第257話 魔王の話
吾輩は魔王である。
名前は・・あー・・・名前はない。
何しろ、魔王は下々からは「魔王様」としか呼ばれないのだ。名前など必要ないのである。
吾輩は生まれた時から魔王だ。魔王として生を受けることが決定しているのだ。そして前世の記憶を引き継いで生まれてくる、もちろん前世も魔王として生まれ、そして魔王としてその生を終わらせている。いや、生を終わらせるというのは、正確ではないか。
頭の固い龍や、脳筋の獣、脆弱な人間などに吾輩は殺されたりはしない。あくまでも一時的に封印されているだけだ。そう、あくまでも一時的にである。
封印された吾輩はその場から動けない。そのまま何年も何年も気が遠くなるほどの年月を経て肉体が朽ち果てた後、魂がまた次の吾輩の肉体へと宿る。
そうやって何度も何度も転生を繰り返してきたのが吾輩である。
ここで吾輩の一生を教えてやろう。
まずは、吾輩生誕。
国中が大喜びする。吾輩が生まれることにより、魔族全体に「ばふ」というものが発生し魔族全員の魔力が上がるのだそうだ。それによって魔族の軍隊の戦力が底上げされ、今まで押し込まれていた戦線を押し返し領土が拡大する。そうして国力が上がった我が魔族が他の種族へと本格的に侵攻を開始する。
そして、吾輩成長。
何度も転生を繰り返しその叡智をそのまま蓄積しているとは言え、生まれたばかりの吾輩の肉体は脆い。そして幼少期の肉体では魔法も満足に扱えぬ。魔王とは言え生まれた時から強いわけではない。日々のたゆまぬ研鑚が吾輩を最強足りえているのだ。
吾輩の部下。
生まれてから吾輩が成長するまでの間に襲われては一たまりもない。その吾輩を守るのが四天王、吾輩の「ぼでぃがーど」である。魔族の中でも吾輩に次いで2番目から5番目に強い。四天王で一番強いのは「騎士」タイプだ。吾輩に一番忠誠心が高い、2番目は「参謀」タイプだな、なんか色々と言ってくる。3番目は「僧侶」タイプ、回復魔法が得意なヤツでなぜか色気のある女僧侶と決まっているようだ。4番目は、「鉄砲玉」タイプである。なぜか敵パーティに真っ先に突っ込んでいき真っ先にやられてしまう。せっかくの四天王があっという間に「三天王」となってしまうのだが、他の3人はいつもあまり気にしていない。せいぜい「参謀」タイプのやつが、「クックック、ヤツは四天王の中では最弱じゃ」とか言う程度である。
四天王全滅。
ある程度、吾輩が成長した頃合いに敵パーティが攻め込んでくる。「参謀」タイプが狡い手を使って相手を騙すのだが、成功した試しがない。「騎士」タイプが「魔王さまー、ぐはっ」と言って倒れたところを「おのれ勇者めー」と言いながら抱きかかえる「女僧侶」を見て、ちょっと「騎士」タイプが羨ましくなる。
吾輩覚醒
四天王全滅後、そのまま攻め込まれたらまあまあヤバいのだが、敵も結構消耗しているらしくそのまま撤退する。そして「今のままでは、魔王には勝てない」とか言いながら修行を積むのだ。もちろん、こっちもそれは願ったりなのだが。そうして敵がレベルアップに成功したころ、吾輩も覚醒する。どうやら「勇者の覚醒」とリンクするという「仕様?」らしい
敵パーティと戦闘
正直、覚醒した吾輩とは全く勝負にならない。今までの記憶を辿ってみても苦戦らしい苦戦をした覚えがないのだ。吾輩の前で次々と倒れていく敵の面々。「おのれ」などと言いながら悔し涙を流すのだが、こちらもおめおめと負ける訳にはいかないのである。もちろん、慈悲などあるわけもなく情け容赦なく止めを指す。
吾輩封印
血の涙を流し、仲間の死を悼む面々。残ったのは人族の「勇者」と獣族の「聖獣」と龍、ホワイトドラゴンとかいうヤツだな。正直まとめてかかってきても吾輩とは勝負にならないのであるが、ヤツらには絶対的な奥の手がある。それが「封印」だ。これは本当にヤバい。今まで何度も喰らってきたが、こればっかりは絶対に回避できないようだ。では、なぜ奴らは最初っから「封印」を使用しないのか?それは後述する。
封印後
四天王は全滅し、吾輩も封印され、と魔族の戦力が大きく減ってしまい。魔族大ピンチなのであるが大丈夫。実は敵勢力も大きく戦力が減っている。さきほどの「封印」であるが、人族の「勇者」と獣族の「聖獣」とドラゴンの生命が必要なのである。吾輩を封印するのだ、それくらいのリスクは必要なのは当然なのである。よってお互いの戦力が大きく減じてしまうため、それから暫くの間はまた両者間での膠着状態が続いていくのだ。
そして転生へ
吾輩が封印されている間も世界は動いている。獣族にはその時代、時代の獣王が生まれ、それに呼応するかのように我が魔族にも四天王が生まれる。魔族の方が獣族よりも寿命は長いのでそれぞれの交代のタイミングは違ってくるが。それによりお互いのパワーバランスが崩れ、魔族が押しているときもあれば、反対に獣族が押し込んでくることもある。そうして獣族の勢力が魔族を上回り、前線が更に押し込まれ、魔族全体がピンチとなったとき、吾輩の肉体に魂が宿る。
そして、吾輩がこの世に生を受けるのだ。




