第227話 突然の来訪者
「オレに手紙?一体だれが・・・」
ラプラスが差し出す筒状になった羊皮紙を受け取る。真ん中あたりに蝋で封をしている。ファンタジーの世界観に沿った演出の一つであるが、そんなことはどうでもいい。その刻印を見たゼウスは自分の目を疑った。
「ま、まさか。なぜヤツが?」
急いで封を開け中身を見てみる。
『親愛なるゼウス殿、元気にしてるかな?君のことだから心配はしていないが・・・とは言っても久しく顔を見ていないので、君の元気な顔を見に行くとしよう。もちろん、歓迎してくれるよね?では、まだその時に シャカより』
「な、なあラプラス。この手紙は一体・・・」
手紙から目を離し傍に立っているラプラスへと視線を向ける。この世界に来てから一体何年、いやどれくらいの時間が経っているか分からないが、手紙がきたことなんて初めてのことだ。
トントン
部屋のドアがノックされたと同時にラプラスがすっと動き、書斎のドアを開ける。開けられたドアの先に立っていたのはゼウスの見知った顔だった。
「おお、久しぶりだな。ゼウス、変わりがないようだ。まあ、当たり前か」
「シャカ・・・」
ゼウスと違い、黒目黒髪、あまり彫りの深くない顔立ちで抜けるように真っ白なゼウスに比べて、少し色が入った肌の色。いわゆる東洋人の特徴であるが、ゼウスの生まれ育った惑星ではとても珍しい顔立ちだ。
「ご主人様、お客人を応接の間へとお通ししましょう」
予期せぬ訪問者にゼウスが思考停止していると、ラプラスがすっと間に割って入りそのまま2人をエスコートする。
「では、こちらでごゆっくりとお寛ぎください」
以前、案内され、「こんなのいつ使うんだ?」と思った応接室でゼウスは、かつての知り合い、「シャカ」と対峙していた。そう、キュービックテニスのチームメイトだった彼だ。
(・・・こいつ、こんな顔していたんだな)
驚いたことに、ゼウスは明らかに他の人と違うシャカの風貌についてそれほど大きな印象を持っていなかった。だが、それはゼウスだけに限った話ではない。ゼウスの元いた惑星ではそれが当たり前であんまり人の事には興味を持つことがないのだ。だが、自分の惑星を持ちそれを育てていくうちにゼウスは、人間というものに興味を持つようになった。
「それでさ、サル吉のヤツが・・」
「そうかあ、ゼウスが目にかけてたサル吉がなあ」
そんなシャカにゼウスは、今まで起こった出来事を何から何まで話すのだった。そしてシャカは、そんなゼウスの話を嫌な顔一つせずに聞いている。
(そう言えばいつもオレの話を聞いてくれてたなあ・・・)
◇
「ここがシャカの惑星・・・」
気が付くとゼウスはシャカの惑星へと来ていた。なぜそうなったのか詳しい話は覚えていない。シャカへ今の自分の悩みを相談するうちに「じゃあ、一回ウチにきてみるか?」という軽いノリできてみたのであるが・・・
シャカの創った星は青い惑星・・・きれいな、とても美しい惑星だった。表面のほとんどを水に覆われた中ところどころある陸地には木が生い茂り、自然豊かな環境だ。そんな中で暮らしているここの住民たちはと言えば・・・
「すっごい、ゴチャゴチャしてるな・・・」
そこには、西洋風の白人もいれば、東洋風の黄色人種、そして黒人が、そしてそれらが交わった結果の混血児がいた。それら沢山の人種が織りなす雑多な世界だ。
国もたくさんある、それらの国はある国は西洋人ばっかりの国もあれば、またある国は東洋人ばっかしの国もある。もちろん、黒人ばっかりの国もあるのだが、それらの国に共通するのは「小さい」ことだ。
いくつかある大きな国は、その国が大きければ大きいほどたくさんの人種がいた。そして、一番大きな国は多種多様な人種が混ざり合った「人種の坩堝」と化していた。そして、その混ざり合った人たちがその国も文化を作り出し、経済を発展させていた。
「ふむふむ、なるほど。こんなことが・・・」
美しい星での混沌とした混ざり合った世界、その不思議な魅力にとりつかれたゼウスは寝食も忘れ、ただひたすらに観察をするのであった。
「どうだいゼウス?ここへ連れてきて、少しはキミの役に立てただろうか?」
何日たっただろうか?シャカがゼウスへと話しかけてきる。飄々としたその表情からは、感情を読み取ることが出来ない。が、ゼウスは今までと変わらず遠慮なくシャカへと質問をぶつけていく。
「なあ、たくさんの人種がいるけどコレは最初っからなのか?」
「いや、最初は東洋人だけだったよ。東洋人というのはね、ボクみたいな人種のことさ」
「別の人種が生まれた時、それは最初っからいる東洋人と同じところに生まれたのか?」
「違うよ、別の場所に作ったさ。だが、時の経過とともにそれらの人種が交わっていくようになったのさ」「いつから、こんなに国が増えたんだ?最初っからこんなにあったのか?」
「最初は2つか3つだったかなあ。それが、いつのまにやら分裂していって今は100以上だねえ・・」
ゼウスの質問に全て淀みなく答えていくシャカ。次第にこの惑星の全容が見えてくる。つまり、この惑星は多種多様な人種が次第にそれぞれ国家を形成していくなかで、色々な国が生まれた。そうして生まれた国には、それぞれの文化が生まれ、そして、経済活動を営む中で、当然そこに格差も生まれてくる。
そうして目に見えるほどの優劣が生まれているにも関わらず、それぞれの国は平等なのだ。
なぜ、そういった事象が起こるのかゼウスには理解できなかった。だが、その疑問をシャカにぶつけることはしなかった。変わりにぶつけた質問であるが
「この惑星では一見沢山の人種が肩を寄せ合って仲良く共存しているように見えるな。だが、ここで疑問がある。なぜ、この惑星で今現在、戦争が起きているんだ?」
「・・・」
いままで淀みなく答えていたシャカがここで初めて沈黙する。だが、ひと呼吸置いた後にゼウスの眼をまっすぐに見据えながら静かに答えた。
「ゼウス、人が人である限り、戦争はなくならない」
シャカの惑星にどれくらい滞在したのか分からない、その間に色々と話したし、色々なことを教わった。だが、ゼウスが最も覚えているのはシャカのこの一言だった。
◇
「ラプラス、もう一つ国を作ろうと思う」
自分の惑星に帰って少し経った時、自分の執務室へと呼び寄せたラプラスへとゼウスはそう告げ、「ステイツ国」「なかつ国」「ダルシム国」そして「ヒノモト国」を作ったのだった。




