れ惚れとしてしまう。それに対して師匠はあまり動かない。傍で見ているとパッと見は攻勢を掛けているコタロウが防戦一方の師匠を押しているように見える。ところが見ているウチにそうではない事がすぐ分かる。コタロウは効果的な攻撃を次々と繰り出すが、師匠はそれを軽く往なすだけで簡単に躱している。そしてその攻撃に合わせてカウンターを叩きこむ。軽く放たれたそのカウンター攻撃であるが、タイミングや打ち込む角度が完璧なのだろう。コタロウは結構なダメージを喰らっていた。だが、コタロウも元々戦闘の天才である。あっという間にそのカウンター攻撃のタイミングを覚えてしまい、なかなか喰らわなくなった。



ところが、ところがである。カウンターが躱されるようになったと見るや師匠の攻撃はまた次の段階に入る。そして、コタロウはまた攻撃を喰らうようになってしまった。どういう攻撃だって?それは口では説明できない。何しろ全く予測がつかないのだ。何の規則性もないどころが合理性もない動きをしている。



例えば、攻撃を繰り出すコタロウに急に背を向ける。その無防備な背中に攻撃が当たる?と思った瞬間に、師匠は振り向きもせずコタロウのこめかみへ正確に一撃を加える。かと思えば唐突にコタロウと打ち合いを始める。コタロウは衝打をジャブのように高速で放つ、ジャブとは違って一発一発が必殺の威力を持っていて当たれば一たまりもないのだが・・・

そんなコタロウと真正面から打ち合っても全く危なげなく全ての攻撃をただの木刀でいなす師匠はやはり凄い。合間にカウンターを放つ、コタロウもこのカウンターはもうほとんど喰らわなくなっている。そんな師匠がときどき気の抜けた攻撃を出す、無造作に振り上げた木刀をただ振り下ろすだけだ。オレでも避けられるんじゃないかと思うそんな攻撃を

コタロウはどうしても喰らってしまうのだ。最初のウチは、なぜコタロウがそんな攻撃を喰らうのか全然分からなかったが、今ならなんとなく分かる。あくまでもなんとなくだけであるが・・・



そんな師匠の動きをオレの剣術スキルは逐一記録し、解析を進めているのだが今のところ解析不能だ。師匠の動きには、全く規則性も見いだせないし仕方がないのかもしれない。ちなみに、これを解析できればオレの剣術スキルは上位互換スキルである剣豪スキルへとバージョンアップされるのだ。



そして恐るべきことに師匠はこの剣術スキルをほとんど使ってないのだ、そもそもスキル?なにそれ?って位なもので自分が強くなる以外には興味がない人なのだ。じゃあ、スキルの持ち腐れじゃないか?とも思うが、それとも違う。そもそも、師匠は自分が修行を積んでいる過程でいつの間にか超人的な戦闘力を保有するに至り、剣豪スキルを取得している。つまり、スキルを使わなくても元々とんでもなく強いのだ。人間でありながら、それだけの強さを身に付けられたのは師匠の持って生まれた格闘センスと壮絶な修行の成果だとは思うが、当の本人はあっけらかんとしていて「やっぱり、つえーヤツとどんどん戦いたいからな。気が付いたらこんなんなっちまったよ」とまるでどこかの戦闘民族のような事を言っている。



まあ、本物の格闘家というものはどこか浮世離れしているものなんだろう。オレには一生かかっても理解できなさそうだが・・・





『シュウさん、こんにちは』

『あ、トキさん。こんにちは』



するとトキさんから念話が入る。なんか色々あったから久しぶりに話す気がするなあ。



『明日がお約束の日ですが、準備の方は進んでいますか?』

『も、もちろんですとも!』




や、やばい。すっかり忘れてた・・・




『忘れていたようですね、何かお手伝いしましょうか?』

『よろしくお願いします』




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