第284話 覚醒
ゴゴゴゴゴ・・・
「う、うわあ・・」
絶望感、無力、圧倒的な力の差、そして死・・・そんな単語が脳内に浮かんでくる。傍から見ているだけでそうなのだ、対峙している彼らの心境はいかばかりであろうか
『よもや、これほどとはな。どうするジョーよ、われらに勝ちの目はないと思うが』
「しれたこと、最後まで立ち向かう」
『ジョーちゃんの言う通りだにゃん。それがわらわに課せられた使命だにゃん』
悲壮な決意を持った面々が蒼白いオーラを纏った魔王と対峙する。が、その戦力差は戦うまでもなく歴然だ。そう、身にまとったオーラが桁違いなのだ。この世界ではある程度の強者であれば自然とオーラを身にまとう。もちろん、この世界の強者であるジョーやドラゴ、ミイナもそれぞれオーラをその身にまとっている
「質も量も吾輩がうえ。弱い者いじめになってしまうな・・」
目の前の3者ともこの星でも有数の実力者たちだ。その戦闘力に匹敵するものはほぼいない。そして、それぞれがその身にまとうオーラ量はそれに見合うだけの立派なものだ。だが、いかんせん魔王のオーラ量とは比べ物にならない。
圧倒的なオーラを常時立ち昇らせている魔王と比べてみると彼らのオーラはあまりにも貧弱に見える。
そして、その質である。灼熱を超えた超高温を思い起こさせる蒼い炎は敵でありながら、もはや高貴ささえ感じさせる
ブワッ
「?!」
突然、途轍もない突風がジョーたちを襲う。ただの突風ならダメージを喰らう訳ないのだが、衝撃で分身体であるジョーが3人消滅してしまった。その破壊力は推して知るべしだろう
「な、なにを?」
「まだ、この覚醒体に慣れていないのでな。すこーしだけ動かしただけよ。このようにな」
魔王が杖を振るう。と、また同じような突風が吹きジョーが2人消滅する
「た、ただの素振りでこの威力・・か」
ブシュウ・・
「な、ミイナ?!」
『しくじったにゃん』
ミイナの右前足から鮮血が噴き出す。慌てて駆け寄るとミイナの右前足が無くなっていた
「ど、どうして?」
「ワガハイには物理攻撃は効かぬぞ。覆っている闘気で防がれるからな」
どうやらミイナの繰り出した絶対攻撃をオーラで防いだだけのようだ。当の魔王は涼しげな表情でこちらをみているだけだ
「こ、これを飲むんだ!!」
シュウは慌ててアイテムボックスから「クイーンゼリー」を取り出すと飲ませる。以前ダンジョンで手に入れたこの世界における万能薬だ。その効果は絶大で生きてさえいれば四肢の欠損さえ元通りになるという超便利グッズなのだ
「え?な、なぜ?」
ハズなのだが、なぜかミイナの前足が戻らない。それどころか止血さえもできない。その傷口からはいまも血がドクドクと流れている
「み、ミイナ!」
『にゃあ、魔王の放つオーラの効果で通常の治癒能力が効果無効となってしまうにゃあ』
「こ、コジロウ・・」
いつの間にかコジロウが側に来てミイナの傷口をペロペロと舐めている。みると出血が止まっている。が、痛々しい傷跡はそのままだ
『ごめんにゃあ、巻き戻しを使えば傷も元通りだけど魔力がもう足りないにゃあ』
『ううん、コジロウちゃんありがとにゃん』
2人のやりとりを冷ややかに見ていた魔王がここで口をはさむ
「ほほう、傷口だけピンポイントで時間停止をかけるとはなかなか小癪なマネをするではないか」
興味深そうにコジロウの方を見る。が、少し不思議そうな顔をする
「貴様、は獣族の聖獣?なのか?イヤ、聖獣はアイツか?そこの白いヤツは獣王だな」
一瞬、視線を向けられたコタロウがビクッとする。コタロウのやつ自分がかやの外だからってすっかり香箱座りでリラックスしてんじゃないか
「まあ、吾輩の片割れがいたくらいだ。知らないことがあっても不思議ではないか。どちらにせよ吾輩の脅威とはならないだろうからな」
フンと鼻であざ笑う。が、いまのやりとりはどういうことだ?コジロウは獣族で生まれ育ち、コタロウと共に地球に転生し、再び戻ってきて覚醒した聖獣なんじゃないの?コジロウの方をそっと見るがいつも通りすまし顔だ
「よし、では第2ラウンドを開始するぞ」
途端に魔王の周りにオーラが収束していく。さっきまでは垂れ流し状態だったオーラがまるで意思を持っている生き物のように魔王の周りを規則正しく循環している
「あかん、オーラを扱う技術も一流やん。つけいる隙がなか」
さすがのアイもお手上げか、振り返って最愛の妻の様子をみる。なんかスカウターみたいなのを付けて一心不乱にエアピアノの演奏をしている。もちろん演奏ではなく相手の弱点などを探っているのだろうが
「ふむふむ」
「なんかわかったの?アイ?」
「魔王のオーラは普通と違う」
「いや、それは分かってるってば」
「せからしか!話を最後まで聞かんね」
「あ、はい。スミマセン」
「魔力と闘気を融合させてるようやね」
「闘気と融合?」
「うん。普通、魔法は体内にある魔力を使って、身体強化などのスキルは闘気をつかって、というように使い分けているんやけど。魔王の場合、この2つを融合させてどっちでも使えるようにしてるんよ」
「へえ、それは便利だねえ」
例えるならば全ての熱エネルギーを電気で賄うオール電化みたいなものか?
「便利なだけやなかよ。融合させることによってエネルギー効率が格段に上がるんよ。例えば同じ魔力量を魔法に注ぎ込んだとしても、出力された魔法は魔王と一般の魔法使いでは全く違うものになるんよ」
「へえー、じゃあなんでみんな融合させないの?」
「うん、それが出来れば苦労せんけどね。必要な才能が2つあるんよ」
「2つの才能?」
「うん、一つ目のは才能は技術、2つの異なるエネルギーを融合させるなんて簡単には出来ないやろ?並外れた技術力と天才的なカンが必要なんよ」
「なるほど、じゃあもう一つは?」
「うん、例え技術的に可能だったとしても先天的な資質を持ってないと意味がないんよ」
「資質?」
「そう、2つ目に必要なのは相当な魔力量と闘気の量。それがないと意味がないんよ。例えば魔法職だと魔力量は多いかもしれんけど闘気はそれほどでもないやろ?そうすると闘気不足で十分なオーラを練れないやろ?逆に戦士だと魔力不足なんよね」
なるほど、確かにアイの言う通りか。いや、だが待てよ。この2つを兼ね合わせているヤツがいるじゃないか
「アイ、それって」
「うん、そう。ジョーとあのドラゴンにはその才能があるんよ」
「やっぱり」
「でもね、彼らの鬼闘気と龍闘気は魔王のオーラ、そう魔闘気とでもいうかね、それに遠く及ばないんよ」
それは確かにそうだ。見た目だけでもその違いが分かるくらいなのだ。つまり、常人と比べても高い能力を兼ね備えたジョーとドラゴ2人のオーラをもってしても魔王には全く敵わないということか?だが、それが分かったとしても
「もうお手上げと思うやろ?でもね、そんな高純度のエネルギーが弱点と・・」
「な、なるほど。つまり?」
「ガフッ」
「え?アイ?」
目のまえでいままで元気にしゃべっていたアイが大量の血を吐血していた