第34話 北東エリアの冒険者ギルドにて
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「シュウさんいってらっしゃい。気を付けてくださいね」
結局、コウノスケさんの好意に甘えてまた泊めて貰ったオレ達は朝ごはんまでごちそうになりそのまま出発する。まず目指すのは北東エリアの冒険者ギルドだ。アヤ姉から顔を出すよう頼まれている。
「よしと」
オレはコタロウにまたがり地図を見る。携帯型WiFiを購入してから常に地図が表示され、現在地を確認できるので非常に便利だ。更に、念話を使用することによりコタロウと情報の共有が出来る。
つまりコタロウの脳内にも地図が表示されているのだ。
『ご主人サマ、これはとても便利だにゃあ』とコタロウも絶賛する。
今はZAOまでまっすぐに伸びている北東道を北に向かって驀進中だ。
「このペースなら今日中に、北東エリアの冒険者ギルドに着けるな」
『ニャア』
「もう少しでコジロウに会う事ができるぞ。」
『ニャア、コジロウ元気かにゃあ。』
オレ達がこちらの世界について随分経つ。コジロウは、今どうしているのだろうか?賢いネコだから心配ないとは思うが…
コタロウの想いも同じなのか、気持ちいつもより移動速度が速い。コタロウのスキル“神速”は短距離でこそ威力を発揮する能力ではあるが、通常の移動に関しても効果はある。その速度は体感では、現世での自動車を遥かに超えている。
道中たまに冒険者や商人などとすれ違うが、コタロウのスキル“隠密”により気づかれることなくやり過ごす。
このコタロウの“隠密”であるがその名の通り、人目に付きたくない場合に大きな効力を発揮する。
コタロウが“隠密”スキルを使うと目の前にいるのに、コタロウの存在が認識できなくなる。
いや正確に言うと姿は見えるのだが、ただの風景として見逃してしまうのだ。例えるならば、道端の石ころみたいな存在だ。
ノンストップで快適な旅の道中、オレはアイに「最後の洞窟」について聞いてみた。
『「最後の洞窟」は、5階層からなるダンジョンです。高難度ダンジョンの中では階層は比較的少ない方なのですが、敷地面積が広く配置されている敵も強めです。また、それぞれの階層をガーディアンが守っておりそれらを撃破しないと先に進めないようになっています。』
そうか。まあ、簡単に攻略できるとは思ってはなかったが少し不安になる。
今や聖獣となったコタロウがいるから大丈夫だろうが、今まで戦ってきた相手よりも確実に強い上に初めてのダンジョン攻略だからなあ。
途中で休憩を入れる。コタロウが頑張ってくれるからネコネコスティックをあげなきゃな。
「よし、冒険者ギルドまでもう一息のところまで来たな。コタロウ疲れてないか?」
ネコネコスティックを食べて終わったコタロウは、満足げに舌なめずりをしている。
『ニャア。全然疲れてないニャ。早く行こうニャ。コジロウに会いたいニャ』
(うーん。本当に大丈夫かなあ…)
コタロウは聖獣となった今でも一日の大半は寝ている。ところが今日は朝から休憩なしで走りっぱなしだ。本当に大丈夫なのか?
「よし、コタロウ。少しだけ待ってくれ。『ヒールウォーター』」
するとコタロウを水の球が包み込む。スケさんから教えて貰った水魔法だ。あれから毎日、練習はしている。コタロウが聖獣となってから、戦闘は任せっきりになったがオレも少しは役に立たないとな。
『ニャア、とても気持ちがいいニャ』
コタロウは気持ちよさげに「ゴロゴロ」とノドを鳴らす。良かった、気に入って貰えたか。
すっかり体力が回復したコタロウに乗り、再び移動を開始する。北東エリアの冒険者ギルドに着いた頃には、辺りはうす暗くなっていた。
「こんばんはー」
北東エリアの冒険者ギルドの扉を開ける。EDOの冒険者ギルドと同じ両開きの木の扉だ。中へ入っていくと、これまた同じくすぐに酒場になっていて奥で数人の冒険者らしき人達が酒を飲んで談笑していた。
「はーい」
奥から美少女が現れた。20代前半くらいだろうか?漁師村で会ったワカメちゃんに少し似ているが、それよりももっと控えめな見た目だ。きれいな黒髪を腰の辺りまで伸ばしている。茶色っぽい浴衣はやや地味ではあるが、良く似合っている。すると、
「オメーがシュウか?アヤ姉から話は聞いてるぞ」
「あ、はい。えっと…あれ?」
な、なんだ?
「オラは、ここのギルマスのリサだ。よろしくな。あ、2階の私の部屋で話すぞ。はよ上がれ」
急かされるままに2階に上がっていき、掲示板の前を通って奥へと進む。EDOの冒険者ギルドと全く同じ造りだ。そして「ギルドマスター執務室」へと通される。
「まあ、座れ」先に腰かけたリサから、指示されるままオレも腰を下ろす。コタロウはオレの横でまた丸くなった。
「まずは長旅ごくろうさん。思ったよりもずっと早く着いたな。疲れただろう。ゆっくり休むんだな」
「あ、ありがとうございます」
最初は可愛らしい見た目のリサの横柄な言葉遣いと態度に戸惑ったが、慣れてみると逆に心地よい。ちょっと違うかもしれないが、誰にでもタメ口を聞く芸能人を思い出す。どっちにしろ得な性格だ。
「それで、オメー達が「最後の洞窟」に挑戦するってんだろ?アソコはうちの猛者たちでも1階層さえクリア出来てないからな。死んでもしらんぞ」
「もとより覚悟の上です。でも、もし危険を感じたら撤退も視野に入れてますのでどうか挑戦させてください」
と頭を下げる。そんなオレの態度を見たリサは一瞬何か考えた後、ニコっと笑う。
(やっぱり笑った顔、メチャメチャかわいいな)と思ってたら、
「まあ、オメーが死のうがオラには何の関係もないからな」
(ま、まあそうでしょうねえ…)
「よし、話は終わりだ。ちょっと下に行くぞ。オメーに紹介したいヤツがいる」
「はあ」
(リサちゃんのお友達とかかなあ…)
淡い期待を抱きながら、またしても先にずんずん歩いていくリサの後ろを着いていき階段を下りる。するとリサが叫ぶ
「おーい。ダイゴロウ。こいつがEDOから来た冒険者だ」
「おう」
奥から一人の男がのそりと立ち上がりゆっくりとこっちに向かってくる。年の頃は60才前後ぐらいだろうか?カクさん達よりも確実に年上だな。肩幅はガッチリしていて太い手足に筋肉質な体つき。頭はツルツルのスキンヘッドだ。
「お前がEDOから来た冒険者か?」
「は、はいい」
オレは余りの事に何も言えない。するとダイゴロウさんは
「お前、「最後の洞窟」に行くんだって?オレ達北東の人間を差し置いて」
(そうだよな。EDOの人間が地元荒したらそりゃーイヤだよなあ。)
オレが俯いて何も言えないでいると、更に話は続く。
「EDOじゃあ、期待の大型新人って言われていい気になっているらしいな。それでオレ達の目の前で「転移の魔導具」掻っ攫って一儲けしようって言うのかい?」
そうだ、オレ達はその「転移の魔導具」のために今まで頑張ってきたんだった。
そこで勇気を振り絞り、決してカタギには見えないダイゴロウさんに話しかける。
「あの、オレ達はその「転移の魔導具」がどうしても必要なんです。このコタロウの弟のコジロウをそれで呼ぶんですから」とコタロウを指さしてやっとそれだけ言う。すると、
「な・ん・だ・とおおおおおおお」と目を見開いてオレを睨む。
(やべえ、大事な「転移の魔導具」をネコのためなんかに使いやがってって事だよな)
でもオレも引けないぞ。と思っていると
「そのネコちゃんの生き別れの弟をソレで呼び出すって言うのか?」と聞いてくるので
(生き別れの意味合ってるかな?)と思いながら「ハイ」と答える。
するとダイゴロウさんの目にみるみるうちに涙が溢れ出した。
「お前はなんていいヤツなんだあああ。オレはお前を気に入ったぞ。ちょっとこっち来てオレ達と一緒に飲むぞ」
とオレの腕をゴツイ手でガッシリと掴み、そのまま強引に連れて行く。
(なんか知らないが、ともかく大丈夫そうだな)




