第296話 奥の手
一矢を報いたジョーは魔王の様子を伺ってみる。攻撃後、一瞬だけ会話を交わしまた上空へと飛び上がる。深手を負った魔王であったが、治癒魔法によりみるみる回復しているのが確認できた
(やっぱり、この技だけでは決め手に欠けるか)
そう、さすが最強ジョブとも言われる「竜騎士」の固有技だけあってほぼ無敵のこの技であるが、重大な欠点の一つが「連撃ができない」ことである
もちろん一撃の破壊力はさすがなのであるが、さすがに魔王クラスの敵を一撃で沈めるには至らない。本来この技を魔王にかけるには複数の竜騎士が必要なのである。もしくは複製にてジョーを複数にしてからの攻撃が有効なのである。が、高度魔法である複製を使えるほどの魔力はもう残っていないのである
(まだ我慢の時だ、きっと勝機は見つかる)
「まだまだあああ」
なんどもなんども攻撃を繰り返す。決定的なチャンスを生み出すまではこれを続けるしかない
ジョーが宙に飛んで何度目だろうか?とうに100は超えたころ、ようやく決定的なチャンスが巡ってきた。これ以上はないほどのタイミング、速度、角度、魔王の体勢など諸々全てが完璧に合わさる。これを逃せば次はない。ジョーは本能的に悟った
ズガアアアアアアアン・・・
「う、うああ・・」
これ以上ないほどの攻撃は、紙一重で躱され反対にカウンターを喰らってしまった。さきほどから、左半身の感覚がない。どうやら今の反撃で吹き飛ばされたようだ。チャンスを狙っていたのはジョーだけではなかった。魔王も、ジョーの攻撃を繰り返し喰らいながらもそのパターンを学習し虎視眈々と反撃の機会を窺っていたのだ
「さ、さすがだな」
だが、これこそがジョーの狙いだったのだ。元よりこの戦いで生き残るつもりはない、相打ちで上等だ。ジョーは右半身に残ったすべてのパワーを右手に込める
「天翔龍」
ギュルルルルル・・
回転により貫通力を極限まで高めた螺旋がいま、魔王の急所である心臓を貫く・・・
「・・・あぶなかった。こんな隠し技を持っていたとはな。間一髪で封印が解けなければ負けてたわ」
槍先が魔王の心臓を抉る瞬間、封印が解け強烈な電撃を全身に喰らったジョーは致命傷を負ったのだった
「む、むねん・・・」
『ジョーちゃん』
『にゃあ、ジョー・・』
右半身だけになったジョーの全身から光の粒子が立ち昇る。もう、数舜でジョーの存在がこの世から消え失せる。残された者たちに見送られながら・・
「じょ、ジョー?」
『ご主人様!!』
その時、今まで気を失っていたシュウが目を覚ます。一瞬で状況を把握したシュウは空を見上げる
「くっくっく、とうとう残されたのはお前たちだけになったな。例え吾輩の片割れとは言え、成長するには圧倒的に時間が足らぬ。ましてやいまの吾輩とでは勝負にならん、ようし、ひと思いにまとめて消し去ってやるぞ」
「くっそ、アイに続きジョーまで・・許さん、お前は絶対に許さんぞ」
憎らしい敵を睨みつけるも、相手は冷笑を絶やさない。と、シュウと魔王の間に割って入るものがいる
『にゃあ、ご主人様。ここでお別れだにゃあ』
「こ、こじろう?」
『コジロウ?なに言ってるにゃ。僕たちはいつも一緒だにゃ』
『コタロウ兄ちゃん、ご主人様をよろしくにゃあ。いままで楽しかったにゃあ』
「こ、こじろう?なにを?」
ただならぬ雰囲気のコジロウにイヤな予感しかしない。もうこれ以上、大事なものを失いたくない。シュウはコジロウが何をするか問いただそうとする。そして、その雰囲気を感じ取っているのはシュウだけではなかった
「もはや、何もする余裕はない。と思いたいが、そういう訳でもないのだろう?だが、今回ばかりは阻止させてもらおうか。この肉体の扱いも十分堪能したからな」
ズガーン
先ほどの炎の玉をすかさずぶっ放す。かろうじてコジロウの張ったバリアに阻まれるが、何発もは持ちそうにない
「こ、こじろう?一体なにをするんだい?」
『にゃあ、ご主人様とコタロウ兄ちゃんにはある場所に行ってもらうにゃあ』
「ある場所?」
『詳しく説明している暇はないにゃあ。でも、今から時空魔法を使うにはちょっと余裕がないにゃあ』
『時間稼ぎなら、わらわがするにゃん』
『ムリだにゃあ。ミイナは攻撃特化型だにゃあ』
察するにコジロウが今から自分とコタロウをある場所へと飛ばしたいらしい。なぜ、いままでそれをしなかったのか?と思わなくもないがきっとそれ相応の理由があるのだろう。だが、それをさせじと魔王がジャマをしてくる。そしてそれを阻止するのにミイナだけでは少し荷が重い
「くっくっく、どうやら貴様の思惑通りにはいかないようだな。悪いがこのまま終わらせてやろう。そらっ」
ズッガアアアアアン
先ほどはたった一発の炎でバリアが壊れそうになったのだが、今度は5発も撃ってきた。絶対に防ぎきれないのは目に見えているので全員が衝撃に備えて目をつぶり身を固くする
「?」
が、一向に衝撃がないためにシュウは恐る恐る目を開けてみる。と、眼前には見慣れた、が、予想外の人物が立っていた。そして、その意外な人物が魔王の攻撃を全て防いだのである
「え?師匠?」




