第71話 この世界の理
「な、なぜ戦わなくちゃならないの?」
するとケンはまたオレの方をじっと見つめる。うん?
「兄者、バトンタッチだ。オレは細かい説明は苦手なのでな。任せるよ」
「はい、承りました」
トキさんがこちらに向き直り、話を始める。
「まず、この国に白虎様が降臨される事は10年以上前から分かっていました」
「え?」
生まれつき管理者であったケンとトキさんは、白虎が生まれた後の4聖獣での戦いになった時に少しでも優位に立てる様に他の国との国交を回復すべきと思ったそうで、それは同じく管理者であったトキさんのお母さんの助言だったそうだ。亡くなったトキさんのお母さんは、元の世界で言うところの巫女さんだったそうで特に予知能力に優れ生前に様々な予言を残していたそうだ。
「母上は、先代様になんとか鎖国を解くように説得したのですが・・・」
先代のバカ殿とその正妻に大反対されてしまう。それでも諦めずに何度も説得を試みたのであるが、自分自身不治の病に侵されてしまった。生死の境を彷徨いながらもこの国の未来を憂いたお母さんは、病床から2人に自分の想いを託す。託されたケンとトキさんもまた必至に説得を続けたがどうしても聞き入れて貰えず、最終的には前述の通り武力行使に至ったとのことだった。
「それでなぜ4聖獣を戦わせるのかって話なのですが・・・」
うんうん。それこそ意味があるとは到底思えないんですけど…権力者たちのただの遊びなんじゃあないの?
「私たちの住むこの世界では数千年に一度、聖戦と呼ばれる戦いが行われます。この聖戦とは何かと言いますと人族と魔族の闘い、イエ魔族とそれ以外の種族との闘いなのです」
ええええええ?この世界って人以外の種族がいるのー?今まで全くそんな話聞かなかったじゃないかあ。
「そして人族は、4柱の聖獣とそれらを率いる勇者がその聖戦に参加することになっています。その勇者を決めるために4聖獣を戦わせる必要があるのです」
「この聖戦に負けるとな、魔族以外全ての種族が滅亡すると言われているんだ。絶対に負けられないから人族最強の戦力を出す必要があるんだよ」
横からケンも口を出す。え?最強の戦力って事ならユナイテッドステイツの聖獣が代表でいいんじゃ・・・
「他の国でも、このヒノモト国に聖獣が生まれるって話は分かっててな。すぐに代表戦を開催しようと急かされているのを何とか話し合いをするところまでは交渉できたんだ」
他の国の聖獣は、何百年から何千年も生きているのに対してコタロウとコジロウはまだ生まれたばかりで圧倒的に経験が足りない。それではあまりにもヒノモト国が不利ではないかと抗議しているのだが、聖戦も間近に迫っているのであまり悠長にも構えていられないと言うのが向こうの言い分だ。
「そこで丁度ひと月後に、各国の首脳がこのヒノモト国に集まって会議をするんだよ。その時にお前をみんなに紹介するからそのつもりでいてくれよ」
「え?各国の首脳ってみんな偉い人だよね?オレなんて紹介されても何もできないんだけど・・・」
そこでトキさんがまた口を開く。
「シュウさんこの代表戦の日時延期の件なのですが、正直望みは絶望的なのですよ」
各国首脳は、どうせ生まれたばかりの聖獣なんて自国の聖獣と戦っても歯が立たないだろうと高をくくっているそうだ。それなのに貴重な時間をムダにする方がよほど問題じゃないかと。だが、あまりにも熱心にケンからお願いされるもので取り敢えず聖獣を率いる勇者に会って、それから考えてみようという話になったそうだ。
「えええええええ?それってオレの責任めちゃめちゃ重要じゃないか」
「はははは、そうだぞシュウ。もうお前腹括るしかないぞ」
愉快そうにケンは笑う。なんて胆力だ。さすがに大物は違うな。だが、オレは元日本人だ。それも一般的なサラリーマンなんだよ。こんな大役仰せつかった事なんてあるハズないだろうが。
するとトキさんがオレをじっと見つめた後に微笑みかける。なんとも心休まる笑顔だ。
「大丈夫ですよ、シュウさん。絶対にこの会談はうまくいきます。それは間違いありません」
自信たっぷりに言うがオレのメンタルは、疑り深い現代日本人のままなんだ。そんな簡単に信用しないからな。絶対に騙されないぞ。
「私もケン様も、シュウさんには全幅の信頼を寄せておりますので」
「え?なぜ?」
トキさんは穏やかな表情で静かに話を続ける。
「それが、私の母の最期の言葉でしたから」
「え・・・」
病床に伏していたトキさんのお母さんは泣き叫ぶケンとトキさんに向かって、最後の力を振り絞ってにっこり笑うとこう言い残したそうだ。
「ケン、あなたはこれからのヒノモト国を導いていく義務があります。とても大変な仕事ですが大丈夫、あなたならきっと立派にやり遂げる事が出来ます。でも一つだけ約束して。あなたは責任感が大きすぎるから何でも一人でやろうとするけど、それじゃダメよ。もっと周りの人を信頼して任せられるようになりなさい」
「トキ、ケンの影となり支え続けるのですよ。あなたはいつも穏やかで感情を人に見せないところがありますが、本当は誰よりも情に厚い事を母上は知っています。タマには本音を出していいのよ。じゃないと行き詰ってしまいますからね」
「「はい、母上」」
「あなた達の成長だけが私の生きがいでした。これ以上それを見られないのが少しだけ心残りだけど、とても満足しています。だって2人ともこんなに立派に成長してくれたのだもの」
涙と嗚咽をこらえながら2人が聞き入っているとお母さんは続ける。
「最後に一つだけ私の願いを聞いてください。近い将来、聖獣様と共に勇者様があなた達の目の前に現れます。私たちの世界を救ってくれる救世主となる方です。少し頼りないところもありますが、必ず最後にはなんとかしてくれる不思議な力を持った方です。2人はこの勇者様と協力し合い共にこの世界を救ってください」
「「はい、母上。必ずそのお約束お守りいたします」」
それが、お母さんと2人の最後のやり取りだったそうだ。
こんな話を聞かされた後、断れる人なんているのだろうか?少なくてもオレにはムリだった。目と鼻をぐじゅぐじゅに濡らしながら何度も首を縦に振る。
「わがった。ぎょうりょくずるよ」




