第294話 意外な決着
心臓を一突きしたと思った瞬間、魔王の姿は消え反対に自分の背後に回り込まれていた。そして、魔王は自分の杖をそのまままっすぐにジョーの頭部へと振り下ろした
(ま、まじか?ここまで読まれていたとはな。完敗だ、やはり魔王は強かった)
ドゴオオオオオ
「?!」
(うん?どうした?ここが死後の世界か?もう止めを刺された後なのか?自分が死んだ瞬間を感じないほど一瞬の出来事だったのか?)
ジョーは気付いていなかった。自分がいつの間にか吹っ飛ばされ、魔王の致命の一撃を避けられたことに。そして、自分の代わりにその一撃を受けたものがいたことを
『くっくっく、調整者たる我がここまで肩入れしてしまうとはな』
「ど、ドラゴ?」
絶体絶命のジョーを突き飛ばし、その身代わりに魔王の攻撃を受けた真っ白なドラゴンがいつの間にか目のまえに立っていた
「ど、ら、ご?」
『ふん、いままで数多の勇者を育ててみたが貴様が一番ウザかったわ』
「どらご!!」
『なにを泣いている。貴様、我を恨んでいたのではないのか?』
「そんな、ボクだって馬鹿じゃない。キミの立場も今ならわかる。こんなボクを今まで育ててくれたことに大きな感謝をしている」
真っ白なドラゴンの全身から光の粒子が立ち昇っていく、真っ白なその粒子はまるで純白の雪の結晶のようだ。ジョーの身代わりとなり魔王の攻撃を受けたドラゴの命がいま尽きようとしていた
『ふん、まったくどこまでもお人好しなやつだ。だが、まあよい。貴様と過ごした時間悪くはなかったぞ。我は一足先に行かせてもらう。せいぜい最後まで足掻いてみよ』
パアアア・・
巨大な龍が光の粒子に包まれて、そしてその姿が全て消え去った・・次の瞬間、ジョーの全身がまばゆい光に包まれる
(我の闘気を貴様にやろう。これで少しはまともに戦えるはずだ、我がしてやれる最後の仕事だ)
「ドラゴ・・」
宙を仰ぎ見るが、もちろん何も見えない
「くくくく、ヤツとも長い付き合いであったがまさか最後は勇者を庇って死ぬとはな。そんな一面があったとは驚いたぞ」
「だまれ」
「なに?」
「だまれ!!」
バシュッ
一瞬で魔王の懐へと間合いを詰める。そのまま手にした愛刀「エックスカリバー」を上段に構え、そのまま袈裟に斬りかかった
ガギン
惜しくも魔王の杖に阻まれたが、手応えがさきほどまでと全然違う。少なくとも力負けはしていない。ドラゴから貰ったオーラのおかげでスピード、パワーともに各段にあがったのが感じられる
キンキンキンッ
剣戟もさきほどまでとは、まるで勝手が違う。力負けしないのでもっと積極的に攻め込めるし、更にスピードで翻弄できるため、魔王の隙をつきやすくなる
ザシュッ
「?!」
そしてとうとう、魔王に一撃を与えることが出来た。左肩にかすり傷程度の傷であったし、すぐに治療されてしまったが
(だが・・)
「どうだ魔王、どうやら立場が逆転したようだな?これでもまだボクと剣技だけで戦うというふざけたマネを続けるのかい?」
「ふん、少しだけ力があがっただけで調子に乗りおって。だが、貴様の言う通りのようだな」
「そうだね?その方が賢明だと思うよ。早くその自身にかけた結界を解除することをオススメするよ。キミも魔法を封印したまま死にたくはないだろうからね」
(やっぱりダメか)
いくら状況が好転したとは言え、あくまでも魔王が魔法を封じた状態でのことである。できることならこのまま戦闘を続けたいのが山々であるジョーは挑発を試みるが・・・
「だが安心しろ。この結界は非常に強力でな。貴様との戦いが終わるまでは、例え吾輩と言えど解除することはできないのだ」
「恐れ入る、さすが魔王様だ。自分の名誉のために、そこまでのことをするとは。それとも単純にボクのことをそれだけ見くびっているということかい?」
「なあに、吾輩のように長く生きていると刺激に飢えてくるのでな。それに最後の戦闘となるわけだから少しでも楽しみたいだけだ。まあ、貴様の実力を見くびっているのは否定しないがな」
とは言いながらも片手もちの杖を両手に持ち替える。さすがの魔王もパワーアップしたジョーの攻撃を受けて、気を入れなおしたというところだろうか?
キンキンッ
「ふむ」
「どうしたんだい?」
キンキンキンッ
(く、なんて強いんだ。これじゃドラゴの仇を討つどころじゃ・・)
「やはり、武器は両手で持った方が強いな」
「な?!」
なにを当たり前のことを?いや、もしかしてそんな当たり前のことさえ知らなかったのか?ジョーは今更ながら魔王のポテンシャルに驚愕する。確かに今までの魔王の攻撃手段は片手で武器を持ち、ひたすら急所を狙うだけのものだった。だが、シンプルながら強いその攻撃に惑わされジョーは肝心なことを見落としていたのだ。そう、魔王の動きがあまりにも素人のそれであることに
ドラゴが残してくれたオーラが加わったことにより一時優勢となった剣戟が拮抗状態となる。
が、その状態もいつまでも続くとは思えない。そう、魔王の剣技のレベルが明らかに上がってきているのだ。単純に武器、といっても杖だ。そもそも打撃系の武器ではないそれを片手持ちから両手持ちに替えた。たったそれだけのことであっという間に両者間にあった差を埋めたのだ。更に両手持ちのメリットとして力強い攻撃を繰り出すだけでなく武器である杖の扱いがより正確になったのだ。今まででも的確に急所を狙ってきたというのにその精度がさらに増してきている。まるで今までの攻撃が雑に見えてくるほどの正確さだ
「くっくっく、せっかく聖竜のオーラで立場が逆転したと思ったのもつかの間だったな。もはや、これ以上打つ手はあるまい?いさぎよく諦めるか?それならひと思いに死なせてやるぞ。それとも最後まで意地汚く足掻くか?」
(っく。魔王のやつめ。だが、このままではやつの言う通りやられるのを待つしかないのも確かだ)
ジョーは迷っていた。そう、ドラゴにオーラを譲り受けてからずっと脳内に浮かび上がる言葉の意味についてだ
『竜騎士にチェンジしますか?イエス、ノー?』




