第252話 覚醒
(さよなら2人とも、ボクがいなければこんな奴らに負けないよね。いままで本当にありがとう)
目前に複数のウインドカッターが迫ってくる。もちろん目には見えないのだがそこはジロガもネコ族の一員だ、気配でわかる。ジロガは観念して目を閉じた。
ザシュッザシュザシュシュッ
(あれ?おかしいな。全然痛くないぞ)
最悪の想像が脳裏をよぎる、まさか、そんな、ジロガは恐る恐る目を開けた。
「にゃ、お前のことは絶対に兄ちゃんが守って、やるにゃ」
「ジロちゃんには傷一つつけさせないにゃん」
「タロ兄ちゃん、ミイナ!!」
目の前には血だらけになった2人が倒れていた。懸命に顔をあげてジロガへと精一杯の笑みを浮かべて
ジロガは自分が取返しのつかない過ちを犯してしまったことにここで初めて気が付く。
「な、なんで?ボクのことなんてほっといてくれればいいのに・・・トロくて2人にはいつも迷惑ばっかりかけてにゃあ」
「ジ、ジロガはかわいい弟だにゃ。め、めいわくなんてかけられたこと、ないにゃ」
「そうだにゃん、ジロちゃんはとてもいい子だにゃん・・・」
2人は血だらけになりながら這いずりながらもなんとかジロガの元へとたどり着く。
「に、にげろ。ここは兄ちゃんに任せるにゃ」
「私たちであいつらをやっつけてやるにゃん」
(な、ん、で?)
なぜこうなった?足手まといの自分が死ねば、あとは強いタロ兄ちゃんとミイナ2人であいつらに勝てるのに?なぜ?
「がはははは、案外あっけなくカタがついたな。まあ、こっちとしては楽でよかったが」
残忍な笑みを浮かべ魔族の隊長がこちらへと近寄ってくる。2人の魔族兵はほっとした雰囲気でその場に座り込んでいる。
「がはははは、心配しなくてもお前もこの2匹と同じように始末してやるぞ。すぐに後を追えるようになー」
『・・・うるさい』
「はあん?」
魔族隊長は突然の念話に怪訝な顔をする。辺りを見回した後、ジロガへと向き直る。
「ひょっとして今のお前が?」
そして気付くのだった、今向き合っている獣族の子供が今までと雰囲気が変わっていることに
『お前たちを許さない』
「う、うわ・・」
ジロガの周りに高濃度の魔力が集中する。超高度魔法が展開されているときに起こる現象だ。
「な、なぜ?獣族のこいつが?」
隊長の表情に余裕が消え失せる。獣族の、それもこんな子供が魔法を使うだけでも驚きなのに魔族でもかなり上位の魔法使い並の魔力を感じる。
『ミーティア』
「ば、ばかな・・・古代上位魔法だと・・・」
空を覆いつくす数百の隕石によって魔族兵3人は跡形もなく消し飛んだ。
◇
「・・・ジロガ」
「ジロちゃん?」
「気が付いたにゃあ?」
ジロガは2人が息を吹き返したのをみてホッと胸を撫でおろす。高位治癒魔法によって瀕死だった2人の傷はみるみる塞がり、あっという間に全快したのだった。
(さてと、自分が何者か思い出したのはいいが・・・これからどうしたものか。と言ってもあの方の指示通りにするしかないんだけど)
「タロ兄ちゃん、ミイナ聞いて欲しいにゃあ」
すっかり塞がった傷を舐めて毛繕いしている2人へとジロガが話しかける。2人は、動作を止めてジロガへと向き直った。
「にゃ、どうしたにゃ?ジロガ?そう言えばどうやってあいつらがいなくなったのにゃ?」
「どうしたにゃん?ジロちゃん?」
優しく微笑みかける2人の表情はいままでと変わらない。たった今、ジロガが使った魔法のことにもまるで触れない。その態度を見てジロガの決心は固まった。
「タロ兄ちゃん、ボクと一緒に来て欲しいにゃあ」
「にゃ?どこ行くにゃ?兄ちゃんは、いっつもジロガと一緒だにゃ」
思ったとおり、タロガは一番言って欲しい言葉をいってくれる。そして、次はミイナだ。ミイナにも言わなければ・・・
「ミイナ、暫くの間お別れだにゃあ。でも、絶対絶対また会えるから。その時まで待っててくれるにゃあ?」
ミイナは凄く悲しそうな顔をする。俯いて涙をこらえるが、その大きな瞳からぽたぽたと涙が溢れ出す。それを見てジロガはいたたまれなくなる
「絶対だにゃん。約束だからにゃん」
顔を上げてミイナはやっとの事でそれだけ言った
◇
「転移魔法」
3人の周りに真っ黒な球体が現れる。深い闇に覆われてまったく光を通さない物体だ。
「タロ兄ちゃん、行くにゃあ」
「うん、分かったにゃ。ミイナ行ってくるにゃ」
2人はその球体へと飛び込んだ。
「タロちゃん、ジロちゃん、元気でね・・・」
残されたミイナは、その球体が消えるまでいつまでもその場を動かなかった。
◇
(ライガの旦那に頼まれて3人の様子を見守っていたが、まさかジロガが覚醒するとはな。だが、あれは覚醒なのか?)




