第80話 新居にて
目の前で一人の美少女が、カワイイ女の子2人に抱き付かれたり髪を撫でられたりしている。美少女は恥ずかしげな顔をしているが満更でもなさそうだ。これが正に眼福というものなのだろう。それにしてもこの世界の女の子は、感情表現がどストレートだよなあ。天真爛漫というか。まあ、このコミュニケーション能力のおかげでアイは2人とすんなり仲良くなれたみたいだから結果オーライだな。
「ねえねえ、なんで奥様は私たちと同じメイド服着ているの?」
「あ、それ私も思ったー」
サザエちゃんに突っ込まれてアイは、一瞬困った顔をするがおずおずと答える。
「あ、あの。可愛かったから」
「きゃー、私もそう思ったー」
「かわいいよねえ、奥様もそう思ったんだー。一緒だねー」
アイの答えにまたまた大喜びで騒ぎ出す。アイも嬉しそうにしている。そう言えば、ずっと家に引きこもっていたから同年代の女の子と話すのも久しぶりなのではないか?何はともあれ仲良くやっていけそうでよかった。最初の修羅場からすると最高の結末だ。
「さてとお互いの紹介も済んだことですし我々はお暇させて頂きます。サザエさん、ワカメさんお二人のことよろしくお願いしますね」
トキさんはそう言い残すと一礼した後に去って行った。残されたオレは、まず家の中を探索することにした。
「ひええええええ、やっぱり広いなあ」
EDO城に比べたら、とんでもない広さって訳でもないがそれでも部屋数で10以上ある。それに加えてホテル並みの台所に、これまた宴会でもするのかってくらい広いリビング、広々とした大浴場も完備だ。
『にゃああああああ、コジロウついてくるニャ』
『兄ちゃん待ってニャア』
コタロウとコジロウは広い敷地にすっかりテンションが上がってしまい辺りを走り回っている。ガル、ギル、ゴルは「ご主人様の警護を完璧にしたいので、一先ず3人で屋敷内を見廻って内部構造を把握してきます」との事で消えてしまった。
「さてと」
オレは一人取り残されていた。女の子3人は台所で今日の料理を何にするか、わいわいと楽しくお話ししている。とても楽しそうだ、オレも仲間に入れて貰いたい。そうだ、アイはオレの嫁だしサザエちゃんとワカメちゃんはメイドさんだ。よし、主人のオレの言うことはみんな聞くに違いない。
「あのー・・・」
「あ、シュウさん今、忙しいんだけど何か用?」
「ちょっと料理をしているところだから、また後にして欲しいんだけど」
「シュウ、ちょっと待っとかんね」
ところが、オレが顔を出すと3人は声を合わせて邪魔者扱いする。何故だ?オレは主人じゃないのか?こんなに邪険にされなきゃいけないのか?
「3人ともオレのためにおいしい料理を作ってくれようと一生懸命なんだ。それを邪魔しちゃ悪いよな」
オレは誰に言うともなくそう呟くと、一人でこの家を探索していたのである。そして一しきり探索を終えると開いていた部屋の一つに入り一人で魔法の修行を開始した。
「ご飯できたよー」
サザエちゃんが呼びに来たのでリビングに行ってみる。そこには巨大マグロが一匹丸ごと捌かれていた。周りには、大皿にびっしりと刺身がまるで花びらのように盛り付けられている。
「これはねー。アイちゃんが捌いたんだよー」
「すごかったよねー。見事な身のこなしでさあ」
「え?まじで?」
信じられない顔で見やるとアイは訳あり顔で目配せをする。あ、なるほど料理人スキル
かー。それなら納得だ。つうかいつの間にか打ち解けてアイちゃんって言われてる。
それにしても見事な本マグロだな。まあ、こちらではマジロって言うのだが。
「このマジロはねえ、マスオさんが是非シュウさんにって獲ってきたんだよー」
「あ、そうなんだ。すごい見事なマジロだね。とってもおいしそうだ」
前世でも、行きつけの回転寿司屋で本マグロの解体ショーをたまにやっていたけど、ショーで解体するマグロって大体100キロくらいで意外と小さいんだよな。まあ、それでも本マグロだから美味しいのは美味しいんだけど。だが、マスオさんが獲ってきたこのマジロは本当に大きい。5,600キロくらいはありそうだ。大トロもたっぷりとある。
「「「「いただきまーす」」」」
早速頂いてみる。う、うまい。見事なサシの入った大トロは口に含んだ途端、とろける様に消えていく。もちろん新鮮そのものだから臭みは全くない。そして忘れてはいけないのが醤油とワサビだ。この世界にも醤油や味噌、塩などの基本的な調味料は当たり前にある。そしてワサビもあるのだ。チューブのヤツじゃなくてちゃんと生えていたヤツを卸した本ワサビだ。これが、最高にマジロの刺身と合う。
『う、うまいニャ』
『にゃあ、ご主人様、とってもおいしいニャア』
コタロウ、コジロウも大喜びで皿に顔を突っ込んでバクバク食べている。
『こいつは美味いぜ』
『美味しいねえ』
『大変、おいしゅうございます』
ガル、ギル、ゴルもいつもは上品に手を使って食事をするのだが、今日は我を忘れて直接皿に顔を埋めて爆食している。あ、アイはどうだ?
「めちゃめちゃおいしかー」
アイも大満足だ。さすがに箸は使っているが、ひょいパク、ひょいパクと次々に口に運んでいる。良かったマジロの刺身を気に入ってくれたようだな。
「ねえねえ、カンパイしようよー」
サザエちゃんがヒノモト酒を持ってきた。さすがは酒好き民族、まあオレはそれ程酒は好きじゃないのだが今日はおめでたいからいいだろう。
「「「「かんぱーい」」」」
そんな訳で宴会が始まったのである。若い女の子3人と飲むなんてこれぞまさに男の夢、ハーレム状態だ。まさかこんな事が現実に起こるなんて。
「・・・」
ところがオレはいつの間にか一人会話から取り残されていた。サザエちゃんとワカメちゃんは、アイを質問攻めにして3人で大いに盛り上がっている。そしてその輪の中に入っていけないオレは完全にかやの外にいた。
「ねえねえ、アイちゃんって南の方出身じゃない?確か八州の人がそんな言葉遣いだってお父さんから聞いたことあるんだ」
「あ、それウチのお父さんも言ってたよ。なんでも女の人が美人ばっかりだったって凄い嬉しそうに言ってた。伯方美人って言うんだよね」
なるほど、こっちの世界でも同じような言葉や風習があるんだな。丁度いい、そういうことにしとくか。さすがにアイが電脳族ってバレるのはやばいからな。オレはアイにそっと合図を送った。
「うん?なんばいいよっとね、ウチはそんな伯方とかから来たわけやなかよ。電脳界から来たんよ」
ところが、アイは完全に酔っぱらっていてオレの合図を見るどころじゃない。まさかこんなに酒に弱いとは。
「え?デンノーカイ?なにそれ?」
サザエちゃんが訝しげな顔をする。ヤバイ、なんとか誤魔化さないとな。どうすればいいんだ?いつも助けてくれるアイがこんな状態じゃあ、オレが何とかしないと。でもオレの話術じゃー無理っぽいな。くっそー、オレにトキさんみたいな会話スキルがあればなあ。
「えっと、デンカイ?そんな事言ってないよ。ねえアイ?」
「うん?ウチなんか言ったっけ?」
アイは色白の頬をピンク色に染めてぽーっとしている。とても可愛らしいのだが、そんな事を言っている場合ではない。非常にまずいのである。なんとか言い訳を考えないと。焦るが、少しも良い言い訳が思い浮かばない。出るのは冷や汗だけだ。
「デンカイって聞いたことあるかも・・・あ、ひょっとしてデンカイナダの事じゃない?そう言えばお父さんが南の方で漁をするときは、そこに行くって言ってたっけ」
ところが、ここでワカメちゃんが絶妙な勘違いをしてくれた。そうかあっちの方に確か玄界灘ってあったよな。これはいいぞ、これに乗っかるか。
「そうそう、よく知っているね。さすがに漁師の娘だけのことはある」
「ああ、伝海灘の事ね。それなら私もお父さんから聞いたなあ」
とサザエちゃんも納得してくれた。ほ、とりあえず何とか誤魔化せたようだ。




