第93話 特訓開始
聖獣ヴァージョンとなったコタロウと師匠が対峙する。と、コタロウの姿が消え一瞬のうちに師匠の後ろに回る。
さすがだな、コタロウのやつ雷の賜物を使いこなせるようになってきた。剣術スキルを使っても殆ど見えないくらい速い、まさに電光石火の動きで師匠の首筋めがけて襲い掛かる。ところが師匠はくるりと反転すると無造作にコタロウを袈裟がけに斬りつける。
「ニャ?!」
咄嗟に急所を庇い致命傷は避けたが、戦闘不能だ。すかさずヒールウォーターをかけてやる。
「お前は、速いだけで動きが単純過ぎるんだよ。もっと緩急つけてフェイントを織り交ぜないと簡単に読まれるぞ」
そうか、そう言えば最後の洞窟で戦ったリュウガも緩急のつけかたが上手かったよなあ。
コタロウはオレに治療されながらも師匠の言うことに耳を傾けている。その天賦の才により、今まで一度も誰かに教えを乞うたことのなかったコタロウがむさしさんという師を得て初めて戦い方を学んでいる。どんどん強くなっていくのを目の当たりにしながら、オレはそんな2人を見ているだけだ。師匠曰く、「コタロウは、まあ基本は出来ているからな。だが、お前はまず見て目で覚えるのが先だな」
そう言った訳でオレは道場の隅で座って見学しているだけだ。だが、オレは2人の戦闘を見ているだけでも強くなれる。実は剣術スキルの中にモーションキャプチャーという能力があり、オレを通して得た視覚情報を元に動きを解析しオレの体格、筋力、その他のステータスや戦闘方法に合わせて最適化された動作が適宜、プログラミングされるのだ。元の世界の技術より何世代進んだ技術だよ、と思うが事も無げにつくってしまうアイはやっぱり凄い。
師匠に稽古をつけて貰っているコタロウであるが、みるみるウチに動きが良くなっているのが一目で分かる。動きに緩急をつけながらも、フェイントを織り交ぜ的を絞らせない動きをあっという間に身に付けて行っている。ところが、そんなコタロウを相手にしながらも師匠はまだまだ余裕の様子で対応している。やはりとんでもない強さだ。
「まだまだだな、お前のマックススピードを100とするなら通常は10~30の間で戦ってみろ。それでも大抵の敵には後れを取らないハズだ。最大でも50までしか使うなよ。スピードは武器にはなるが、見せ過ぎちまうと相手に対応される。マックススピードは、あくまでも奥の手だ。使っていいのは確実に仕留められる時だけだからな。
「ニャ!」
師匠はその風貌とは裏腹になかなかの理論派だ。口調は乱暴だが、丁寧に分かりやすく教えてくれるし習った事をすぐに実践できる状況を作り出してくれるのでコタロウでなくても上達は早いだろう。そして本人の動きは、実に無駄がなく洗練されている。一見無造作に見える動きも、全て理に適っていて相手の動きを見切ったうえで最小限の動きで最大限の効果を得ている。まあ、これもオレの剣術スキルがあって初めて分かることなんだけどな。
ぐう・・・
師匠とコタロウの特訓を見ていたら、いつの間にか夜になっていた。道理でお腹も空くはずだ。どうしようか?夢中で特訓を続けている2人に声を掛けるのもはばかれるが、コタロウもお腹空いているだろうし・・・
「おう、腹減ったな。そろそろ晩飯にしようか?」
さすが師匠である、オレのお腹の音をコタロウの相手をしながらも聞き逃さないとは。これも常に周りの状況を把握できているからであろう。多分・・・
「はい、ご飯なら私がストックしているのがあるのでそれを食べましょう」
「おう、それは助かるな」
オレはすかさず、アイテムボックスからラーメンを人数分取り出して全員の前に並べる。ラーメンならコウノスケさんと一緒に作ったのがまだまだ沢山ストックしてある、本当にこのアイテムボックスというスキルは便利だな。この世界に来て様々なスキルに助けられているが一番助けられているのはこのアイテムボックスに間違いない。現世でも国民的人気マンガで未来からきたネコ型ロボットが大活躍するという話があったが、そのネコ型ロボットの持っている一番便利な道具は、空を自由に飛べる道具やどこにでも行けるドアでなくなんでも入っている不思議なポッケじゃあなかろうか・・・
師匠は、目の前に出されたラーメンに箸をつけてすすり始める。初めて見たラーメンにも全く躊躇しない。やはり生っ粋のヒノモト国民だ。
「な、なんじゃこりゃああああああああ!」
師匠は目を見開いてラーメンを凝視している。どうしたんだ?何かまずかったか?
ところが次の瞬間、師匠は猛烈にラーメンをすすり始めた。
「おかわりだ」
「あ、はい」
あ、と言う間にスープまで飲み干した師匠にまたラーメンを渡すとすぐに食べ始める。どうやら相当気に入ったようだ。
「ふう、こんなに美味いメシは初めてだ。お前を弟子にして良かったぜ」
結局、12杯も食べてしまった。まあいい、まだまだストックは沢山あるからな。オレは1杯しか食べないが、コタロウは7杯、ガルは9杯、ギルは5杯、ゴルも10杯食べている。次からは、普通のドンブリじゃなくてもっと大きな容器にしよう、でないと用意が大変だ。
「じゃあ、また明日も来いよ」
「あ、はい。今日はどうもありがとうございました。またよろしくお願いします」
師匠に礼を言うと家路に着く、途中今日の教えを反芻しているといつの間にか家に到着していた。
「ただいまー」
しーーーん・・・
もちろん、今日もみんな寝た後だった。それどころかコジロウさえも寝ている。一体いつになったら、オレに初夜は訪れるのだろうか。




