第69話 殿様との会談
「おう、お主がシュウかよう来たの。余がEDO城の当主であり、ヒノモト国の最高権力者つまりCEOのケンである」
鷹揚な態度でオレに声を掛ける。子供の頃から見ていたあのバラエティ番組のキャラそのものだ。オレは目の前のバカ殿にどんなスタンスで接すればいいのか分からず固まってしまう。
(え?素でこれなのか?いやいやいや、さすがにそれはないでしょ。狙っているよね?狙ってるんだよね?でもこの国で一番偉い人に失礼な態度取ったらやばいよね?こりゃリアクション難しいぞ)
そんなオレの態度を見た殿はミツヒデさんに目配せをした。
すっと動いたミツヒデさんは辺りの人払いをする。自分たち以外の人が全て周りから消えたのを確認すると殿は顔を手ぬぐいで拭う。
「おいおい、せっかくボケてんだから突っ込んでくれよ。オレのリアルバカ殿、なかなかのクオリティだっただろ?」
おしろいを落として現れた顔は目力強めの理知的な好青年だった。戦闘力的にはそれほど高い様には見えないが、有名人や権力者が持つような特殊なオーラを身に纏っていてすごい存在感だ。
「うん?どうした?バカ殿ってお前の元の世界で流行ってたんじゃないの?」
何も言えず黙っているオレに殿がにこっと笑いかける。なんとも人を惹きつける懐っこい笑顔だ。うん?この笑顔どこかで見かけたような・・・理由は分からないが、警戒心が解けたオレはすっかり安心した。
「リアルバカ殿すごい再現度です。ものまね芸人真っ青ですよお殿様」
「お、ありがとう。お前のいた世界にはものまね芸人ってのがいるんだな。それは初めて聞いたな。人のマネをする芸ってことか」
褒められて殿様は、満足気な表情をするとオレに向かって「あ、オレの事はこれからケンって呼んでいいぞ。オレはお前の事シュウって呼ぶからな」
えええええ?それは、ちょっとくだけ過ぎじゃ?
「それでいいよな?兄者?」
「まあ、上様がそれでよろしければ・・・」
え?トキさん?兄者って・・・
「ああ、オレは兄者の母上から育てられたんでな。まあ、兄弟同然なわけよ」
元々妾の一人だったお母さんとの間に生まれた子供がトキさんだったが、ケンと年も近かった事もあり前の殿様がそう計らったとの事だった。なるほど、さきほどケンの笑顔を見て誰かに似ていると思ったのはトキさんだったのか。
先代の殿様と正妻の母親から、ほとんど構われる事がなかったケンはトキさんとそのお母さんと本当の家族のように育ったとのことだった。ところが元々体が弱かったお母さんは、病気が元であっけなく亡くなってしまった。
そこでケンは自分の教育係だったミツヒデさんに命じて城内でクーデターを起こさせ、先代の殿と正妻を討ったとのことだった。それがまだ10代そこそこだったケンとトキさんの企てた計画だというから恐れ入る。そんな修羅場を潜ってきたトキさんならオレなんか手玉に取られて当たり前だよね。
まあ、ミツヒデさんはなんとなくクーデターキャラって感じしてたけどさ。
そして今ではヒノモト国の政に関しては全てミツヒデさんが掌握しているとのこと。
先代の殿は評判が悪かったのでケンはミツヒデさんの傀儡って事にしておかないと国民が納得しないだろうと表向きは、バカ殿を装っているそうだ。
「オレのオヤジは本当にバカ殿だったからな、それでも母上の悲しむ顔を見たくなかったのでガマンしていたんだ」
自分の育ての親であるトキさんのお母さんはすごく優しい人で実の親子で殺し合いをするとなったら反対するのは目に見えていた。ところが、実の母親以上に慕っていたトキさんのお母さんが亡くなった時、禄に葬式もあげない前殿様の対応に怒りを覚えたのが計画を実行するきっかけとなったそうでなんとも皮肉な話であった。
「まあ、そんな話はどうでもいいんだ。それよりもシュウよ。お前、オレの右腕にならないか?」
え?右腕?この人、両腕ともあるよね?じゃあ、オレが右腕になる必要ないんじゃ?
いやいや、そんな物理的な問題じゃないって分かってるよ。つまり参謀みたいな役割を果たせって事でしょ?そんな事オレに出来る訳ないって。
「うん?もちろんやってくれるよな?金も権力も女も思いのままだぞ」
え?なんだこのセリフ?似たようなシーンを今まで何度も見てきたぞ。
「つまりケン、あなたの右腕になればお金もジャンジャン入ってくるし権力をかざして好き放題でき、なおかつ女も選び放題って事なんだな?」
「うん、そうだ」
「なるほど面白い」
「そうかやってくれるか?」
オレは満足気に頷いているケンに向かって言い放つ。
「だが断る」




