第214話 ある惑星のある青年の話
「ふう、朝かあ」
今日もスッキリとした目覚めだ、時刻をみると7時14分。いつもだいたいこれ位の時間に目が覚める。
独り暮らしのマンションの窓から気持ちのいい日差しが入ってくる。今日も快晴だ。
サイドテーブルに置いてある水に手を伸ばす。寝ているうちに失った水分を補給しなければ
「うん、うまい」
目覚めの一杯の水がおいしければ健康な証拠、どこかでそんな話を聞いた気がするが忘れた。まあそんなことはどうでもよい。さてと出かけるとしよう。これも日課となっているいつものアレをしに。
「オートクリーニング」
部屋を出る際に一言命令を下すと、オレが出かけている間に部屋の掃除からシーツや洗濯物やら食器洗浄やら換気までロボットが済ませてくれるのだ。
そのまま徒歩で目的地へと向かう、基本近場の移動手段は健康のために徒歩だ。
「よし、着いたっと」
ゆっくり歩いても10分弱で目的地へと到着する。目的地、それは近所の公園だ。とは言ってもかなり広くて、例えるならばドーム型の球場2,3個分の広さってところだ。各種、競技のコートがそれぞれ何面もあるだけでなく屋内設備も充実している。そして中央には、きれいな芝が張り巡らされた大きなグラウンドが広がっており、そこかしこに2,3人のグループが出来上がっている。
老若男女、人数もバラバラのグループはそれぞれが思い思いに体を動かしている。あるものは、体操をしていたり、またあるものは1対1の組手を行っていたり、またあるグループはキャッチボールをしていたりと様々だ。
そんな中の、芝生に座った青年2人組に声をかける。
「おはよー」
「おう、おはよー」
「はよー」
3人は示し合わせたように、そのまま屋内競技場へと向かう。
「ピー」
屋内競技場の自動ドアをくぐり中へと入るとすでに様々な人がスポーツに興じている。こちらで行っているスポーツは主に球技で、あるグループはバスケをしているし、またあるグループはフットサルのようなものをしている。そんな彼らを横目に3人は屋内競技場の中を進んでいくと廊下へと出る。廊下には両隣にずらっと扉が配置されているのだが、その中の一つへと入る。
「ピピピッ」
正立方体の室内は思いのほか広い、おおよそテニスコート1面分くらいの広さだ。ラインが引かれていて面前にはネットが張ってある。テニスの壁打ちのような設備だ。
「ラケット」
3人がそう唱えると、それぞれの手にラケットが出現する。もちろん仮想現実のラケットなのであるが質感といい実際のラケットと寸分違わない。
「ようし、今日は絶対勝ち越すぞー」
「おう」
3人はそれぞれフォアやバック、スマッシュなどの素振りでウォーミングアップを済ませながらこれから始まる試合に闘志を燃やす。
『マッチング開始しますか?』
「「「イエース」」」
自動音声に答えるとほどなくして前面スクリーンに対戦相手が映し出される。とは言っても実際の相手がリアルに映し出されるわけではない、対戦相手のアバターなのだ。今日の対戦相手は全員、巨大なバナナに手足が生えたような巨大バナナマンだ。テンション高めでクルクルと踊りまわったり、大笑いしたりと忙しなく動き回っている。ちなみに向こうには、こちらの3人はリアルマウンテンゴリラが3頭見えているハズだ。
『ゲームスタート』
合図とともに、仮想現実のボールがスクリーン上の相手コートに映し出される。まずは向こうがサーバーだ。
「ようし、最初は様子見でベースラインで打ち合おう。隙があったら、打ち込んでいいから」
「「りょうかーい」」
「ボシュッ!」
(な、どフラットの超速サーブ!!こんなビッグサーバーがなんでこのランクに?!)
超スピードのサーブが最短距離でこちら側のコートに突き刺さる。あまりの速さに一歩も動けずサービスエースを決められてしまう。唖然として他の2人と視線を交わす。
「なあ、あいつら初心者狩りじゃあないよな?」
「いやいや、このランクには出ないんじゃない?」
「うんうん、ただのサーブバカだろ」
この「キュービックテニス」というスポーツであるが、約10メートル四方のコートが床と天井、そして左右の壁の4面で行われる3対3のテニスとスカッシュを合わせたような競技だ。4面のコートにはそれぞれ「反重力装置」が埋め込まれているため、選手はコート内を縦横無尽に走り回れる。そうして3人で4面のコートを守るのがこのゲームのルールであるが、もちろん多種多様な戦略がある。
守り重視のチームはベースラインで打ち合うベースライナーを多めに配置したり反対に攻め重視の場合はネットプレイヤーを多めにする。その人数は局面局面で柔軟に変更可能なのでその攻略には3人のチームプレイが鍵を握ってくる。また、球種も早くて重いフラット系に、変化球であるスライス系にドライブ系とあり、それらをうまく組み合わせる必要がある。プレイヤーにもそれぞれ得意な球種やポジションがあるため、それらをうまく配置できるような戦術とそれを瞬時に組み立てる戦略が重要だ。
1チーム3人でできる手軽さと、スマッシュが決まった時の爽快感がうけてこの星では一番のメジャースポーツとなっている。登録されたチームはポイントによってランキング分けされ近い実力同士でしかマッチングされないはずなのだが、稀に中級者から上級者がわざとランキングを落として初心者をいたぶる「初心者狩り」と言われる行為を行うことがあるのだが・・・
◇
「やっぱり、ただのサーブバカだったな」
「いや、決まったのあの一発だけだったし、タマタマでしょ」
「ああ、他は全部外れたもんな。それよりこれでランクアップしてCランクだぜ」
無事にゲームに勝利できたのだった。
その後は、「プラクティスモード」で壁打ちやサーブの練習をしつつ戦略についてちょっとした打ち合わせをした後お昼となったため、解散した。
「じゃあ、また明日ー」
「おう、おつかれー」
「明日からまた頑張ろうな」
「朝の運動」が終わり、そこかしこに帰路につく人がみえる。もちろん、午後からも運動をする人はそのまま残るのだが大半の人は午前中運動したら午後は、ゆっくりと過ごす。
御多分に漏れず彼も帰路へと就き、程なくして自宅へと到着する。
「あー、朝は水しか飲んでないからおなか減ったなあ」
もちろん、スポーツ中は栄養ドリンクで水分などの補給はするがちゃんとした食事をするのは今日は初めてだ。
「さあて、何を食べようかなー」
AR表示されたメニューを見ながら独り言つ。ちなみに血管内には微小サイズのナノロボットが多数巡回しており、不足している栄養素は即座にわかる仕組みになっている。そしてそのデータを元に食事メニューが作成される。
「ようし、お昼はラーメンにするかな」
メニューに表示された中からラーメンを選択すると次の瞬間、湯気が立ち込めた出来立てのラーメンがダイニングテーブルの上に出現する。この見た目脂ギトギトのラーメンだが、実は各種ビタミンやミネラル、必要なたんぱく質などの栄養素が豊富に含まれているバランス栄養食となっている。
「うん、今日もうまそうだ」




