第206話 決勝戦 9
ここで少しだけ時を戻そう。
「ミーティア!」
火魔法をジョーへと放ったシュウは、その数百発の炎の球たちをミリ単位の精密さでコントロールする。このミーティアであるが、着想は複数のファイアーボールたちを流星群に見立てたものだ。一度に消費する魔力とそれに伴う集中力は単発で発するファイアーボールに比べ大きくなるがメリットとしては発動するまでの時間が大幅に短縮される。
(ふう、ジョーの動きに合わせるのめっちゃくちゃ大変だな。あいつ予想外の動きするから)
「にゃにゃにゃにゃ」
時間差で技を発動したコタロウとの連携も疎かに出来ない。あくまでもジョーにはこちらの狙いをミスリードさせないといけないのだ。「闘気斬」を撃ち終わったコタロウが次の攻撃に備え闘気を溜める。シュウはコタロウの動きをジョーに悟らせないよう陽動を行わなければならない。
「ふん、お前たちの狙いは分かっているぞ」
アイの立てた作戦通りにジョーが上空へと移動する。それを追尾する「闘気斬」と「ミーティア」、だが「闘気斬」の方は術者のコタロウが次の攻撃モーションに移っているため細かな動きができない。シュウがその分カバーするしかないのだ。
(陽動だと気付かれたら終わりだからな。これが本命の攻撃だと思わせるくらいの威力と殺気を籠めるんだ)
シュウは精一杯のパワーを出し切ってジョーへとその攻撃を叩き込まんとすべく、「ミーティア」をコントロールする。シュウによってコントロールされた何百もの火の球は、ひとつひとつがまるで意思を持った生き物のように繊細な動作で以てジョーへと飛び掛かっていく。
(そろそろか)
シュウがそう思うのと同時にジョーが抜刀した。
「ふん、せっかくのお膳立てが」
この瞬間にシュウは、「ミーティア」のコントロールを放棄し自らの愛刀「紅蓮丸」にありったけの魔力を籠める。そしてジョーが「闘気斬」と「ミーティア」を「次元断裂」スキルで一刀両断にするのと同時にコタロウが頭上から打撃を喰らわす。
ドガーン
(よし、ナイス。コタロウ)
シュウは、ジョーの落下予測地点へと「多段ジャンプ」で移動しながらコタロウへの賞賛を送る。
バシュッ
そうして目のまえに着地したジョーのがら空きの胴体へありったけの力を籠めて「紅蓮丸」の一発を叩き込んだのだった。
ガギーーーーーーーンンンン
目のまえにジョーの胴体が見える。シュウの一撃により鱗で覆われた鎧が損傷して生身の体が現れている。
(やはり予想通り、「物理攻撃無効」効果は付与されていないみたいだな)
穴が開いた鎧はみるみる修復されているが、装着しているジョーに全くダメージが通らない訳ではない。また、鎧自体が損傷しているところからすると「物理攻撃耐性」と「自動修復」が備わっているのだろう。
「ぐふっ」
その時、ジョーが口から血を吐いた。完全に攻撃が通っていないだろうが、それでもかなりのダメージを負っているようだ。
(だが、まだまだ!)
アイ考案の必殺コンボにはまだ先がある。対戦相手のジョーのHPゲージがゼロになるまで、その攻撃は続くのだ。
「にゃ」
その場に飛び込んできたコタロウの右フックがジョーの顔面を捕らえる。まともに喰らったジョーが左へと吹っ飛ぶ。が、コタロウはすぐさま横っ飛びで追いかける、そしてあっという間に吹っ飛んでいくジョーを追い越して今度は左フックを喰らわす。今度もまともに喰らったジョーが次は右に吹っ飛ぶ。そしてそれを追っかけるコタロウがまたまた右フックを喰らわす。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ♪」
目のまえでは、あるボクシング漫画で最強の必殺技である「デンプシー・・・」が繰り広げられていた。
ジョーは右へ飛び、左へ飛び、とその度にコタロウの強烈な打撃を喰らって意識が飛んでいるように見える。
「ようし、次はありったけの力を籠めるぞ、うおおおおおおおお」
バシュシュシュッ
そして力を籠めつつ上空へと移動する。
『準備は出来たぞコタロウ』
『にゃ』
遥か上空まで移動したシュウがコタロウと念話で合図を送る
「はああああああああ」
極限まで力を籠めた「紅蓮丸」を両手に持ち、そのまま目標目掛けて急加速する。「風魔法」により空気抵抗は極端になくなりそのまま10倍の重力が働く、それにプラスするのが
バシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ
「10段ジャンプだあ」
音速を遥かに超えるスピードで落下していくシュウ、そんな超スピードの中でもターゲットは完全にロックオンし続けている。地上ではいまだコタロウの攻撃を喰らい右へ左へと殴られ続けているジョーを正確に捕捉し続けているのだ。もちろんアイ謹製のスキル「鷲の目」が。
ドオオオオオオオオオオオンン
そして、重力を完全に味方につけたシュウ渾身の一撃がステイツ国代表選手、ジョーの脳天へと直撃した。




