第50話 反撃開始
ここで話は少しだけ過去に遡る。
『シュウさん、コタロウさんが回復するまでの時間稼ぎをしてください』
アイからの作戦はこうだった。リュウガはオレの事をコタロウのオマケのザコと侮っているので直接攻撃を仕掛けることはないだろう。恐らく、闘気の渦を飛ばしてくる。それを全力で避けろ。と
『了解』
オレは、アイテムボックスから先ほどゲットした「クイーンゼリー」を取り出しコタロウに舐めさせる。これは最上級回復薬と効果は同じだ。同時にヒールウォーターで包みこんだ前足をコタロウの切断面に当て蘇生魔法を手早くかけた。
「コタロウ、出来るだけ時間を稼いでやる。お前はゆっくりケガを治すんだぞ」
「にゃあ・・・」
後は、さきほどのやり取りの通りだ。
(やれることはやった。情けないけどオレに出来るのはここまでだ。後は頼んだぞ、コタロウ)
オレは、アイテムボックスから「ナイトゼリー」を取り出し舐める。これはクイーンに比べれば効果は劣るが、上級回復薬と同じ効果を持つ。魔力が回復したので、自分に治癒魔法をかけながら事の成り行きを見守ることにする。
改めてコタロウの様子を見てみる。まずは切断された右前足であるが、キレイに繋がっていた。
良かった、足が一本ないと大変だもんなあ。そんな不憫なコタロウのことを考えるだけでチョット涙ぐみそうになる。
それにしても本番では初めての蘇生魔法であるが、なんとかうまくいったようで良かった。
今まで、修行していたのは決して無駄じゃなかった。
五体満足となったコタロウは、リュウガの正面に立ち睨みつける。
闘気は完全に復活し充実した青白いオーラが全身を駆け巡るその様はまるで雷の化身のようだ。
(ビリビリビリ)
うん?コレ周りの空気が帯電してないか?なんかビリビリするんだけど。
そう言えば、前リュウガと闘った時も周りが少しビリビリした気がするな。
バチバチバチッ
「イテッ」
もうビリビリを通り越して、なんか放電が始まっているんじゃないか?
コタロウを取り巻くオーラに時折、ピカっと光るものが走るんだが…
オレは、安全のために少し距離を取ることにした。
すると今まで無表情だったリュウガに再び不敵な笑みが浮かんだ。
『少しはマシになったのか?試させて貰おうか』
右前足をビュッと振りおろすと4つの巨大な闘気の渦が発生しコタロウに襲い掛かる。オレの時とは段違いの威力だ。それが恐るべきスピードで接近してくる。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン
ところが渦がコタロウに到達する直前、大音響とともに掻き消える。
『ほう、気合だけでかき消す・・・』
言いかけるリュウガを何本もの稲妻が襲う。
ドカーーーーン
ズドオオオオオン
ドガガガガ
リュウガの立っていた場所がまるで火事の跡のように真っ黒焦げになる。ところが当の本人は、涼しい顔で煙の中から姿を現す。恐らく闘気でガードしたのであろう『おいおい、ご挨拶だな』と余裕で軽口を叩いている。
まずは、あいつの分厚い闘気のガードを破らなくてはダメだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…..
するとコタロウは闘気をどんどん高めていく。身に纏っている青白いオーラの炎がどんどんと激しく燃え盛り、コタロウを中心に収束していく。
バチッバチバチバチッ
コタロウの周りに絶えず火花が飛び散る。時々、稲妻が発生し周りに放電が起こる。
コタロウの闘気は更に充実し、オーラを纏ったその姿は雷の化身そのものだ。
すると、コタロウが「スッ」と身構える。次の瞬間1本の閃光が走った。
あまりにも動きが速すぎてとてもじゃないが、目で追えない。
ツツゥ・・・
リュウガの方を見ると肩から血が噴き出ている。
『オレの闘気のガードを簡単に突き破っていきやがった。まともに喰らったらアウトだったな』
なんてヤツだ。目で追えない程、素早いコタロウの攻撃を躱しやがったのか…
ところが、攻撃を躱されたコタロウは追撃の手を休めない。
ピュッ
ピュッ
ピッ
幾本もの閃光が走りその度にリュウガの傷が増えていく。リュウガのヤツ、コタロウの攻撃を完全には避けきれてない。あちこちから流血している。
コタロウの攻撃は更に激しさを増す。
ピッ
ピッ
ピッ
今やリュウガは全身に傷を負いドクドクと流れる血が止まらない。
『やれやれ。オレに奥の手を使わせるとはな…』
するとリュウガの周りに極大の竜巻が発生した。超高密度の渦は一体どれだけのエネルギーを内包しているのか見当もつかない。あまりにも密度が高すぎて漆黒となったその姿は、中にいるハズのリュウガの姿を一切見せない。
ドーーーーーーーーーーーーーーーン
コタロウはお構いなしに攻撃を仕掛けるが、その圧倒的なエネルギーの塊の前に弾かれてしまう。
ドーン
ドオオオオン
ドーーーーーン
そのまま、何度も何度も攻撃を繰り返すが漆黒の竜巻はビクともしない。
コタロウの攻撃をものともしないで跳ね返す。
(どうするコタロウ?このままじゃ、埒が明かないぞ)
するとコタロウは目をつむり精神統一を始めた。
更に爆発的な闘気がコタロウにどんどん集まっていく。体から立ち上っているオーラは、天まで届くくらいだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ・・・・
「くわっ」精神統一を終えたコタロウが目を見開く。
身に纏った闘気は極限まで研ぎ澄まされあふれ出したオーラによりバチバチと火花が飛び散っている。
「スッ」コタロウが身構える。とたんに周囲の空気がピーンと張り詰める。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ・・・
光と化したコタロウの攻撃により漆黒の竜巻に大きな穴が開き、中からリュウガが姿を覗かせる。
「やった、とうとうあいつの防御を突破したぜ」




