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第89話 家に帰ってみたら

興奮冷めやらぬまま、オレとコウノスケさんはラーメン店開業への打ち合わせを進める。

二人ともテンション高めなので、多少会話がおかしかったが特に問題はないだろう。



「コウノスケさん、麺茹ではこうです、こう!このザルをビシっと振って湯切りするんです!」

「こうですかああああ?」

「違う、コウノスケ!何度言ったら分かるんだああ」

「ああああああ、すみません。こうですかあ?こうでいいんですかあ?」



ラーメン屋は麺が命、すなわち麺茹でが全てと言っても過言ではない。日本人は無類の麺好き民族だからな、恐らくヒノモト国民も同じ国民性だろうからソコは絶対に妥協できないのである。そう言えばアルデンテって言葉があるがこれにこだわっているのは日本人くらいなものらしいな。



その他の調理、スープや醤油ダレ、具材などについてはコウノスケさんの技術なら全く問題ないだろう。接客については言わずもがなである。



そうやってコウノスケさんは、オレ(というかオレのスキル)監修の元、あっという間にラーメンの調理技術を身に着けていった。味見役のコタロウ達は夢中でコウノスケさんの作ったラーメンを食べている。うん、味には問題なさそうだな。



打ち合わせを一通り終えオレは松田屋を後にする。開店資金については、牛丼と米相場で大儲けしているので全く問題はない。またまた、EDO中の住民においしい食べ物を提供してやるぜ。








「ただいまあ」






しーん・・・





「あれ?みんな?」





ご主人がご帰宅というのに誰も出迎えに来ないではないか。一体どういう事だ?





「お帰りなさいご主人様ニャア」

「あ、コジロウ!ただいま」




するとコジロウが一人で出迎えてくれる。あれ?他の人達はどうしたんだ?



「ご主人様が遅かったのでもう、みんな寝ちゃったニャア」



え?もう、そんな時間だっけ?



「あ」



オレは、コタロウと顔を見合わせる。確かに今は夜中に近い、現世の時間で言えば夜の10時過ぎくらいだ。だが遅いとは言ってもまだ寝るほどではないだろう。ところが、ここヒノモト国は現代日本に比べればまだまだ文明は発達しておらず日が暮れたら割とすぐに寝る習慣があるのだ。ちなみに、この世界に時計は存在しているがあくまでも魔導具としてであり一般的ではない。EDOの一般市民は、大体の時間感覚で行動しているのだ。



もちろん、電脳族のアイはそんな事はないのであるがサザエちゃんとワカメちゃんに合わせて寝てしまったそうだ。まあ、こっちの人達の生活に慣れて貰った方が色々と都合はいいか。



「あーーー!」



つまり今夜もアイはオレと別々に寝るって事だ。新婚なのにいつになったら初夜を迎えられるんだ?イヤ、もう初夜とは言わないのか?そんな事はどうでもいいが・・・




そんな事を思いながら悶々としていると、いつの間にか眠ってしまっていた。











「ご主人様、おはよーーーー」



オレ達が寝ている部屋の扉をバーーンと開けてサザエちゃんが入ってくる。朝から結構テンション高めだ。元々暗い性格のオレには、どうも慣れないのだがそんな事にはお構いなくオレの方に近寄ってきて顔を覗き込む。



「昨日は随分帰りが遅かったねえ」

「あ、その仕事が終わらなくて・・・」



この世界に来てから随分、こんな目に遭ってきたオレだがまだ慣れない。やはりカワイイ女の子に近寄られるとどうしてもドキドキして挙動不審になってしまうのだ。



「知ってるよ。ラーメンって料理を作ったんでしょ?アイちゃんから聞いたよー、今度食べさせてね」




そうなのだ。実はオレの行動は、電脳界からアイに見られている。まあ、携帯型WiFiを持っている限りなのだが。あれ?じゃあアイはEDOにいる自分と電脳界にいる自分の2人分の生活しているの?それってめちゃめちゃ大変じゃない?と思うのだがそれは大丈夫だ。今は、EDOにいるアイがほぼ本体で電脳界にいるアイの肉体は専用の機械に入れられてコールドスリープ状態になっているそうだ。



元々、電脳族はほぼ頭脳労働により生活が賄われているのでそう言ったことは珍しくなく脳内データが蓄積され過ぎて処理しきれなくなった場合にそれを整理するために長期睡眠をとるそうだ。PCで言うところの最適化ってやつに近いんだと思う。



眠っているの?じゃあ意識がないんじゃ?と思うが、今のアイの状況は半分覚醒している状態だ。つまり体は眠っていて意識だけが起きているってことなんだな。





と言うことでオレは、常に見張られている状態なので浮気をすれば絶対にばれる。まあ、もともとするつもりもないのでそれはいいのだが。逆に何をやっているか分かるので現世で言うところの「あなた仕事仕事って言うけど本当に仕事なの?」「そうだよ、最近忙しくてさ」みたいなやり取りは全く必要ない。



これが、オレとアイが逆の立場だったら完全にストーカーだろう。だが美少女が冴えないダンナを見張るのは健気なオンナと言われ余裕でセーフなのだ。




「さあさあ、朝ごはんだよー」



ぼうっと考え事をしていると、サザエちゃんはそんなオレにお構いなく手を引っ張って食堂に連れて行く。それだけでドキドキしてしまうオレには、やはり浮気はムリというものだろう。




「うわあ」



連れてこられた食堂のダイニングテーブルにはパンに紅茶、皿にはベーコンエッグとサラダが並べられていた。



「凄いね。全部洋食なんだけど、これどうやって作ったの?」

「うん。シュウはヒノモト国の普通の朝ごはんよりもこっちの方が好きかなと思ってコウノスケさんのところで材料買ってきて作ってみたんよ」



実は、この家には食堂が2つある。メインの食堂は畳敷きの大広間になっているがもう一つの食堂は洋室になっていて広さも程よいので普段はこちらを使うことにしている。真ん中に大きなダイニングテーブルがあり、趣向を凝らしたイスが10脚もあるので普通の感覚からすると大分広いのだが・・・


その立派なテーブルには、明らかに高価な皿とカップが並んでいる。コウノスケさんの店で買ってきたんだろうけど、これ絶対目が飛び出るくらいお高いんでしょうねえ。



コタロウ、コジロウはもちろんのことガル、ギル、ゴルもアイやサザエちゃん、ワカメちゃんも全員イスに座っているので早速頂くことにしよう。普通メイドって言ったらご主人が食べているのを後ろで控えていると思っていたのだが、別に構わないだろう。女の子に食べているのを見られるほうが余程気まずいしな。




「いただきまーす。うん、美味しい。イヤイヤこれ美味いなんてもんじゃないよすっごい美味しいよ」

「ほんと?良かったー」



そりゃー料理人のスキルを使っているから当たり前なのだが、全て食べたことがないようなクオリティだ。パンはクロワッサンだが、しっかりと生地にバターを練りこませて絶妙に焼き上げたのだろう。頬張ると口の中に素晴らしい香りが広がる。中までサックサクで

その食感だけでも美味しい。サラダであるが野菜は普通のレタスとかトマトとかキューリみたいなものを使っているのだが、どれも品質と鮮度がすごい。瑞々しい上に素晴らしい香りと味がする。それに自家製のドレッシングをかけているのだが、ワインビネガーにコショウと塩、それとエクストラバージンオリーブオイルのような植物油を混ぜて作ったのだろう。それがサラダとものすごく合う。ただのサラダをこんなにうまいと思ったのは初めての出来事だ。そしてベーコンエッグもまた凄い、ただ卵とベーコンを一緒に焼いただけなのにどうしてこんなに美味いんだ。黄身は表面だけを焼いて中は半熟フォークを突き刺すとトロっと中身がでてくる、そしてベーコンには見事な焼き色が付いている。これも頬張るとジュワっと良い肉の脂が口いっぱいに広がって最高にうまい。そして最後に紅茶である。これも最適な温度のお湯に茶葉の旨みを余すことなく搾り取ったであろう最高の淹れ方であった。



「はあ、朝からこんなにうまいご飯食べられるなんて幸せだなあ・・・」





現世では、一人暮らしだったから朝ごはんは一人で食べていた。まあ、朝ごはんと呼べるような代物ではなくパックに入ったゼリー状の栄養飲料を流し込んでいただけだったのだが。



朝から大勢で食卓を囲んで食事をするだけでも、贅沢な現代で最高の献立と美人の嫁。これはもう成功者と言えるだろう。はあ、異世界に来て最初はどうなるかと思ったが良かった良かった。



するとアイは、オレの方にニッコリと笑いかけながらこう言った。






「ねえねえ、ヒノモト刀はどうなったと?早く冒険行こうよ」


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