第45話 最後の階層への突入前夜
ブックマーク登録頂いた方ありがとうございます。今月の目標50が見えてきました。応援して頂いている方、今度ともよろしくお願いします。
コタロウの攻撃をまともに喰らって吹っ飛んでいったリュウガ。
『っく』
立ち上がろうとするが、まともに急所に入ったダメージが大きいのだろう。うまく動けないようだ。観念したようにその場に蹲る。様子を見てみると、清々しい表情をしている。
『コタロウお前の勝ちだ。見事な攻撃だった。最後にトドメを刺してくれ』
『断るニャ。お前との闘いは楽しかったニャ。リュウガ、また闘ってくれニャ』
一瞬嬉しそうな顔をするリュウガ、だがすぐに真顔になる。
『嬉しい事を言ってくれる。最後にお前と闘えて良かったぞ。だが、残念ながらここでお別れだ』
次の瞬間、巨大な“闘気斬”が出現しリュウガの身体を真っ二つに切り裂いた。
「斬っ」
『にゃ、リュウガ?』
リュウガは消え、後には下へと続く鳥居が出現した。
「コタロウ」
激闘で消耗しただろう、労ってやらないと。
コタロウはその場にチョコンと座り、リュウガの消えた跡をボンヤリと見ている。
「にゃ?」
ところが、オレが声を掛けると次の瞬間、全速力で駆け寄ってきた。あれだけの激しい戦闘の後なのに、疲れた素振りは全く見えない。
「コタロウ、疲れただろう?それにケガはなかったか?」
『にゃあ、楽しかったニャ』
コタロウの身体を診てみる。結構、攻撃を喰らってたからな。どこかケガしてるんじゃないか?念入りに隈なく調べてみたが、どこにも異常は見当たらなかった。本当に丈夫なヤツだ。
オレは胸をホッと撫でおろし、その場にログハウスを取り出した。
いよいよ次は最後の階層だ、気持ちは逸るがまずは体力を回復させることだ。
ここは慎重にいこう。
『なあ、アイ。聞きたい事があるんだけど』
晩御飯を食べた後、オレは気になっていた事を聞いてみた。コタロウは、いつものネコネコスティックを食べて今はゴロンと横になっている。
『今日のステージのボスってなんだったんだ?今までのボスに比べて明らかにレベルが違ったよな』
あのリュウガってやつは異常な強さだった。しかもヤツは強いだけでなかった。今まで自分の名を名乗ったり、コタロウの事を“聖獣”と呼んだ敵はいなかった。
『不明です』
え?分からないってこと?どういうことだ。
『本来、この階層のガーディアンは“キンググリズリー”でした。グリズリー種の中では最上級の強さを持っていますが、他の階層のガーディアンとレベルはさほど変わりません』
え?じゃあ、本来のボスと今日のリュウガが入れ替わっているってこと?
『私も不思議に思い“ダンジョンタイガー”のデータ解析を試みたのですが、プロテクトが掛けてありアクセス出来ませんでした』
データにプロテクトが掛けてある?
『そのプロテクトを掛けているのは誰なんだ?』
『機密情報なのでお答えできません』
『この世界を管理しているヤツがいるってことなんだな?』
『お答えできません』
そうか、うっすらとだがこの世界の事が分かってきたぞ。
『じゃあ、次の質問だ。9尾の銀狐と今日の“ダンジョンタイガー”どっちが強いんだ?』
オレにとっては一番気になるところだ。ステータスだけでみたら9尾の銀狐の方が高かったからな。ダンジョンタイガーがあの強さだと、相当強いのかもしれない。
『ダンジョンタイガーのデータが解析できないために、比べる事が出来ず不確定な回答になってしまいますがダンジョンタイガーの方が格段に強いと思われます』
良かった。それが聞きたかったんだ。確かにステータス上ではオレの方がグリズリーより下だもんな。
そんなオレが今では割と簡単に倒すことが出来るし、見た目の数値だけでは判断できないのだろう。
『よし、では最後の質問だ。魔導具って一体何なんだ?オレ達が目指している「転移の魔導具」以外の魔導具も存在するのか?』
この世界の文明レベルは、元の世界に比べてかなり低い。100年くらい遅れているだろう。ところが、その一方で人々は、WiFiや電子マネーのような最新技術を普通に使いこなしている。今までは敢えて聞かなかったがこの際だ、聞いてみよう。
『ご推察通り、WiFi設備や冒険者カードの登録に使用している端末などは全て魔導具と呼ばれています。もちろん、携帯型WiFiもそうです。これらは“過去の遺産”として各地のダンジョンに封印されていたのを、いままでの冒険者達が発見し世の中に出回っているのです』
なるほど、所謂、失われた技術ってやつか
「電脳ネット」もロストテクノロジーってことなんだな…
アイの話によると今から約200年前、ある冒険者が初めてダンジョンを踏破したそうだ。
「はじまりの洞窟」と名付けられたそのダンジョンからは、大量の魔導具が発見された。
当時の人々は見たこともない機器の数々に最初は驚いた。ところが元々好奇心旺盛なヒノモト国民はそれらを受け入れ、あっという間にその技術を生活に浸透させていった。
そして約100年前、初めて国を挙げて大々的にダンジョン攻略が行われ大きな成果を挙げた。それからは沢山の冒険者が攻略に乗り出し、今では国内のダンジョンというダンジョンはほとんど踏破されてしまったとの事だった。
『200年前に初めて踏破されるまでは、誰もダンジョン攻略しなかったの?』
『「最後の洞窟」もそうですが、ダンジョンは見た目はただの洞穴ですのでわざわざ探険する人もいなかったのです。「始まりの洞窟」もどこまでも続く洞窟に、たまたま好奇心から入り込んだ冒険者が発見したと言うことです』
そして最初のダンジョンから発掘されたWiFi設備により電脳ネットが利用されるようになり、他のダンジョンの情報が分かる様になった。
『まだ残っているダンジョンってどれくらいあるの?』
『公式のデータですと、この「最後の洞窟」クラスの最大級ダンジョンがこの1か所、大型ダンジョンが3か所、中型が7か所、小型が12か所の計23か所です』
まだ踏破されていないダンジョンは、辺鄙な場所にあるうえに見込まれるお宝がそれほどでもないそうで誰からも敬遠されているそうだ。
『ところが5年前に非公式のダンジョンが発見されて以来、今まで情報のなかったダンジョンが次々と3か所も発見され、いずれも踏破されています』
『え?非公式のダンジョン?』
そんなものが…
『それでそのダンジョンからは、何が発見されたの?』
『それが、何も分かっていません。ダンジョンで得た戦利品はおろか踏破者の情報さえも秘匿されております。唯一、判明しているのは非公式のダンジョンが存在しており、それを踏破した者がいるという事実だけです』
うーん…
疑問に思ったことを色々と聞いてみたが、また謎が増えてしまった。今日聞いた話は一旦、忘れるとしよう。まずはコジロウと会う事が先決だからな。
「コタロウ」
声を掛けるがコタロウはすでに丸くなって寝ている。
そんなコタロウの背中を撫でながら、明日に想いを馳せる。
「いよいよここまで来た。もう少しでコジロウに会えるぞ、コタロウ」
「うにゃん」
寝ぼけているコタロウにヒールウォーターをかけてやり、オレも寝床に入った。




