第63話 大熱狂の宴
「オレがまだ駆け出しの冒険者だった頃、周りには沢山の仲間がいた。みんなオレよりも才能に溢れ、向上心に満ちていた。時代はダンジョン攻略真っ只中でオレ以外の仲間はそんな中、次々と手柄を立てていった」
カクさんの声は決して大きくはないがよく通る。みんな静かにして真剣に耳を傾けている。
「オレ以外の仲間はあっという間にシルバーランクに昇格したよ。当時のオレはいくじがなくてな、安全なクエストしか受けてなかったんだ。そんなオレを尻目に仲間たちは、高ランクのクエストをじゃんじゃん受けていった。やつらとオレとの差は益々広がっていくと思われた。ところが、オレの仲間は誰一人としてゴールドランクにさえなれなかったんだ」
ここで、カクさんは聞いているオレ達を見渡して一人一人に目を合わす。
「みんないいヤツだったが、無理なクエストを受けて死んでいったよ。そうして残されたオレはその時から今まで無理なクエストを受けた事は一度もない。そんなオレがこうして今日、ダイヤモンドランクまでいけたということをみんな覚えておいてくれ」
大きな深呼吸をした後に、少しだけトーンを上げる。
「お前たちEDOの冒険者は、みんないいヤツだ。オレはお前たちを決して失いたくない。だから約束してくれ、決してムリなクエストを受けないことを」
静寂の中、みんな首を縦に振る。
「ありがとう。少し湿っぽくなって悪かったな。今日はオレのおごりだ。みんな好きなだけ飲んで好きなだけ食ってくれ」
「いやったあああああああ」
「さすが、カクさん太っ腹―」
「すてきー」
するとあちこちから歓声が挙がる。と同時にシュポン、シュポンとシャンパンの栓を開ける音が響く。オレとは無縁の世界だったが、テレビで見たことあるバブリーな風景だ。
あれ?いつの間にかアヤ姉が着替えている。ナイトドレスと言うのだろうか?胸元が大きく開いた薄いブルーのキラキラした素材で出来た丈の短いドレスだ。
それだけではない、いつものアルバイトの女の子達も全員同じようなドレスを着ている。
しかもそれだけではない、なんと冒険者達にお酒を注いで回っているではないか。中には冒険者の隣に座ってお酌をしている女の子もいて、みんな鼻の下をだらーんとだらしなく伸ばしている。
「みなさーん。カク様よりシャンパンタワーのご注文頂きましたー」
「「「ありがとうございまーす」」」
オレがいつもの様子との違いに戸惑っていると、アヤ姉が大きな声でアナウンスする。
そして女の子達もその声に呼応する。テレビで見たキャバクラでのやり取りそのものだ。
いつの間にかピラミッド状に積み上げられたグラスの前に移動したアヤ姉が、一番頂点のグラスにシャンパンを注いでいく。頂点のグラスからあふれ出したシャンパンは、そのまま下に流れていき全体のグラスを満たしていく。うわー、まさか生きていてナマのシャンパンタワーを拝むことがあろうとは・・・
「ドン・ピリオンのタワー完成しましたー。みなさんどうぞお召し上がりくださーい」
「へー。ドン・ピリオンだってさ」
「一度飲んでみたいと思ってたんだよ」
するとタワーの前に我も我もと人が群がる。何十人もいるが、グラスの数はもっと多い。全ての人に行き渡る。それにしても高級シャンパンでタワーっていくらぐらいかかっているんだよー。つうか、ファンタジー世界での「今日はオレのおごり」ってこんな感じじゃないだろ?酒が樽で出てきて、男ばっかりのムサい、いや男らしい宴会じゃーないのか?
若干疑問を持ちながらオレも列に並んでグラスを貰って飲んでみる。
「う、うまい」
『うまいニャ』
『おいしいニャア』
『いけるぜ』
『おいしいね』
『大変、美味しゅうございます』
コタロウ、コジロウだけでなくガル、ギル、ゴルもシャンパンを飲んでいる。コタロウとコジロウは、グラスを地面に置いてペロペロと舐めているが、ガル達は器用に前足でグラスを抱えて飲んでいる。コラコラ、サラマンダーがそんなところにいたらみんな怖がるだろうが。
「お、このちっこい竜たちいっぱしに酒のんでやがる」
「うめーだろ、ドンピリは?」
ところが、酔っぱらい達は小さいドラゴンが酒を飲んでいるのを珍しがって集まってくる。ガル達も人に危害を加えることはなく、ただただ酒を飲んでいるだけだ。
「ドン・ピリオンはな、ステイツの修道僧、ピリオン氏が作ったと言われていてな」
スケさんが話を始める。あれ?なんか酔っぱらってないか?いつもよりも饒舌だぞ。
「なぜ、酒に炭酸が入ったのかは諸説あってな」
「おう、スケのやつ珍しく酔っているな。まあ、今日はめでたいからなあ」
そこにハチベエさんが割って入る。話の腰を折られたスケさんは、気に留める様子もなくコルクがどうとか、こうとか話を続けている。そんなスケさんを横目で見ながらハチベエさんが話を続ける。
「さっきのカクの話なんだけどなあ、あいつも色々と葛藤はあったらしいんだよな」
今でこそ高ランクのクエストも受ける様になったのだが、当初は簡単なクエストしか受けてなかったカクさんはなかなかランクが上がらないことに焦りを覚えていたそうだ。
長年間近で見てきたスケさんは、それを十分すぎるほど分かっているだけに今度のダイヤモンドランク昇格の喜びもひとしおなのだろう。いつもクールなスケさんが、こんなに酔っぱらうくらい喜んでいるって事は、この人も相当なお人好しなんだな。
「あ、シュウ君ちょっといい?お話し終わった?」
アヤ姉がやってくる。いつにも増して露出の多い服装で目のやり場に困ってしまうが、そんなオレの思惑などお構いなしにオレの真横に座る。
「あ、はい。なんでしょうか?」
胸の谷間に釘付けになりながら上の空で返事をする。あ、なんかいい匂いがする。高級そうな香水の甘い匂いだ。
「さっきの戦利品の買い取りについて計算が終わったのよ。申し訳ないけど、今回は出来る分だけ買い取って出来なかったものはお返しするわね」
「あ、はい」
「まずは、スノウクロコダイルのワニ皮。普通のものが500万、上が一つ1000万、2つあるから2000万、特上は3000万で買い取らせて貰うわね。次にキラービーのハチミツだけれど沢山あり過ぎて全部は買い取れないので、2000個貰うわね。一つ1万で計2000万。ナイトゼリーは上級回復薬と同等の効果があるという事なので、相場からすると1つ50万ってとこね。30個買い取らせて貰うので合計1500万。それとミスリル鋼だけどコレは一つ3000万で2つだけ引き取らせていただくわ。合計で6000万ね。締めて1億5000万イェンとなります。残りのハチミツと買い取り出来なかったミスリル鋼とアダマンタイトにヒヒイロカネは返すわね」
「あ、はい。えええええ?」
アヤ姉のスカート丈は今日は一段と短い、これ中見えるんじゃない?と思っているのだがなぜか絶妙な角度で決して見えない。一体どうなっているんだ?と疑問に思ってたら何かとんでもない金額を言われた気がした。




