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第207話 決勝戦 10

シュウの一撃を喰らい、ゆっくりと崩れ落ちるジョー。今までの一連の攻撃が超高速で行われていたためにまるでスローモーションのように遅く感じる。



ピピピピ



(なるほど、まだ生体反応はあるな。だが、脅威となるほどのパワーは既に残っていない)



一瞬ののちアイの分析した内容がディスプレイに映し出される。つまり戦闘不能状態と言う事だな。





「勝った、のか?(これ絶対フラグ立つセリフじゃないかよ。でも、この状況になったら思わず言っちゃうよね。実際、自分がこの立場になって初めて気づいたなあ)」





ゴゴゴゴゴゴゴ・・・




案の定、ジョーの周りには不穏な空気が立ちこめ始めた。仰向けにひっくり返った身体の周りに明らかに禍々しいオーラが集まっていくのだ。なんというか漆黒の闇という言葉がぴったりなそんな真っ黒な空気が目に見えるくらい色濃く周りを取り巻いてそれが急速にジョーの体の中へと吸い込まれて行くのだ。




(やっぱりこうなるよね。いや本当にこの展開分かってたから。別に負け惜しみじゃないし。つうかこれ「闇堕ち」したんじゃないの?あいつ、主人公ポジションのくせにこんなに簡単に堕ちるなよ。マジで)






『とうとう本性を現したみたいやね』

『そのようだな、ここからが本当の戦いだな』



アイがまるで、マンガのようなセリフを吐くから乗っかってみる。ちなみにシュウは、今の状況がどうなっているのかさっぱりなのだが。




シュウとアイがそんなやりとりをしている間にもジョーは着々とその見た目を変貌させていく。きれいな深紅だった鎧はまるで返り血を浴びたかの如くどす黒い赤に変色する。そしてぴっかぴかだったオリハルコン製の刀は闇をも呑み込みそうなくらい漆黒に染まり形もトゲトゲした感じに変貌する。あんなにトゲトゲしていたら逆に扱い難くないのだろうかと思ってしまうが。



もちろん、ジョー本人にも変化がある。髪の毛はまるでやさいの星のスーパーな戦士くらい逆立っている。正に「怒髪天を突く」ってやつだ。


目は相変わらず血走っている、そして体が二回りくらい大きくなったようだ。なんというかムキムキしている。





「?!」



その時、ジョーと目が合う。と同時にこちらへと突進してくる。速い、かなりの速さだ。逃げられな、




ズガーーーン



『させないニャ』



すかさずコタロウがジョーへ雷撃をお見舞いする。ナイスコタロウ、いくらあいつが速くともさすがに雷は避け切れないだろ。



『ダメだニャ、防がれてしまったニャ』

「え?そんな・・・」



見るとジョーがその禍々しい刀を頭上に掲げている。刀には雷が直撃したようで帯電した電気が周りを覆っているが、すぐに刀へすうっと取り込まれて行く。




「お前、そのバージョンだと「次元断裂」スキルが溜めなしで使用できるのか?」

「コロス・・・」

「え?」



物騒な言葉を吐いてくるジョーの顔を見る、と凄い形相で睨み返してきた。



「殺す殺す」

「あ、いや」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「?!」



こわ、すげえ殺すって言われているんですけど。一生分くらい「殺す」って言われたよ。






そんな事を言っているうちにジョーの周りにはどす黒いオーラのようなものがどんどん集まりだし、手にした刀はより一層禍々しくトゲトゲしい形へと変貌を遂げていく。




「ガアアアアアア」

「来る」




まるで獣のような、というか最早獣そのもののような咆哮をあげてジョーが襲い掛かってくる。その血走った両の眼は完全に、獲物=シュウにロックオンされていて回避という選択肢は用意されていない。



(あいつの「次元断裂」スキルはやっかいだな。魔法なんかの飛び道具は全て迎撃されるし、かと言って接近戦に持ち込もうにもヘタすりゃ次元の彼方に飛ばされるっぽいしこれじゃあ八方ふさがりじゃないか。しかもそのスキルが常時発動可能だと?どう戦えばいいんだ?)




『ようし、今の戦況と打開策を今から授けるけん耳の穴ようくかっぽじって聞くんよ』

『アイさん、頼りになるなあ。でも「共有」は多用は禁物って話じゃなかった?オレの脳みそが負荷に耐えられないとかなんとか』

『そんだけ、今が切羽詰まった状況ってことやん。分かるやろ?』

『うんそうだよね。でもさ、女のコが「耳の穴かっぽじって」ってあんまし言わないような』

『うるさか、黙って話を聞かんね』

『・・・はい』





そうしてアイによる打開案がシュウとコタロウへと伝授されるのであった。



『ようし、じゃあ頑張るぞー!えい、えい、むん!』

『えい、えい、むん?』



聞きなれない掛け声に思わず聞き返す。聞き返した後、スルーが正解なのに気付くがもう遅い。



『・・・女の子らしいやろ?』

『う、うん、もちろん。ああ~、女の子らしいなあ』


戦う前にちょっとだけ疲れてしまうシュウなのであった。





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