第67話 トキさんの用件
「お久しぶりですトキさん。今日はどういった用件で?」
「まあ、中にお入りください」
そのまま店の中へと案内される。入口を入ってすぐのところに以前オレに散々意地悪をしたオジサンがいる。オレに深々と頭を下げて微動だにしない。あいつ、あれから散々怒られたんだろうなあ。
「まずは、ダンジョン攻略お疲れ様でした」
今度は以前よりも更に店の奥へと案内される。奥は個室になっていて中へ入るとこれまた高級そうなソファーと高級そうなテーブルが置いてあった。ソファへと座るオレの正面に腰かけながらトキさんはセバスさんに何事か指示を出す。セバスさんは、一礼した後に部屋を退出した。
「いかがでしたか?まあ、聖獣様もついておいででしたのでそれ程苦労はしなかったとは思いますが」
やはりトキさんは、色々な事情を知っているようだ。オレが返事に詰まっているとふっと微笑む。
「そう警戒しないで下さい。今日お越しいただいたのは、2つのお願いがあるからでございます」
「え?お願い?」
「はい。出来れば2つともお聞き届けいただければ助かるのですが・・・」
なんだ?こんなになんでも出来るトキさんが、オレなんかに頼みごとがあるって?想像がつかない。恐る恐る視線を合わせるとトキさんは、ソファからすっと立ち上がり頭を下げる。
「どうか、シュウ様がダンジョンで手に入れた品をお譲り頂けないでしょうか?」
「え?それくらいならいいですよ?」
なんだ、そんな事か。もっと無理な願いを想像していたオレは拍子抜けしてしまった。
「ありがとうございます。ちなみに何を譲って頂けますか?」
粗方、ギルドで引き取って貰ったからなあ。まずはキラービーのハチミツかな。これはまだ随分あるしなあ。
「ハチミツですか?これは素晴らしい。では5000個頂けますか?」
次はナイトゼリーかな?自分用に少しは取っておきたいので30個かな?クイーンゼリーはコタロウが少し舐めているし、勘弁して貰おう。となると
「あとはアダマンタイトですかね」
「おお、素晴らしい。ありがとうございます」
「では、ハチミツは1つ2万で計1億、ナイトゼリーは100万で計3000万、アダマンタイトは5億で合計6億3000万でいかがでしょうか?」
はい。え?6億??
「あのー、それはちょっと高すぎるんじゃ?ギルドでの買い取り価格よりも大幅に高いですよ」
「大丈夫ですよ。これでも市場価格に比べたらかなりお安い金額ですので。シュウ様がご納得頂けるのであれば是非、引き取らせてください」
とまた頭を下げる。うーん。なんかもう金銭感覚がマヒしてきちゃったんだけど。
「あ、トキさんがそれでいいなら・・・」
「ありがとうございます。ちなみにヒヒイロカネはダメですか?」
え?なんでそれを持ってるって知ってるんだ・・・
「それはちょっと・・・コレでヒノモト刀を打って貰う予定なので」
「そうですか。ヒヒイロカネなら20億お出ししますが・・・」
え?20億??まじですか???
オレは真剣に考えてみる。これは売ってしまった方がいいんじゃあなかろうか?そもそも刀を持っていたとしても宝の持ち腐れかもしれないからな。でも、もう2度と手に入れることは出来ないかもしれないものを簡単に売ってしまっていいのか?うーん悩むなあ。
オレが返答に困っているとトキさんはふっと笑みをこぼした。
「まあ、ヒヒイロカネはシュウ様がお持ちになった方がいいかもしれませんね」
そうか、そうだよな。残念なようなホッとしたような。
「他には何かございませんでしょうか?」
そう言われてオレは自分のアイテムボックスを改めて覗き込む。この世界に来てから今まで獲得してきたモノが色々と詰まっているなあ。あ、これなんかどうだろ。
「あのー。こんなモノがあったんですけど」
「なんと!これは素晴らしい。どうやってコレを手に入れたのですか?」
オレは以前、自分で作ったベーコンを出した。この世界に来たばかりの頃に自分なりに作ったものだったが、なかなかの出来なのでひょっとして商品価値があるかもと何の気なしに出したのだ。
「あ、自分で作ったんですよ」
「え?ご自分で?」
答えてしまった後オレは自分の失言に気付く。マズイ、ヒノモト国民がこんなものを自前で作れる訳ないだろう、どうしよう?なんて言い繕ったらいいだろうか?
「これはお見受けしたところ、異国で食べられているベーコンですが。なぜシュウ様はこれの製法をご存じだったのでしょうか?」
何も言えないオレの顔をじっと覗き込むトキさん。まずいぞ、非常にまずい。
「元の世界で作り方を教わったのですか?」
「はい」
え?今なんて言った?
「え?」
「そんなに深刻な顔をなさらないで結構ですよ。それよりも今から、ある人にお会いして頂きたいのですがご同行願えますか?」
あれ?なんかオレ嵌められてないか?色々と調べられているし・・・
恐る恐るトキさんの様子を伺うとニッコリと笑いかけてくる。
その優しい笑顔にすっかり警戒心を解かれたオレは思わず頷いていた。




