第59話 アイとおかんと電脳界
目の前には、ちゃぶ台を挟んでふくれっ面をしたアイとニコニコしているおかんがいる。ちゃぶ台の上には、お茶とおまんじゅうが置かれている。おまんじゅうはひよこの形をしている。これはアレだな。東京みやげとして売られているが、もともとは九州発だろう?ってたまに議論されている銘菓のおまんじゅうだな。オレも何度か食べた事があるが、とても美味いやつだ。
コタロウにコジロウ、それにガル、ギル、ゴルは夢中でまんじゅうを頬張っている。つうかサラマンダーって精霊だよな?まんじゅうなんて食べるのかよ。
「この子はね、電脳族きっての天才児って昔は持て囃されてたとですよ。でも、色々あってすっかりやる気を失くしてしまって」
オレはおかんの話をうんうんと聞いていた。要約すると非常に出来が良かったアイは、飛び級でこっちで言うところの大学を卒業しそのまま一流企業に就職したのだが、若い上に女の子だったので同僚のお局様達から妬み嫉みの激しいイジメを受け、それに耐えきれず退社してしまいそのまま引きこもりになってしまった。と言うことだった。
オレはそんなおかんとアイをこっそり見比べてみる。おかんは、本当にどこにでもいる日本人女性のおばちゃんだ。きつめのパーマをかけている頭部には少し白髪が混じっている。プロポーションはお世辞にも良いとは言えずちょっと太っている。
なぜ、こんな普通のおばちゃんからアイのようなキレイな女の子が生まれてきたのか?
それとも、アイも年を取ったらこうなるのか?
他にも色々と考えることがあるのだが、オレはどうしても気になってしまう。
「アイもねえ、せっかく私に似て美人に生まれてきたとに全然外にも出らんで」
「え?アイさんってお母さん似なんですか?」
するとおかんがどこからともなく、タブレットのようなモノを出してオレに手渡す。
そこにはアイを少し大人にしたような美女が写っていた。
「うわー、お母さんおキレイだったんですねえ」
「うん?今も美人やろ?」
あ、ハイ。とオレは力なく頷く。
「もう、お母さんそろそろよかやろ?向こう行ってよ」
すると今まで黙っていたアイが口を開く。おかんは「はいはい」と言いながら席を立つ。
「シュウさん、アイのことばよろしく頼んどきますね」
「あ、はい」
おかんが出て行き2人きりになる。コタロウ達は、まんじゅうを食べ終わってそのまま勝手に寝ている。超美少女と2人きりのシチュエーションは緊張するが、オレは言わなければならない事がある。
「あの、いつもありがとう。とても助かっています」
「う、うん?そんなんお礼はいらんよ。ウチが好きでやっていることなんやから」
アイは急に顔を真っ赤にして慌てて俯く。色白の頬が桜色に染まってとてもきれいだ。
「それで、これからもよろしくお願いします」
「うん。もちろん。これからも色々と頼ってね」
アイはオレの方を見てまたニッコリと笑った。それにしても、この世界にきて色々な出来事が起こったが、こんな美少女と話をしているのが一番信じられない事かもしれない。
それからオレ達は、この世界に来たばかりの事や初めてアイと会話した事、初めてのクエストや「最後の洞窟」での事などを時間も忘れて話した。
それから電脳界や電脳族の事も少しだけ聞けた。「これも本当は秘匿されている情報なんやけど」と前置きした後アイが話してくれる。電脳界は、EDOとはまた違う次元に存在する世界で元々電脳族は、人間界を見守るために存在する種族なのだそうだ。
ところが、時が過ぎて電脳族と人間との関係が希薄になり現在は滅多に関わり合いになる事がなくなった。オレはたまたま異世界から転移してきたのをアイが見つけて色々と世話をしてくれているらしい。
「え?ということは、電脳ネットの恩恵を受けているのは人間ではオレだけってこと?」
「うーん…そういう訳ではないんやけど。普通の通信系スキル持ちはナビゲート以外ではせいぜい“ワイキキペディア”を使うくらいかなあ」
なるほど、色々な情報を調べる時に使うヤツだな。
そんな話をしているとまた、部屋の外からおかんの声が聞こえていた。
「アイ、もう遅いからそろそろ・・・」
あ、そうだよな。こんな遅い時間(って電脳界と人間界の時差ってどうなってんだよ)に女の子の部屋にいるのはまずいだろ。オレは慌ててお暇する。
「また来てね」
「うん、絶対また来ます」
またコジロウに連れてきてもらおう。
うん?アイが何事か考え込んでいる。じっとオレを見つめると質問をする。
「ねえ、そう言えばこちらの世界で困っている事とかなかね?ウチになんか出来ることない?」
「え?本当に?」
なんだって!色々とあるけど、どうしても何とかしたい問題があるぞ。
「あの、元の世界の料理が食べたいなあ。でも、ムリだよね?」
そう言うとアイは一瞬考え込んだ後、微笑む。
「うん。じゃあ、ウチ頑張るけん。期待しとってよ」
え?ひょっとしてオレのために手料理を作ってくれるってこと?
凄い、それは期待しておこう。また楽しみが増えた。
「うん、楽しみにしてる。それじゃあ絶対また来るね」
「待っとるけんね」
(ブウン)
コジロウの転移魔法によりオレ達は、またEDOへの帰路に立っていた。
アイのサイドストーリーは今のところ考えていませんが、ひょっとして作るかもしれません。




