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第38話 ボス出現地点まで到着したのだが...

更に先に進む。時折、スノウグリズリーが姿を現し行く手を邪魔するが問題なく対処する。

それにしても景色が変わらない。一体、どこまで続くのだろうか?とアイに聞いてみた。


『この階層のガーディアン出現ポイントまでは距離にして半分まで来ています』


そ、そうか。まだ半分なんだな。


空はずっと薄暗いから時間の感覚が掴めないが、そろそろ夕方くらいだろうか。あ、少し風が出てきた。





「コタロウ、今日はこの辺で休憩しようか?」

「にゃあ」



オレはアイテムボックスからログハウスを取り出す。杉ちゃんから杉板を作り、それらを組み合わせて作成したオレのDIYの、イヤ魔法の修行の成果だ。中はそれほど広くはないが、オレとネコサイズのコタロウが余裕で入れるくらいはある。冒険中の仮住まいには、これで十分なのだ。


部屋の中でオレとコタロウはコウノスケさん特製の牛丼と味噌汁を頂く。ずっと寒い中を移動していたから温かい食べ物は、本当にありがたい。


あ、そうそう”行灯”っていう照明器具もあるから部屋の中は真っ暗ではない。もちろん日本にいた時のLED電球の明るさとは比べものにならないが、全く問題ない。


逆にろうそくの炎を見ているとなんだか心が癒される。


薄明りの中、コタロウにネコネコスティックをあげながらオレは今まで気になっていたことを聞いてみる。


「なあ、コタロウ。」

「にゃ?」


「お前は、こっちの世界と今までいた世界。どっちの方が好きなんだ?」



『にゃあ、僕はこっちの世界の方が好きかもニャ。色んなところに行けるし、美味しいものも沢山食べられるし。それに、ご主人サマともいつも一緒にいられるし』

「そうか」


嬉しいこと言ってくれるなあ。


『でも』

「うん」


『やっぱりコジロウが、いないとイヤだニャ。楽しいことも美味しい食べ物もコジロウと一緒がいいニャ。ボクはコジロウがいるところが一番、好きだニャ』


実はコタロウがコジロウに会いたがっているのはずっと気付いてた。


異世界に来たばかりの頃は生きるのに必死でそれどころではなかった。


ところがEDOに来てクエストを受けたり、色んな人に会って、少しずつ余裕が生まれてきた頃からコタロウは時折、寂しそうな様子を見せるようになっていた。


美味しいものを食べた時、楽しいことがあった時、そしてネコネコスティックを貰っている時。


コタロウとコジロウは、生まれた時からずっと一緒だった。寝る時もご飯を食べる時も、遊ぶ時も、そしてネコネコスティックを貰ってる時も。


そんな2匹が離れ離れになって、もう数か月が経つ。どんなにか会いたいだろう。それを思うと何もできない自分の不甲斐なさに腹が立つ。


もちろんオレも同じ気持ちだ。コジロウに会いたい。現世では、コタロウとコジロウが一緒になってイタズラするのでオレの部屋の壁は傷だらけだし、オレの持ち物は全て2匹の毛がついている。そんな日常がオレにも当たり前になっていた。そんな2匹が一緒じゃないなんてオレにも考えられない。




「コタロウ。もう少しでコジロウに会えるぞ。それまでもう少しだけガマンしてくれな」

『にゃあ。早く会いたいけど、ガマンするニャ』






翌日、目が覚めると外の様子を見る。良かった、快晴だ。洞窟の中のハズなのに、天気があるってのは、よく分からないが気にしないことにしよう。


軽く朝ごはんを食べる。味噌汁とご飯と漬物だ。ヒノモト国では、まだパンを食べる習慣がないようでタマに食べたくなるな。


昨日と同様に、コタロウに引っ張ってもらいターゲットに向かって驀進する。

時折、スノウグリズリーが出現するが、もはやオレ達の敵ではない。文字通り一蹴する。


視界も良好で、今日も絶好調だ。





「アイ、まだ目的地まではかかるんだよな?」



ところが、小一時間もするとこの状況に飽きてきた。


いくら進んでも一面の銀世界、忘れた頃にスノウグリズリーが現れるがその度にコタロウが“闘気斬”で瞬殺する。それの繰り返しだ。



『そうですね。今のペースだと休憩なしで、あと5時間といったところでしょうか』




うわー。まだそんなにあるのかよ。



「コタロウ、もうちょっとスピードアップできるか?」

『にゃ、まだまだ速く走れるニャ』


途端に視界に入ってくる景色が、「グン」と加速する。今までのスピードとは段違いだ。

スピードが上がったということは、その分ちょっとした雪面のデコボコを拾いやすくなりボードのコントロールも難しくなる。




「うっひょおおおおおおおおおお」



まるで最上級コースを直滑降で滑っているかのようだ。オレはこまめに体重移動を繰り返し、バランスを取る。ちょっとしたミスが命取りとなるため、少しの油断も出来ない。


次第に重心が低くなりひざに負担がかかる。レベルアップにより身体能力は大幅に向上しているが、それでも苦しくなってきた。だがコレで随分時間短縮してるはず。




「うおお!?」



その時、少し大き目のコブを超える。目一杯スピードに乗っていたために、大きく体が宙に浮いた。

空中で強引に態勢を整えて何とか着地するが、ボードが衝撃に耐えられなかった。



「ミシッ。メリメリメリ」



所詮杉で作った即席のボードはあっけなく真っ二つに裂けてしまった。

乗り物を失くしたオレは、そのまま何十メートルも転がっていく。



ごろごろごろごろごろごろ



幸か不幸か何も障害物がなかったために、オレは勢いがなくなるまででんぐり返しを続けようやく止まった。



『にゃあ、ご主人サマ大丈夫ニャ?』

「うん。大丈夫大丈夫。ちょっと失敗してしまったな。」


コタロウが心配そうに寄ってくる。正直、まだ目が回っているが特に体で痛いところはない。丁度いいのでこのまま休憩するか。




「コタロウ、お昼にするか」

「にゃあ」


オレは四次元ポケットじゃなかった、アイテムボックスからログハウスを出す。

そして中に入り、コタロウと2人でまたまた牛丼を食べる。


冒険中に贅沢は言えない。温かいご飯が食べられるだけでも幸せなのだ。とは言えずっと牛丼だ。

ところが、これが意外と飽きがこない。薄味なのにしっかりとダシを利かせているからであろう。

これなら毎日でも食べられる。コウノスケさんの腕がいい証拠だ。


食べながらアイに現在地とこの階層のボスの情報を聞く。



『目的地まではもうすぐです。』


よし、ムリして飛ばした甲斐があったな。



『もう少し行くと湖があり、この階層のガーディアンはそこに住んでいます』

「え?湖に?また、この前のビッグバイトタートルみたいに地上に出てくるのを待つの?」


ここまで来て足踏みは痛いなあ。


『イエ、ガーディアンは気性が荒く侵入者には容赦なく攻撃を仕掛けてきます』


そうか。気性が荒いってのは少し気になるがこのダンジョンのボス、9尾の銀狐よりは弱いだろうしコタロウには敵わないだろう。


念のため、コタロウにヒールウォーターをかけてやり体力を回復させる。



「よし、コタロウそろそろ出発するか?」

「にゃあ」



オレは再度、アイテムボックスから杉ちゃんを取り出しボードを作成する。2度目なのでそんなに時間もかからなかった。


そうしてまた、コタロウに引っ張ってもらい進んでいく。暫らくすると目の前に大きな湖が見えてきた。湖は寒さのために一面凍っていた。




「コレ、ボスが出てこれないんじゃ…」






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