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サイドストーリー コジロウの物語

本編でコジロウを出せないまま、平行してこの話を作成していました。いつもの内容を期待して頂いた方にはご期待に添えないかもしれませんが、少しでもコジロウの事をわかって頂ければ幸いです。

ボクとコタロウ兄ちゃんは、ある古くて小さいおうちの物置の中で生まれた。


ノラ猫だったお母さんが、ほうぼう探し回ってやっとの事でソコに行きついたそうだ。



お母さんはとても優しかった。ボクとコタロウ兄ちゃんはいつもお腹を空かせて鳴いてたけど、そんな時はいつでもおっぱいを飲ませてくれた。


そして満腹になった僕たちをいつまでもいつまでも舐めてキレイにしてくれた。


お父さんは見たことがなかったけど、ボクはお母さんとコタロウ兄ちゃんがいれば幸せだった。


その小さいおうちには、おばあちゃんが一人で住んでいた。とても優しいおばあちゃんだった。お母さんも、そのおばあちゃんが大好きでいつもスリスリしていた。



そんな日がいつまでも続くと思ってた。


でも、ボクとコタロウ兄ちゃんが大きくなるにつれておばあちゃんが、困ったような寂しそうな目で見る様になった。


「にゃあ」


少し胸騒ぎがした。





何日か経ったある日、おばあちゃんが誰かに電話をしていた。


「すみません。よろしくお願いします」



それから更に何日か経ったある日、知らない男の人がやってきた。


おばあちゃんは、その人と何か話している。


「2匹ともとっても仲が良いんですよ。いつも一緒で」


あれ?おばあちゃんが泣いてる。どうしたんだろ?



と思った次の瞬間、ボクとコタロウ兄ちゃんはバッグの中に入れられた。


「ニャア、ニャア、ニャア」

「ニャオー、ニャオー」


突然の事で何がどうなったのか分からない。ボクとコタロウ兄ちゃんは、怖くて怖くてバッグの中で鳴くことしかできない。




そして、その日を最後にボクとコタロウ兄ちゃんはお母さんともおばあちゃんとも会うことはなかった。




バッグの中でコタロウ兄ちゃんと怖くてただ震える。時々揺れるその度に怖くて「ニャオー」って鳴いてしまう。



すると「着いたぞー」と声がして、また突然目の前が明るくなった。


どこだ?ここは?見知らぬ部屋の中にボク達はいた。こんなに明るい部屋は初めてだ。怖くてたまらない。どこか暗いところはないのだろうか?


ボクとコタロウ兄ちゃんは、怖くて怖くてビクビクしながら部屋の中を歩き回る。


やっとのことで、タンスの下の隙間に入り込んだ。



そのままどれくらい経っただろう?


ふと気付くと部屋の中は真っ暗だった。



するとコタロウ兄ちゃんが「お腹すいたニャア」と言う。


「ん?」何か食べ物の匂いがする。


恐る恐る隙間から出てみると、皿に入ったカリカリと水が置いてあった。


兄ちゃんと2人で急いで食べて、また隙間に隠れる。



今度はトイレに行きたくなった。まだ隙間から出て辺りを見渡す。するとプラスチックでできた箱のようなものの中に砂が入っている。


ボクとお兄ちゃんはまた急いで用を足し、すぐにタンスの下の隙間に入り込む。



そんな生活が何日か続いた。エサと水はいつの間にか補充されていて、いつも入っている。トイレもボクたちがする時はいつもきれいな砂になっている。



ある日のこと、ボク達はお腹が空いたのでまたタンスの隙間から出てきてご飯を食べようとした。ところが、いつもカリカリが入っている皿には今日に限って何も入っていない。


辺りにあの男の人はいない。


お腹が空いていたボクとコタロウ兄ちゃんは、ご飯がないかその辺を探してみることにした。


「にゃあ、食べられそうなモノはないニャア」


ところが、どこを探しても食べ物は見つからない。ボク達はお腹が空いて「ニャアニャア」鳴き続ける。


こんな時お母さんがいたら、すぐにおっぱいくれるのに。そう思うと一段と悲しくなる。


「ガチャリ」


とその時、扉が開いてあの男の人が入ってきた。


ボクは急いでタンスの下に隠れる。



ところがコタロウ兄ちゃんは隠れなかった。


「にゃあ、コタロウ兄ちゃん。何してるニャア?早くこっちに来ないと」


コタロウ兄ちゃんはなんとあの男の人に「にゃあー」と鳴いていた。


すると男の人はどこからか持ってきたカリカリを皿に入れてくれる。コタロウ兄ちゃんは、それをモグモグと食べていた。





次の日からコタロウ兄ちゃんはタンスの下に隠れなくなった。それどころかあの男の人にスリスリして撫でて貰ったりしている。


「にゃあ、コタロウ兄ちゃん。あの男の人にボク達またどっか連れて行かれちゃうニャア」

「大丈夫だニャ。ご主人サマは優しいニャ」


コタロウ兄ちゃんは大丈夫だと言っているが、ボクは信用しない。いつまたどこかに連れて行かれるか分からない。


それからまた何日も過ぎた。



ボクとコタロウ兄ちゃんは、どんどん体が大きくなってもうタンスの下の隙間には入れなくなっていた。仕方なく外に出る様になったけど、男の人からは常に距離を取る。



そんなボクの様子をその男の人は、困ったような寂しそうな顔をして見ていた。


「にゃあ」


理由は分からなかったが、その時また胸騒ぎがした。


コタロウ兄ちゃんは、その後もどんどん男の人と仲良くなっていった。ねこじゃらしで遊んだり、ブラッシングしてもらったりしている。


「兄ちゃん、あんまりあの人を信用したらいけないよ」


ボクはコタロウ兄ちゃんにいつも忠告するが、答えはいつも同じだ。


「ご主人サマは優しいニャ」



そのうちにコタロウ兄ちゃんは部屋の中を駆け回ったり、ベランダにいつも来るハトを追いかけたり、と段々いたずらをするようになってきた。


ボクはそんな兄ちゃんが、あの男の人を怒らせてまたどこかに連れて行かれないかと気が気じゃなかった。


そして遂に「コラ、コタロウだめじゃないか」と怒られるようになったのだ。


ところが、コタロウ兄ちゃんは全然堪えてない。前にも増していたずらをするようになってきた。ボクはコタロウ兄ちゃんが心配で心配で堪らない。でも何も出来ないで遠巻きに見ているだけだった。



その時のボクはいつも楽しくなかった。いつも何かに怯えていた。ご飯は普通に食べさせて貰えるし、トイレもいつもきれいだし、暖かい寝床もあるし、コタロウ兄ちゃんもいつも一緒にいてくれる。何も不満はないはずなのに、満たされることがなかった。光の当たることのない、まるで灰色の世界にいるようだった。




そんなある日の事。あの男の人が何かを兄ちゃんに食べさせていた。兄ちゃんは夢中でモグモグとその何かを食べている。


(また、コタロウ兄ちゃんはあんな事して)


ボクはそんなコタロウ兄ちゃんを非難がましい顔で遠くから見ているだけだった。

と、その時男の人が


「コジロウも食べるか?ネコネコスティック?」


と言って何かをボクの方に差し出す。


(イヤだ。近寄りたくない)


ボクは後ずさりする。すると


『コジロウも食べろニャ。とっても美味しいニャ。だまされたと思って一口だけ食べろニャ』


コタロウ兄ちゃんがあんまり熱心に勧めるものだから、恐る恐る近寄って「ペロリ」一口だけ舐めてみた。


「にゃ??」


なんだこれ?今までこんな美味しいモノ食べたことない。


ボクは夢中で「ペロペロ」とそれを舐めていた。


「にゃ?」


気付いた時には、その美味しいものは無くなっていた。


恐る恐る、男の人の顔を見てみる。


すると、とても嬉しそうな顔をしていた。そう言えば、この人の顔を初めてみたな。こんな顔していたんだ。




世の中には、こんなに美味しい物もあるし、楽しいこともあるんだな。



それからのボクはコタロウ兄ちゃんと一緒に家じゅうを走り回り、壁にひっかき傷を作りベランダのハトを追っかけた。


そんなボクにご主人様は、「コラ、コジロウだめだぞ」と言うようになった。

でも分かっている。ご主人様は全然怒ってない事を。だって目が笑っているもの。



そんなある日、ボクはご主人様が大事にしていた「フィギュア」と言うものを落としてしまった。その「フィギュア」は落ちて腕が取れてしまった。


帰ってきたご主人様は、腕が取れた「フィギュア」を見てガックリしていた。


「あああああ!せっかくオークションで落としたのにー」


と残念な顔をしている。ボクもシュンとする。


「コジロウだめだぞ」


恐る恐る、ご主人様の顔を見る。


ご主人様の目は、いつも通り笑っていた。




翌日、ボクが壊した「フィギュア」は元通り腕がくっついていた。少しだけ曲がっていたけれど…


「コタロウ兄ちゃんは、すごいニャア。なんでもお見通しだったんだニャア」

「当たり前だニャ。ボクはお兄ちゃんだからなんでも知ってるのニャ」



ご主人様はいつも朝早く出かける。そして帰宅はいつも夜遅い。いつも疲れた顔をして帰ってくる。


「にゃあ」

「にゃあ」


ボク達が出迎えると、とてもうれしそうな顔をして頭を撫でてくれる。ボク達はうれしくて足元にスリスリしたり、その場にゴロンって転がったりする。



そんなある日、ご主人様は大きな箱を抱えて帰ってきた。


「ただいまー。今日はお前たちにプレゼントだ。」


なんだろう?ボク達は、ご主人様の周りに集まってその箱の臭いをクンクンと嗅ぐ。



すると中から出てきたのは、大きな機械のようなモノだった。



「ジャーーン。“全自動トイレー”オレが帰ってくるのが遅いからなあ、お前たちもいつもトイレがきれいな方がいいだろ?」



ご主人様は、ボク達がお腹を空かせているのがかわいそうだと言っては自動でご飯が出てくる機械を買ってきたり、水もいつもきれいな水が飲める機械を買ってきたりしてくれる。


「これ高かったんだぞー。今度のボーナス全部使っちまったよ。まあ、他に使い道もないし別にいいんだけどな」


それからのボク達はいつもきれいなトイレを使う事ができるようになった。





今度こそ、この幸せがずっと続くと信じていた。




その日は、いつもと何も変わらない朝だった。コタロウ兄ちゃんは、いつものようにハトを追っかけ「ウカカカカ」と威嚇する。


あれ?ベランダが開いてる。次の瞬間、コタロウ兄ちゃんとご主人様がベランダを飛び越えて下へ落ちていく。



「ニャ?」



ボクが駆け寄った時見えたのは、漆黒の穴の中へ吸い込まれていく兄ちゃんとご主人様だった。




その時からボクは独りぼっちになってしまった…






朝目が覚める。



「にゃあ」



鳴いてみるが誰も返事してくれない。



一人でヨロヨロとご飯のところまで行く。ご主人様が買ってくれた、自動でカリカリがでてくるヤツだ。



もぐもぐ



何の味もしないカリカリを少しだけ食べて今度は水を飲む。



ごくごく



やはり味がしない。



コタロウ兄ちゃんとご主人様がいないこの部屋はボクには広すぎた。ベランダを見ると今日もハト達がいる。ヤツらはボクを一瞥すると「くるっくー」と鳴いた。



ヤツらの相手をする気力もない。ボクは傍に寝そべって長くて退屈な一日が早く終わることばかりを願う。



そんな日が何日も何日も続いた。




もはやご飯を食べるのも、水を飲むのも面倒くさい。生きている意味があるのかも分からない。





うん?


その時、ボクは何の気なしに部屋の片隅を見ていた。まだ小さい頃に隠れていたあのタンスがある。




何やら違和感に気付いたボクは、タンスの下を覗き込んだ。



あれ?穴があいている…



「!!!!!!」



その瞬間、全身の毛が逆立った。



忘れもしない、この穴は兄ちゃんとご主人様を飲み込んだあの漆黒の穴だ。



なんでこの穴がここに?今度はボクを連れ去りに来たの?




生きている意味がないと思っていたが、いざ命が危険に晒されてしまうと怖くてたまらない。



(逃げなきゃ)






そう思い後ずさりしたその時、一瞬だけ兄ちゃんとご主人様の匂いがした気がした。



「ぶにゃーん」



その時ボクは、何の迷いもなくその穴に飛び込んだんだ。


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