第247話 誕生
獣王とは孤高の存在である。
強さが全ての価値観を持つ獣族において最強の称号はそれだけの重みを持つ。その代償として獣王には子孫を残すことが認められない。一代限りのその肩書には継承権もないのだが、無用な争いを避けるためである。
◇
ネコ族は戦闘民族である。獣族の中でも高い戦闘力を有している彼らは生まれたときより戦闘力を測定され、その数値によって「戦士」と「非戦闘員」へと分けられる。戦士と認定された彼らはその後、一人前になるまで鍛えられ晴れて一人前となった暁にはまたその戦闘力によって様々な戦場へと派遣されていくのだ。
因みに彼らが戦っているのは魔族だ。いつの時代にも常駐する「獣王」と違い「魔王」は数千年に一度「復活」する。復活した「魔王」は魔王軍を率いて「獣族」および「龍族」と「勇者」に「封印」されるまで戦うのだ。では「魔王」が「封印」されたあとはどうなるのか?その後も戦いは続く。なぜなら封印された魔王を復活させるには魔力が必要であり、その魔力集めのためには戦争は必要だからだ。
ある戦場でライガとミイは出逢った。生まれた時から突出した戦闘力を有していたライガは周囲の期待通りに成長し一人前になると当たり前のように激戦区の最前線へと送り込まれた。そこでもメキメキと頭角を現し若手随一と噂されるようになったある日、新たに配属された新兵がミイだった。
「よ、よろしく」
「・・・」
生まれてこの方、戦いに明け暮れていたライガは目の前のキレイなネコにどう接していいか分からなかった。もちろん味方の中にも女戦士はいる。中には見目麗しい女戦士もいるのだが、今までのライガは彼女たちに興味を持たなかった。ところがミイの事はとても気になる。それがなぜだから分からない。こんなことは生まれて初めてだった。
ところがミイはそんなライガの事を最初は嫌っていた。いや、嫌っていたというのは正確ではない。正しくはライバル視していた。それも激しくライバル視していたのだ。
新兵の配属先がこんな激戦区の最前線というだけでミイがただものでないことが分かるだろう。そう、ミイも生まれた時から高い戦闘力を持っていた。ミイもその実力を遺憾なく発揮し、その実力をぐんぐんと伸ばしていったのだった。だが自分の少し上にはライガがいる。
どんなに頑張ってめざましい成果をあげたとしても、常に比較対象はライガなのだ。
「ミイもすごいけど・・・」
「すごいねミイ、でもライガはもっと」
どんなに見目麗しかろうが、ミイも戦闘民族であるネコ族なのだ。それもとびっきりの戦士だ。自分の強さを求めることが至上の命題なのだ。そんなミイは、この偉大な先輩を目の上のたんこぶとしか認識していなかったのだ。
苦労のかいあって、自分の配属先はあのにっくきライガと一緒だ。これからは十分に自分の凄さを見せつけてやれる。
ミイは頑張った、新兵としては十分すぎる、いや熟練の兵士と比べてもその戦績は群を抜いていた。
だがライガは、更にもっとずっと上をいっていた。不器用な男ライガは惚れた相手にいいとこ見せようと頑張りすぎてしまったのだ。もちろん、そんなライガの行為は全く持って効果がなかったのあるがそんなことわかるはずもない。
そんな2人であったが、徐々にその距離は縮まっていった。ライガの不器用だが実直な性格にミイが惹かれたのだ。
そうしてお互いの誤解も解け(ライガは、ミイが自分をライバル視していたのは知らなかったが)晴れてお付き合いを開始した2人は息もぴったりとなり、戦場で最も恐れられるタッグとしてその存在を魔族軍へと知らしめるのであった。
◇
「ライガ、聞いて欲しいニャ」
「うん、どうしたミイ?」
ある晴れた昼下がりのことだった。獣王の件を断り結婚したライガとミイは集落から少し離れたところへ散歩にきていた。
元々ネコはそれほど働き者ではない。よっていくら激戦区に配属された兵士だろうと休暇は普通にある。ライガとミイに及ばないまでも、そこそこの働きをする戦士は他にもいる。彼らが今日は頑張って戦ってくれているだろう。
「私たちの赤ちゃんができたみたい」
「なに、ほんとか?」
ライガはびっくりした表情をミイへと向ける。まさか自分に子供ができるなんて思ってもみなかったのだ。いくら歴戦の勇者と言えど、男はいつの時代でも、そしてネコ族と言えど、いつまでたっても子供なのだ。
◇
時を同じくして、ネコ族の長老へ神託が下りる。
「聖獣が生誕する」と




