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第88話 新たなチェーン展開

「こんにちはあ、コウノスケさんいますかー?」



オレが店の奥に向かって呼びかけるとすぐにコウノスケさんがすっ飛んでくる。今では、すっかり大人気チェーン店オーナーでありEDOの中でも指折りの大金持ちになったと言うのにブレない人だ。



「あ、シュウさん。お久しぶりですお待ちしていたんですよー」

「コウノスケさんお久しぶりです。お店の方は益々繁盛しているようで何よりです」



現世でも人気飲食店がチェーン展開していく事は当たり前だったが、あまりにも急激に店舗数を増やし過ぎたために品質や人員の確保がおろそかになり、あっという間にブームが去って潰れていくのが当然だった。ところがコウノスケさんは、品質も人員の質も維持したまま店舗数を増やしていっている。競合店が他にないとは言え、これだけの成功を収めているのも当然の話であった。



「はい、お陰様でお店の数ですが、今はEDOで159店舗になりました。周辺都市にも30店舗進出しております。」



なんとEDOだけでなく口臭街道沿いにも出店しているそうだ。なんとか仕入ができる範囲内での出店を続けているそうだが、そのうちもっと大規模な工場を郊外に作る計画も進めないとな。



「また、お米の売買でもどんどんお金が入ってくるものですからシュウさんに約束のお礼が渡せて本当に良かったです」



う、またまた大金の匂いが・・・


オレが冒険者カードを渡すとコウノスケさんが奥に引っ込み入金処理をする。あ、シャリーンという音が聞こえてきた。



「あのー、一体いくら入金してくれたんですか?」


カードを受け取り恐る恐る聞いてみる。



「あ、今回は12億イェン入れさせて貰いました」



12億!?



現世では、途方もない大金だ。何しろ宝くじでも貰えない金額なんだからな。しかもこのお金はコウノスケさんが商売に成功する限りは定期的に入ってくる。まあ、オレも色々とお金の使い道はあるからここは黙って受け取っておこう。



「実は今回は、コウノスケさんに新しい商売のお話しがありまして・・・」

「は、新しい商売?」



途端にコウノスケさんの顔がパッと輝く。オレの話に俄然興味を持ったようだ。身を乗り出して話を聞こうとしてくれる。さすがはオレの見込んだ男だ。根っからの商売人だな。元料理人だけど・・・



「コウノスケさんには、新しい料理を作って貰います。コレは人気が出ますよ。ヒノモト国の国民食と言われるようになります」

「え?国民食?それはすごい」



コウノスケさんの目がますます輝いてくる。現世でこんな事言ったらまず詐欺だと疑われるだろうが、この世界ではそんな事はない。特にコウノスケさんにとって、オレは恩人でありその言葉は絶対的な力を持っているようだ。



「では、厨房を貸して頂けますか?」

「はい、どうぞどうぞ」



オレとコウノスケさんは松田屋の厨房にいた。ここは普段は使われてなくてコウノスケさんが牛丼のツユを改良するときのみ使用されるいわば試作室となっている。まずは材料だな。オレは自分のアイテムボックスから材料を取り出していく。



森ブタの骨

森ブタの肉

森レグホンの骨

森レグホンの卵

クロヤナギ

醤油

みりん

ラオウコンブ

  ・

  ・

  ・


と言った具合だ。この前、醤油トンコツラーメンを作ろうと思ってから集めたのである。

まずはスープ作りだ。トンコツや鶏ガラなどの材料は本来ならば、血抜きなどの下処理が必要なのだがこの世界ではすでに処理済だ。従ってそのまま各種材料を寸胴鍋に入れて水を注いだ後に火にかける。



よし次は麺を作ろう。まずは小麦粉だ。実はヒノモト国の小麦粉はそのほとんどが中力粉、別名うどん粉と言われるものだ。現世では、様々なラーメンの百花繚乱状態であった。その中にはラーメンなのかうどんなのか理解に苦しむようなものもあったのだが、今オレが食いたいのは所謂普通のラーメンなのだ。スープはトンコツでとったスープに醤油ダレで味付けされ麺は加水率低めの中太麺、それによく煮込まれたチャーシューと半熟煮卵がトッピングされているヤツだ。つまり小麦粉は強力粉かまたは準強力粉でなくてはならない。そこでオレはコウノスケさんに頼んで手に入れておいたのだ。聞いたところでは、なかつ国で盛んに栽培されているとの事で意外と安価に手に入れる事が出来た。なお、かんすいも同時に入手している。



そして忘れてはいけないのが製麺機である。低加水率のラーメンの麺は硬くでとてもじゃないが手打ちは不可能だ。そしてオレは何度も言うように手打ちできる麺じゃなくて機械打ちの麺で作ったラーメンがどうしても食べたい。ところがこの世界にはまだ製麺機はない。当たり前である、何しろ日本で言うところの幕末くらいの文明レベルなんだからな。だがオレにはアイとコジロウという強力な味方がいる。この2人にかかれば製麺機なんて簡単に作れてしまうのだ。



「じゃじゃーん。製麺きィィ」掛け声とともにアイテムボックスから製麺機を取り出す。コウノスケさんは、オレのモノマネには一切触れずに(当たり前だが)興味深そうに眺めている。



オレは麺の材料、小麦粉と塩、かんすいに水を手早く製麺機に入れて機械を動かす。この世界には電気はない、機械の動力は基本魔力だ。この製麺機も少し魔力を込めれば動かせる。



「いいですか?この工程の肝は水分量です。この固さを覚えておいてくださいね」



程なくして出来上がった麺のタネを取り出しコウノスケさんに手渡す。元一流の料理人であるコウノスケさんは、その固さを慎重に確認している。



よし、次の工程だ。と言っても後は機械任せなんだけどね。こねた塊をローラーで伸ばして後は裁断する。ガチャンと裁断されて麺が一塊出てくる。よし、これで麺は出来上がりだ。



続いて醤油ダレと煮豚のチャーシューと煮卵だ。これは一緒に作れる。醤油にみりんなどの調味料とコンブを入れて煮込む、一緒に糸で縛ったブタ肉の塊も入れる。ブタ肉の塊は一旦表面を焼いて旨みを閉じ込めておく。その間に半熟のゆでたまごを作ろう。やっぱり煮卵は半熟じゃなくちゃね。



全ての工程は、オレの料理人スキルによって滞りなく進んでいく。一度も作ったことがない料理なのにまるでベテラン職人のような手際の良さだ。これは凄い、今度半熟卵のオムライス作ってみようかな。なめらかな表面のオムレツをケチャップライスの上で割ると丁度良い半熟卵が出てきて全てを包み込む。口に運ぶとタマゴとケチャップライスとデミグラスがハーモニーを奏でる。アレは家庭では出来ない味だからな。



オレがそんな事を考えている横でコウノスケさんは、メモを取りながら全ての工程を食い入るように見ている。必要に応じて味見をしてしきりに頷いているが、もしかしてたった一回作ってみせただけでこの工程をマスターするつもりなのだろうか?どんだけ有能な人なんだよ。まあ、念のためにレシピを渡すつもりではあるがひょっとして必要ないのかも。



「よし、スープと具が完成した。じゃあ麺を茹でますよ」



麺茹で。ラーメンに於いて最もパフォーマンスが高い行為ではないだろうか?画一的な麺の茹で方が当たり前だった一昔前に、博多トンコツラーメンがもたらした功績はその圧倒的な濃度の白濁トンコツスープの他に麺の茹で加減を選べるという無料オプションと替え玉というお得感満載のサービスだ。



麺の茹で加減の選択肢と替え玉、この2つは絶対に外せないサービスだろう。だが、矢継ぎ早に受ける注文をこなしながら麺のゆで加減まで把握するのはかなり大変だ。現世では麺茹で機にタイマーが付いたものが出回っていたがさすがにこの世界では再現不可能だ。まあ、出来ないことはないがあまりオーバーテクノロジーを安売りしても良くないだろう。



「はい、はい。バリカタ、カタ、普通、やわ、バリやわですね」


コウノスケさんに、麺の茹で方と食感を一つ一つ説明していく。現世でも一流の和食の職人さんがラーメン業界に参入していくケースも増えてきているが、コウノスケさんは驚くほど飲みこみが早い。その上勤勉なものだから、一教えれば20くらい?いやもしかしたら30くらいになっていそうだ。



「よっしゃあ、出来たぞおおおおお」



目の前には、オレの大好きな醤油トンコツラーメンがある。白濁した茶褐色のスープにしっかり煮込まれたやわらかなチャーシュー。半熟煮卵もトッピングしてある。メンマと長ネギもこの世界には存在していたのでトッピングしている。(ちなみにメンマは、元々シナチクと言うそうで元の中国の呼び名の竹、略してそう言われるという説がある。この世界のメンマもなかつ国の竹なのでナカチクと言われている。)そして長ネギであるが、この世界には緑色のものと白色のものがそれぞれあり、それぞれミドネギとシロネギと呼ばれているのだ。オレはネギの白い部分が好きなのでシロネギをみじん切りにしてトッピングしている。



麺の硬さはカタだ。まあ、オレはいつもカタで注文していたからな。コウノスケさんと2人でテーブルに並んで座り早速頂く。早く食べないと麺が伸びるからな。



「!?」





もし現代人がこの世界に来たとして、最も困るのは何であろうか?オレが思うに一つ目はネット環境がないこと。そして二つ目は食事情だと思う。



ジャンクフードに慣れたオレにとっては、こちらの食事は基本的に薄味でなおかつワンパターンな味付けとなっておりいつも物足りなさを感じていた。そこへ、旨みたっぷりのラーメンを食べたものだから誇張でなく美味さに全身が震えたのである。



「ぷはあ」


気が付くとあっという間にラーメンを平らげてしまっていた。スープまで残さず完飲である。あまりの満足感にぼーっとして横のコウノスケさんを見ると全く同じ様相であった。コウノスケさんと目が合う、どちらからともなく近寄っていつの間にか二人は熱い抱擁を交わしていたのである。



「うおおおおおお、シュウさん。なんてもの作ってくれたんですかあああ?これは絶対ヒノモト国の国民食になりますよ。あんたの言うことはいつも本当だったああああ」

「コウノスケ、これをお前に託すぜ。いやお前だからこそ安心して託せるんだ」





傍から見たらオッサン二人が抱き合って訳の分からない事を叫んでいるちょっとしたホラーなのだが、その時のオレ達はどうかしていたのである。


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