第43話 迷宮ステージの敵
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「コタロウお疲れさーん」
ノンストップでジャングルを駆け抜け、そのまま敵のボスと戦ったのだ。相当疲れているだろう。
『にゃあ、やっとであいつらブンブン言わなくなって良かったニャ』
ところがコタロウはそれ程疲れている素振りもなく、ただハチがいなくなった事を喜んでいる。
(何万もの宝箱を回収したオレの方がよほど疲れているようだな)
コタロウは聖獣化して以来、まだ本気で戦った事がない。
今だに底が見えていないのだ。本当に頼もしい。
そうは言っても、今日はもう休もう。時間もちょうどいいしな。オレは、ログハウスを取り出してコタロウと中に入る。
『4階層は、どんなステージなんだ?』
食事の後のネコネコスティックをコタロウにあげながら、アイに次のステージの情報を聞く。
『次の4階層ですが、ステージ全体が迷宮となっています』
ほう。なんかファンタジー色強い系のステージだな。
『迷宮自体の攻略は、私がナビゲートしますので問題ありません』
良かったー。オレはゲームでもダンジョン攻略って道が分からなくなって苦手だったんだよなー。
『問題は、出現する敵ですね。このダンジョン内では各階層のガーディアンを除けば最強のダンジョングリズリーが多数、出現します。このダンジョングリズリーですが、体の大きさ、攻撃力、守備力ともに最大でグリズリー種の中でも最強のモンスターです』
出た。やはり出てくるんだな。グリズリー。
今のオレのレベルで倒せるんだろうか?もちろん、コタロウならば大丈夫だろうが…
翌日
オレは緊張と不安で少し寝不足気味だったが、コタロウはぐっすり寝ていた。念のために“ヒールウォーター”もかけているので気力・体力ともにばっちり回復している。
「よし行くぞ、コタロウ」
「にゃ」
3階層の鳥居から次の階層へ転移する。
ブゥン
転移先はアイの前情報通り薄暗い洞窟だ。穴の広さであるが、この「最後の洞窟」入口付近ほど狭くはない。が、聖獣サイズのコタロウが走り回るのはちょっと無理がある。
「ポッ」
オレは指先に小さな火の玉を作り周りを照らしてみる。すると奥へと続いている洞窟の先に分岐が見えた。右と左に分かれているな。どっちに行けばいいんだ?
『そこを右です』
狭い通路をオレとコタロウは、縦に並び進んでいく。途中にいくつか分岐があるが、その度にアイが、正解の道を教えてくれるので迷いなく進むことが出来る。
そのまま、小一時間が経過した。
『変ですね…』
『うん?何か変なの?』
通常は、オレが出した質問に答えるだけであるアイのこういう物言いは珍しい。
イヤ、初めてかもしれないな。
『昨日申した通り、このステージにはダンジョングリズリーが多数配置されています。それが、なぜか一匹も出現しない。こんな事は通常あり得ません』
『え?手強い敵が出てこないなら、ラッキーなんじゃないの?』
実は、ダンジョングリズリーが出てこなければいいなと心の中で思っていたのは内緒である。
『杞憂であればいいのですが、少しイヤな予感がします』
え?予感って?AIも予感ってするんだっけ?
などと、どうでもいいことを考えながら進む。
そこから更に3時間ほど進むが、敵は出てこない。ダンジョングリズリーどころが何にも敵が出てこないのだ。
『おかしい、本当におかしいです』
とアイが繰り返すが、オレもコタロウも気にしていない。
このステージは走れないのが少しツライが、今までに比べると暑くも寒くもなく丁度いい温度だ。たまに分岐があってもナビがあるので迷わない。しかも敵もいない。非常に快適である。
「ふんふんふーん♪」
「にゃあにゃあにゃあ♪」
オレとコタロウは、鼻歌交じりに歩を進める。すると、急に目の前から「ぼうっ」とニブい光が洩れだしてきた。
「ん???」
すると道が開けて大きな広場のような場所に出た。イヤ、広場というよりもドーム型球場何個分かの広さがある広大な場所だ。天井も高くなり、見上げてみると何十メートルもありそうだ。足元を見てみると、発光しているコケみたいな植物がそこかしこに生えている。なるほど、これのお陰で洞窟内が薄明るいんだな。
『こんな場所はデータになかったはずですが…』
またアイが不安げに言う。(と言っても文字なので、不安かどうかまでは分からないが)
「え?どういうことだ?」
すると、目の端に大きな獣の姿が写る。あれ?広場の真ん中に何かいるぞ!
体長は5,6メートルくらいあるだろうか?全身毛に覆われていて全体的にしなやかなフォルムだ。あ、「ふわーー」っとあくびをした。大きく開けた口からはキバが覗いていて、耳がピンと立っている。
長いしっぽはまるで生き物のように意思をもってクネクネと動いている。
「トラ?コタロウとすごい似ているぞ」
大きさやフォルムはコタロウとほとんど変わらない。たった一つ、柄の違いがあるだけだ。コタロウはキジ柄でこのトラは普通のトラ柄だ。
「鑑定結果」
種別:ダンジョンタイガー
HP:700
MP:0
特殊スキル:闘気 剛力 隠密 神速 感知 念話
こいつ、強い。コタロウと同じ特殊スキルを持っているし。
『よお、よく来たな』
するとダンジョンタイガーが話しかけてきた。なんか今までの敵に比べてすごい馴れ馴れしいぞ。
だが、凄い自然体で全く気負いがない。まるで達人のごとき立ち振る舞いだ。
それだけでも只者でない雰囲気が漂ってくる。
『にゃあ、お前がここのボスかニャ?』
『うん?ボスって?ああ、オレを倒せば先に進めるからそういうことになるかな』
コタロウと話をしながらも決して隙を見せない。ゆらりと歩きながら、こっちの様子を窺っている。大型の猛獣から発せられる威圧感はハンパなくオレは身動きさえ取れない。
『さてと、聖獣様のお手並み拝見と行くか』
「!!!」
ダンジョンタイガーの姿が消えたかと思うと次の瞬間、
「ズドオオオオオオオオオオオン」
コタロウが勢いよく洞窟の壁に叩き付けられる。急に背後に現れたダンジョンタイガーの強力な掌打をモロに喰らったのだ。
「コタロウウウウウウ、大丈夫かあああ?」
オレはビックリしてコタロウに駆け寄る。コタロウは、叩きつけられた壁が崩れて瓦礫の中に埋もれてしまった。
「ゴトゴトッ」
するとコタロウが瓦礫の中から姿を現す。目をまん丸にしている。突然の攻撃にびっくりしているようだ。
「シャシャシャシャシャシャッ」
今度は四方八方から、三日月状の刃がコタロウを襲う。
「え?あれは“闘気斬”?」
逃げ場を失くしたコタロウは上に飛び上がり難を逃れるが
「ドシーーーーーーーーン」
上空に待ち構えていた、タイガーのパンチをモロに喰らい地面に叩き付けられる。
「コタロウうううう。やばい、コタロウが死んでしまう。アイ、どうすればいい?」
今まで苦戦らしき苦戦は一切なかったコタロウが大ピンチだ。どうにかしなければコタロウが危ない。すると
『シュウさん、落ち着いてください。コタロウさんは、全くダメージを受けていません。今もしっかり受け身を取っていますので問題ありません。そもそも2頭ともまだ小手調べで全然本気を出していませんよ』
「え?」
コタロウの方を見ると「うーん」と大きな伸びをした後、キッとダンジョンタイガーを睨む。
『にゃ、第2ラウンドだニャ』
『ふ、期待しているぜ』
戦いは続く…




