第286話 ドラゴの実力
グオオオオ
ドラゴがブレスを吐く、その威力は凄まじく魔王とてまともに喰らったらダメージは必至だ
ズガアアン
『ふん、ファイアボールで相殺したか』
だが、魔王は即座にファイアーボールを放出してそれを防ぐ。その動作は非常に滑らかで全く危なげない。全力の攻撃にも魔王は余裕をもって避けられる。だが・・ドラゴは倒れているシュウを一瞥する
『ヤツにばかり良い恰好はさせられないだろう。ちがうか?』
『そうだにゃん、わらわにもまだまだやれることはあるにゃん』
そういうとミイナは瞑目する。と、ミイナの周りにオーラが集まってくる
(わらわには、ジョーちゃんやドラゴちゃんみたいな魔王のオーラを防げるようなオーラは無いにゃん。でも・・)
『獣王爪』
ミイナの失われた右前足の先にオーラで形作られた刀が顕現する。鋭利な刃物状のそれをまるで義足のように扱い、四肢を使って大地を踏みしめる
グオオオオオオオオ
ミイナの一連の動作を見るや否や、ドラゴがブレスを吐く。さきほど放ったドラゴンブレスの比じゃない。圧倒的に強いブレスだ。魔王はすぐさま迎撃態勢に入るが、ただのファイアーボールでは防げないことを瞬時に理解する
「ウォール」
魔王の目の前に壁ができる、その正体は幾重にも重なった空気の層だ。それを超高速で循環させることによって熱を完全にシャットアウトできる。もちろんドラゴのブレスも例外ではない
「っつ」
はずであったのだ。が、その壁を越えて魔王へとダメージが入る。そしてそのことに少なからず驚く
『意外だったか?』
魔王が誕生以来、なんどもなんども魔王がまた封印から甦るたびに戦ってきた。もちろんその度に勇者と聖獣が共にいた。時代時代の勇者と聖獣とだ。だが、記憶が引き継がれる魔王とドラゴ、いや聖竜だけはなんども相まみえている。その数、ゆうに1000は超える
だからこそ、魔王は驚いたのだった
『貴様、我の事を甘くみていないか?』
全身を覆う鱗はまるで青磁器のようにきれいな蒼みがかった白。非常に滑らかでその美しさは魔族の国のどんな美術品でも敵わない。そしてその瞳は深い蒼だ。これまたどんな宝石にも劣らない美しさだ
なんどもなんども戦ってきた。そしてその度に勝ってきた。もちろん、魔王が甦るたびにお互い強くなっていく
だが、勝つのは常に自分だった。同じくヤツのブレスも喰らうことはなかった。仮に喰らったとしてもダメージを受けることもなかった
(なんだ、弱いじゃないか。こいつ)
その後、幾星霜もの長い年月戦い続けるが危なげなく勝てる相手として完全に舐めていた
(そうか、吾輩に勝つわけにはいかなかったのだな)
ところが、自分の片割れであるシュウと出会い色々な記憶が呼び覚まされることによって今まで自分が勝たせてもらっていたことを理解したのであった。調整者として存在するドラゴいや、聖竜は魔王を封印するのが目的でありそれを倒してしまっては本来の目的が果たせないのだ
だが、ことこの場に及んではその限りではない。何しろもう封印する必要はないのだから
つまり、いま魔王の目の前にいる聖竜は初めてその実力を見せていることになる
「おもしろい、戦いとはこうでなくてはな」
自然に笑みがこぼれる、生まれてからこの方常に余裕で戦ってきた。例え相手が勇者だろうが、それは変わらない。圧倒的な力の差をみせつけ勇者一行を全滅させて絶望の底へ突き落す。もちろん、その後封印されるので絶望するのは自分であったが・・
だが、長い人生の中で一度も本気で戦っていない。この恵まれた戦闘の才能があるにも関わらずだ。魔王にとって戦いとは相手を凌辱することであり、苦戦はおろか自分が生命の危機に面することも許されることではなかった
だが、そんな一方的な戦いが続く中でいつしか本気で戦ってみたいという欲望が芽生えてきたのも事実である。実際、目のまえの好敵手と戦うことに好奇心が抑えられない自分がいる
そして、実はその目のまえのドラゴも全く同じ気持ちだった。いや、それはドラゴの気持ちの方が遥かに大きいかもしれない。「調整者」としての役目とは言え、全力を出せぬままずっと敗け続けるのだ。その気持ちは計り知れない
グアオオオオオオ
ドラゴの咆哮に辺りの空気が震える。本気のドラゴンの威嚇だ、さすがの魔王でも多少動揺する。が、いまはそれが心地よい。本当の戦いがこれからスタートするのだ
ドゴオオオオオン・・
感知スピードを遥かに超えた攻撃を喰らい吹っ飛ばされる。その攻撃の正体はドラゴの掌打であった。その巨体に似合わぬ超スピードで放たれた一撃を幾重にも張り巡らされた魔王の結界ごと構わず叩きつける。この世界、最高、最強の一撃である
ブウン・
ドラゴの攻撃は止まらない、魔王が吹っ飛ばされた先にすかさず転移し自らを反転させその強靭な尻尾の一撃をさらに叩き込む。
15メートルの巨体のドラゴの全体重を乗せた一撃だ。吹っ飛ばされた勢いも合わさったその威力は究極の物理攻撃だ
グワアアアアア
全力の攻撃を放った解放感から歓喜の咆哮をあげる。そして周りの空気がどんどんと緊張感を帯びてくる。ドラゴの感情の高ぶりによって、そのオーラの質が変わってくる。無限に湧き出す魔力と闘志が高い練度で融合していく
そう、いまやドラゴの帯びている竜闘気は魔王のそれと同じくらいの質と量まで高まっている
「くくく、これは予想外だったな」
ヨロヨロと立ち上がる魔王、もちろんあれだけの攻撃を受けて無傷とはいかない。が、それでも闘志は一向に衰えない。どころか更に燃え上がる。予想外なのは自分のこの高揚感含めての事だったのだ
全身がバラバラになったかと思うような衝撃を受けた、今も火傷したかのように熱い。そしてそれを行った当人が闘気むき出しに睨みつけている。長い人生の中でこんな緊張感は経験したことがない。正直、逃げ出したい気持ちにかられる
「逃げ出したい?この吾輩が?」
自分が敗けるかもしれない相手と対峙している事に初めて気づく。なるほど、これが本当の勝負というやつなのだな
自分が置かれている状況を理解した時、魔王は自然に不敵な笑みがこぼれた




