第211話 聖獣戦が終わって
「こちら、今朝EDO湾で獲れたばかりの穴子です。特別な技法でその身を柔らかく煮揚げた後、特製のタレを付けておりますのでどうぞそのままお召し上がりください」
目のまえの男性へと煮アナゴの握りを手渡す。初老のイケメン紳士、ステイツ国のジョージだ。ジョージは渡された握りをすぐに食べ、「OH~」とか言ってる。ジョージの隣には昨日戦った決勝戦の相手ジョーがいるのでジョーにも握りを渡す。「ありがとう」ニコッとイケメンスマイルをこちらに投げかけた後、彼も握りを食し「うん、最高にうまいね」とこちらにまたまた満面の笑みを寄こす。
ジョーの横にはなかつ国のトップであるチャンと代表選手であったメイリン、それに聖獣のピーちゃんがいる。ピーちゃんは鳥なのに椅子にお行儀よく座って、渡された鮨を羽根の部分でうまくつまんで食べている。
その隣はダルシム国だ、トップのダルと選手のウメはどちらもターバンを頭に付けて服装も布を一枚身に纏っているダルシム国スタイルで、見た目の年齢も同じくらいに見え、完全にキャラ被りしている。そしてそのウメの目のまえのカウンターには、ミドリガメくらいの大きさのカメがいる。
すっかり小さくなったダルシム国聖獣のそのカメの目のまえに握りを置くと、自分と同じ大きさくらいある握りを大きな口を開け一口でパクっと呑み込んだ。
「パシーンンンン・・・」
ステイツ国ジョージの反対側の隣には、ケンとトキさんがいる。そしてその隣には厳しい目をした初老の男性が座っている。高価そうな着物を着流しスタイルで粋に着こなしている彼からは、大物だけが持つオーラが漂っており、その鋭い眼光は目が合っただけで射殺されそうな錯覚を引き起こすほどだ。
「パシーンンンンンンンンン・・」
そんな彼が先ほどから、鮨を渡す度に豪快に柏手を鳴らすものだからうるさくて敵わないのである。
「ユウザン先生、彼のスシはどうですか?」
「う、うむ。まあまあだな。店主、これからも精進するがよい」
トキさんから話しかけられたユウザン先生は、オレの方へと向き直り「まあまあ」の評価を下してくれた。雰囲気を壊したくないので、丁重に頭を下げユウザン先生の薫陶を賜ることにする。気分を良くしたユウザン先生が「そもそも鮨とは」などと言い出したのですかさずトキさんが会話を逸らしてくれる。ナイストキさん、さすが出来る男だ。
◇
聖獣戦決勝戦が終わった後、その結果に対して今後の事を話し合おうとステイツ国のリーダーであるジョージが言い出したのが始まりだった。
決勝戦はステイツ国の聖獣、「ドラゴ」の結界内で行われたため外にいた人は観戦できなかったのだが、後でアイがその様子を纏めて1時間の動画に編集したのだ。
様々な角度から撮られたそのド迫力な戦闘シーンやまるでミステリーもののように演出された会話シーンなどその場その場の映像にぴったりの音楽や効果音が挿入され、もう名作のハリウッド映画のようなクオリティの動画だ。
クライマックスのジョーが鬼に覚醒するシーンでは、様々な趣向を凝らした演出がなされていてそれはもうド迫力映像となっていたのであった。その映像を各国代表を集めて大き目のシアタールームのような部屋で一緒にみたのだ。
「ふう、(めっちゃ面白かったな。この映画)」
ふかふかな一人用ソファーに深く腰を下ろしながらポップコーンとコーラを抱え、ジョージは満足げにため息を漏らした。ところがふとそこで疑問が湧きあがったのだ。
(あれ?結局、なんで我がステイツ国は負けたんだ?)
まあ、ジョージがそう思うのはムリもない。聖獣戦決勝戦を振り返ってみるとジョーと相対したシュウ、コタロウであったが、終始圧倒していたのはステイツ国代表のジョーだったのである。
序盤こそ、いい勝負をしていたヒノモト国代表だったが、こちらの選手であるジョーがパワーアップを果たしてからは2人がかりでも防戦一方だったぞ。更に、我がステイツ国代表のジョー選手が最終形態になってからは、まさに手も足も出なかったではないか?
ところが、なぜか我がステイツ国の聖獣であり守り神でもあるホワイトドラゴンが負けを認め、そのあとのジョーもにっこり笑いながらギブアップしている。これはおかしい、騙されているんじゃないか?
などど文句を言っているウチに、じゃあ話し合おう、だったら、前に話し合った「スシ」を食いながらがいい、なに?スシだと?じゃあ、我らも同席する、となかつ国のチャンとダルシム国のダルも言い出し、じゃあ私も、それならボクも、という具合にその輪がどんどんと広がっていき今の状態に至ったのである。
◇
(はああ、うまい。なんてうまさだ。やっぱりヒノモト国に来てよかった。「スシ」はサイコーだ)
あの「ウニのグンカンロール」は初めて食べたが驚愕の旨さだった。含むと口の中一杯に広がる旨味と香りがこれでもかと押し寄せてくる。「グンカン」とはバトルシップの事らしいが、こんな旨いものにそんな物騒な名前を付けるなんて、ヒノモト国にしてはユーモアが分かっているじゃないか、確かに「ウニ」という強敵がバトルシップに乗ってオレの口の中へと攻め込んでくるといったイメージがぴったりだ。
「アワビ」も最高だった、この前食べた「ホタテ」も旨かったが同じ貝でもこの「アワビ」は煮ている「煮アワビ」なのだ。それも素晴らしく柔らかく煮てあり、そのはんなりとした食感にはもはや高貴さを感じるほどである。
だが、だがである。もちろん今までの「スシ」も全て旨かったが今回もアレだけはラインナップに入っているのだろうな?オレが夢にまで見たアレが。
「ボッ」
そう思った時、シェフの右手が炎に包まれる。
「パーフェクト・・・」
思わず口からその言葉が零れてしまう程だ、なんという憎らしいヤツだ。こちらの心の中まで完璧に把握しているのが癪に障るが、そんな事はどうでもいい。この「炙りトロ」をまた味わえるのだ。
「ポンポンポーン!!」
ん?なにやら、ヒノモト国の御仁が先ほどから両手をクラップして「スシ」に賛辞を贈っているが、とうとう3連発を出しおったか。イヤ、まあ、それ程の味だものな。納得だ。
よーし。今日はとことん飲むぞー、ヒノモト国の「スシ」に「カンパイ」だ。もちろん、この「カンパイ」には乾杯と完敗がかかっている。おっと、どうやら飲み過ぎたようだ。
結局その日、「話し合い」は1ミリも進まなかったのは言うまでもない。




