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第266話 メイリンの過去

「ゴフッ・・」



メイリンが盛大に吐血する。いつもの余裕たっぷりの様子は全くなく顔面蒼白で生気が全くない。



「メ、メイリン!!な、なに?!なんだ、これは?」



ピーちゃんが慌てて駆け寄ろうとするが、なぜか全く身動きが取れない。そのことに驚愕しつつもどうにか駆け寄ろうともがき続けるのだが、動ける気配がない。



「ぴ、ピーちゃん」

「メ、メイリン!!」



な、なぜだ?なぜこうなった?メイリンはたった今、相手のナンバー3を撃破したばかりではないのか?それなのになぜ今瀕死なのだ?シュウは、目まぐるしく動く戦況が全く理解できない。と、ともかくまずはハイポーションだ、いや、それじゃ間に合わない。メイリンの身体からはすでに粒子が立ち上ってきている。



「あ、そうだ。”クイーンゼリー”があった」



大分、序盤であるがコタロウとダンジョン攻略した時にその階層の女王バチがドロップしたアイテムだ。確か、「全ての状態異常および戦闘不能状態を解除し、尚且つ体力および魔力が満タンになる」この世界におけるラストでスペシャルなアイテムだ。



「このアイテムって、めっちゃくちゃ便利だけど、なーんかもったいなくて使うことなかったんだよなー」



これはこの世界だけでなく、前世でのゲームでの経験を含めての話である。急いでアイテムボックスから取り出す。ようし、これを飲ませれば、あ、いや、飲めない場合は振りかければいいのか?



『もういい・・・』

「え?メイリンちゃん?」


はっとして念話の相手の方へと視線をやる、その先には弱弱しいメイリンの姿があった。身体から立ち上る粒子はどんどんと増えていき、その姿の輪郭がぼんやりと浮かび上がっている。



『そんな貴重なアイテム使わなくてもいいよ、私はここでリタイアするから』

『え、そ、そんな。メイリンちゃん、ダメだよ。これで復活して』

『・・・ごめんね』

『え?』

『なんだか、疲れちゃったの』

『ど、どういうこと?』

『うーん・・説明するのは、ちょっと時間がないかなあ』



突然、辺りの世界が白黒反転する。時間が流れない、光も当たらない世界だ。




『にゃあ、メイリン。ちゃんとご主人様に説明してほしいにゃあ』

『こ、コジロウ?!』




コジロウの時空魔法で創った、時間の流れが止まっている、光も音も届かない世界。いま、まさに命が尽きかけているメイリンの崩壊もこの世界では止まっている。



『・・・』

『め、メイリンちゃん』



崩壊は止まったが、その身体は少し透けているような気がする。いつも快活な性格のメイリンであるが、いまのこの状況に至っては儚い美少女といった風情だ。まさにファンタジー世界あるあるで、とても現実味のある光景とは言えない。もちろんこの世界は「ゲーム」だということはシュウも理解はしている。が、それでも目のまえの光景は「ただの仮想現実」なのか「リアルな現実」なのか、なんとなくその答えを避けてきた気がする。



『ありがと、コジロウくん。時間を作ってくれて』



シュウが物思いにふけっていると、メイリンが口を開く。いつものきゃぴきゃぴした感じではない、落ち着いた口調だ。そのことに若干の違和感を覚えつつも次の言葉を待つ。



『シュウくんは、「管理者」だから私が見た目通りの年齢じゃないって知ってるのよね?』

『う、うん』



そうだった、すっかりその設定を忘れていたがこの世界の「プレイヤー」であるゼウスが任意のキャラクターにこの世界の真実とも言える「この世の理」を閲覧できる権限を与えているのだった。もちろん、人族の中でもその「管理者」となっているのはほんの一部ではあるが、なかつ国代表のメイリンには当然与えられている。



『へえー、分かってたんだー。なーんかそれってちょっと傷つくなあ・・』

『い、いや。それは別に・・』



い、いやね。ファンタジー世界ではよくエルフ系の種族だと長寿で見め麗しい女性エルフが実は何千歳ってあるあるだからね。そういうものかと思ってたんだけども。というか、ちょっといつものメイリンっぽいないまのやり取り。



『ふふふ、いくら時間が止まっているとは言ってもあんまし無駄話ばかりしてもね。じゃあ、ちょっとコレ見てくれる?』



ブウン・・・



その途端、メイリンからメールが送られてくる。アイご謹製のメールアプリだ。このアプリはチーム全体の意識によって繋がれているため時間経過に関係なく作動する仕組みだ。よって、この時間が停止している空間でも問題なく使えるのだ。



『こ、これは・・・』



メールを開いた途端、膨大な量の映像データが脳裏に飛び込んでい来る。昔のシュウであれば、到底処理できるものではないがいまは違う。アイご謹製のデータ管理アプリによって瞬時に最適化されたデータがシュウの処理能力に応じて供給される。



まあ、そんな話はどうでもいい。その大量の映像データはメイリンの人生の歴史、そのものだった。






なかつ国でも有数の資産家に生まれたメイリンは、その恵まれた容姿と優れた才能も相まってさぞや華やかな生活を送ったことだろうと誰もが思うに違いない。実際には、全くそんな事はないのだが。


そう、メイリンの半生・・いや、人生のほぼ全ては戦いの人生であった。幼いころより武術に目覚めた彼女は道場に入門後も日々、研鑚に努め、瞬く間に、強くなっていった。


そして、あまりに強くなり過ぎたためその相手をできるものがおらず、その相手を人外に求め冒険者となったのだった。



だが、数々の高ランク冒険者たちを葬ってきた魔獣でさえももはやメイリンの敵とはなり得なかった。




より強い相手との闘いを切望していたメイリンであったが、その願いは叶うことはなくむなしい日々が続く中、ある日運命的な出会いを果たすことになる。



そう、なかつ国最強の魔獣であるアースドラゴンとの邂逅である。



文字通り命がけの戦いをなんとか生き残った彼女に託されたなかつ国の聖獣、不死鳥のピーちゃんと共に更に成長していくことになる。アースドラゴンとの戦いを通じて・・・



アースドラゴンは強かった、最初の戦いで舞踏の賜物ギフト覚醒めざめたメイリンにとってもあまりにも強大すぎる相手であった。


だが、それはメイリンも望むところであった。いままで渇望していた強敵が現れたのだ。メイリンは今まで以上に戦いに没頭するようになった、それは両親を含む周りの人間が全て亡くなってからは更に加速していった。



そう、不死鳥のスキル「不老不死」によってメイリンには膨大な時間ができたのだった・・










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