第32話 シュウ、携帯型WiFiを買う
本日もブックマーク登録頂いた方がいらっしゃいました。ありがとうございます。これを励みに投稿を続けますのでこれからも応援よろしくお願いします。
オレは頭の中で計算してみる。
まず最初に山グリズリーやなんやかんやで 70万
次に、女郎グモとその糸で 300万
そしてビッグバイトタートルと甲羅で 550万
最後に今、コウノスケさんに貰った 200万
合計 1,120万イェンだ
もちろん、いくらか使ってはいるが1,000万は超えている。よし、これで念願の携帯型WiFiが買えるぜ。
「コウノスケさん。ちょっと教えて頂きたいのですが...」
「はい?なんでしょう?」
おれはコウノスケさんに携帯型WiFiが売っている店の場所を聞き、早速その店に向かった。
その店はEDOの中心にあった。一度も見たことはないがEDOの街は中心にEDO城があり、そこに殿様が住んでいるそうだ。城の周りには武家屋敷が並び、元武士階級の人が住む。さらにその周りには庶民の住居がある。そして庶民の生活圏を「下町」元武士の生活圏を「上町」と呼んでいるのだ。
冒険者ギルドを始め、オレ達がいつも行動しているのは「下町」でオレは一度も「上町」には行ったことがなかった。
元々「上町」と「下町」の間には関所があり、庶民は「上町」に立ち入る事ができなかったそうだ。この関所が数年前に撤廃され今では自由に行き来できるのであるが、まだまだ庶民からすると「上町」は敷居が高いそうだ。
「上町」を歩く。いつもの街並みと勝手が全然違う。まず道路がキチンと整備されている。石畳が敷かれ道幅も広い。道路の両脇には、大きな武家屋敷が余裕を持って並んでいる。店もあるが、どの店も高級そうな店ばかりだ。呉服屋や宝飾店があったり、高級そうな料亭があったり。
そう言えば、コウノスケさんが元いた店も「上町」にあったそうだ。
その中でも一際大きな店が目的の店だった。オレは店を前にして中に入るのを躊躇う。とても大きくて格式も高そうな店構えだ。でもオレが躊躇っているのは、それだけが理由ではない。なんかイヤな予感がするのだ。
(ぼったくられたり、何か良からぬ事に巻き込まれたりしないかなあ)
でも入らなければ目的のモノは手に入らない。
暫らく迷っていたが、(あのコウノスケさんがオススメしてくれた店だから、大丈夫だろう)と決心し、“越後屋”と看板に大きく書かれた店内にコタロウと一緒に足を踏み入れた。
「すみませーん」
声を掛けるが、店内には客はおろか店員もいない。取りあえず店の中を見て回る。この世界に来て初めてこんな大きな店に入った。下町の店はこじんまりしたスペースに商品を所せましと並べているが、この店は広い店内にゆったりと商品をディスプレイしてある。
「あれ?これはカクさんが着けていた甲冑だ。」近くに小手と具足もある。他にも見て歩くとスケさんが着ていたローブもあった。やはりあの人達位になればこんな高級店で買い物するんだな。
女性用の服もある。あんまりジロジロ見れないが、着物以外にもチャイナドレスや洋服など色々と取り揃えてある。アヤ姉もここで買い物しているんだろうか?
すると一人のオジサンが姿を現す。
「いらっしゃいませ」
このオジサンどこからどうみても胡散臭い雰囲気を醸している。オレの事を遠慮なしにジロジロなめまわすように見た後、ふっと鼻で笑いやがった。
「何かいいものありましたか?」
とぞんざいな態度で聞いてくる。オレの身なりを見て貧乏人が冷やかしで来たと思っているのだろうか。
「あの、携帯型WiFiありますか?」
と聞くと、ますますバカにしたような態度をとる。
「あーウチは高級店ですので、もちろん置いてありますよ。お客様もお金持ちばっかりですからね」
良かった。すぐ買ってさっさとこんな店は出よう。
「それ欲しいんですけど」
「お客さーん。」
オレの話にそのオッサンが被せてくる。
「携帯型WiFiはとても高価なんですが、知ってますか?」
さすがにムっとして「知ってますよ」と言うと、ますますバカにしたような態度で
「本当かなあ」とオレが腹を立てたことにもお構いなしだ。
それにしてもこのままじゃ埒が明かない。困った困った。
その時、一人の若者が店内に入ってきた。見た目はオレの年と変わらないくらい若いが、一目で分かる高級そうな着物をうまく着こなしている。
するとオッサンがオレを押しのけ、すっ飛んで行き深々と頭を下げる。
「おかえりなさいませ旦那様」
その若者はオッサンには目もくれず、オレの方に向かってくる。そして目の前で深々と頭を下げた。まるで舞を踊っているかのような、ほれぼれするくらい綺麗な所作だ。
「いらっしゃいませお客様。本日はようこそお越し頂きました」
あまりの出来事にオレは怒りも消え失せ、呆然となる。
「なにか私どもでご用意できる品はございますか?」と聞かれたので、慌てて答える。
「あ、あの。さっきから携帯型WiFiが欲しいと言っているのですが…」
すぐにさっきのオッサンに持ってこさせるよう目で合図を送る。そしてオレの方に向き直った。
「初めまして。この店の主をしておりますトキと申します」
ともう一度、深くお辞儀をされた。
改めてこの若者をよく見てみる。本当に若く見える。ひょっとしてオレより年下じゃないだろうか?ところが、まるで有名な歌舞伎俳優のように高級な着物を見事に着こなしている。そして、その表情はとても穏やかで慈愛に満ちあふれている。
そのまま、「どうぞ」と奥に案内される。そこにはこれまた高級そうなテーブルとイスが並べてあった。勧められるまま、腰かけるとそんなオレに、慣れた手つきでお茶を淹れてくれた。一口飲んでみたが、物凄く美味い。温度も丁度よくあっという間に飲み干してしまった。
そんなモロ庶民のオレの様子を全くバカにすることもなく、ただただ微笑みながら眺めているトキさん。
「私どもで仕入れた王露は、お気に召して頂けたでしょうか?」
「は、はい」
王が飲むくらい高級だからそう名付けられたそうだ。
それにしてもこんなVIP待遇は生まれて初めてだ。高級そうなお店で高級そうな服を着たお店の主に高級そうなお茶を淹れて頂く。
ところが庶民のオレからすれば非常に居心地が悪い状況なのに、その逆だ。トキさんの心遣いが心地よくてまるで嫌な気がしないのだ。これが一流の接客術なのだろう。
そんな事を思っているうちに、さっきのオッサンが大慌てで大きな箱を持ってきた。
「あれ?思ってたより大きいな」
ポケットWiFiならポケットに入るサイズだから、こんな大きな箱じゃなくてもいいハズだが。
するとトキさんが
「すぐにお使いになりますか?」と聞く。オレが頷くと箱から中身を取り出す。
「コレは…」
今や伝説となったバブル時代に流行ったトレンディドラマに出演していたトレンディ俳優たちが使っていたという肩にかけるタイプの携帯電話の見た目そのままだ。
早速、肩にかけてみた。少々重いが、サラリーマン時代はもっと重いバッグを持ち歩いたものだ。これくらいなら問題ないだろう。
「こちらを指で押さえると起動します。その後は、お客様から微量の魔力を供給し動作します。」
とトキさんから説明を受ける。魔力の消費量は1日使ってMP3くらいだ。
「あ、お会計」オレは風呂敷包みをアイテムボックスから取り出す。10,000イェンの束が10個出てくる。事前に冒険者カードから引き出してきたのだ。
「たしかに頂戴いたしました。」
トキさんは、札束をろくに確認もせずにそう言った。(あれ?本当に大丈夫なのかな?自分で言うのもなんだけど)
まあいい。オレはトキさんに礼を言い店を出て行こうとする。するとトキさんがとても自然な動作でスッとオレの肩から携帯型WiFiを外してアドバイスをくれた。
「お客様、大変高価なモノですのでアイテムボックスにて持ち歩く事をオススメいたします」
なんと、携帯型WiFiはアイテムボックス内でも使用可能なのだ。まあ、考えてみればそうだよな。
「色々とありがとうございました」店先でお礼を言う。トキさんはまたまた、きれいなお辞儀をした後、「イエ。こちらこそ。今度ともご贔屓頂くよう宜しくお願いいたします。シュウ様」
え?なぜオレの名を?不思議そうな顔をするオレにそっと答える。
「ネコちゃんを連れた冒険者様の話は、とても有名でございますから」
最後まで完璧な対応だった。




