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第193話 ステイツ国の場合 31

(また同じ事を繰り返すのかオレは?10年前から何の進歩もしてないじゃないか)



動かなくなったメリーをそっと地面に寝かせるとジョーは天空を見上げた。こうしている間にも、ホワイトドラゴンが放ったブレスは燃え続けておりジョーの零した涙はすぐさま蒸発してしまう。だが、今のジョーの目には何も写っていなかった。守るべき人をまた守ることができなかった絶望感で目のまえが真っ暗になっているからだ。




(なぜこうなった?なにが悪かった?オレの力が足りなかったのか?修行が足りなかったのか?今まで流した血が足りなかったのか?)



今更考えても仕方がない、だがジョーは思考を放棄することができなかった。



(ダンジョンがあるのが悪いのか?サラマンダーが悪いのか?いや、違う。コイツだ。このホワイトゴラゴンが全ての諸悪の根源なんだ。憎い、ドラゴンが憎い。コイツを倒したい、倒すだけの力が欲しい)



ジョーの思考はぐるぐると回っていき、どんどん物騒な考えへと舵を切っていく。



(くそう、こいつをぶっ殺したい。どうすればいいんだ?こいつをぶっ殺すには?)



どんどんと視界が赤く染まっていき、そしてジョーの目が血走っていく。うわごとのように「ぶっ殺す」とつぶやく様は、もしそれを見る者がいたらぞっとするほど猟奇的な光景だった。






『力が欲しいか?』






頭の中で誰かが話しかけた気がした。





「!」




目のまえの景色が真っ赤に染まる。目に見えるもの全てが赫い。そしてホワイトドラゴンへの憎悪はどんどんと膨れ上がっていく。もはや爆発寸前だ。だがそれだけではない、力が、それも圧倒的な力が体中を駆け巡る。その力を存分に使って何もかも破壊してしまいたい。そんな気分だ。




『ようやく目が覚めたか。我を数千年の眠りから起こしおってから10年、待たせおって』

「な、なんのことだ?訳の分からないことを言うな。お前なんかぶっ殺してやるぞ」



ジョーはいきり立ち全身に力を籠める。ぶわああっと体中からオーラのようなものが湧きあがり、ドラゴンのブレスをかき消した。



「喰らえええええ」



体中にホワイトドラゴンへの怒りで力が溢れてくる。まるで自分の怒りに呼応して力が湧いてくるようだ。ジョーは聖剣『デュランダル』にありったけの魔力を籠めるとホワイトドラゴン目掛けて突っ込む。一瞬でドラゴンへと到達したジョーは、そのまま渾身の力を籠めて『デュランダル』を振り下ろした。



ガキイイイイインンンン



『デュランダル』とホワイトゴラゴンの竜麟が衝突し眩いばかりの閃光が幾条も飛び散った。



ポトリ



何かが落ちる。なんとそれはホワイトゴラゴンの鱗だった。たった一枚ではあるが、最も硬いとされるドラゴンの竜麟がジョーの攻撃により砕けたのだ。



『貴様、よくも我の大切な竜麟を』



自分を傷つけたジョーに初めてホワイトドラゴンが感情を露にする。次の瞬間、体を反転し遠心力がたっぷりと乗った尻尾の攻撃をジョーへ向かって叩き込む。




ズウウウウン




ホワイトドラゴンの尻尾攻撃をなんとジョーは右手一本で防いで見せる。自分の数十倍もある尻尾を右腕に力を籠めガードする。そしてそのまま両手で尻尾を掴み、ドラゴンの巨体をまるでジャイアントスイングのように振り回し始めた。



「それ」



10回転ほどした後、掴んでいた尻尾を手放すとドラゴンはそのまま数百メートルも吹っ飛んでいく。吹っ飛ばされたドラゴンは地面に爪を突き立てるとその勢いを殺した。




だがこれくらいじゃ、ジョーの気は収まらない。こいつのせいで、自分の周りが不幸になったんだ。こいつが憎い、とてつもなく憎い。ジョーの目の色はいまだ復讐心で真っ赤に燃えていた。



だが、そんなジョーの様子にもこの美しいドラゴンは身じろぎひとつしない。退屈そうに、少しだけ瞳を細める。



『ふん、自分の能力に喰われかけておるな。手間を取らせおって。しょうがない、ここらでゲームオーバーじゃな』



そう言うと、かぱあっと大きな口を開ける。今までブレスを吐いた時には、ほぼ閉じていたその顎の中が少しだけ垣間見えた。



『バースト』



すると次の瞬間には圧倒的な光の波が押し寄せてきた。ジョーは、避けることも、防御することもできず全身をその光に包まれたのだった。







「ここは?」



気が付くと燦燦と照り付ける太陽が真上に見える。ジョーは、いつの間にか大の字になって草原に寝転がっていたのだった。





『ふん、気が付いたか』




すると、聞き覚えのある声がジョーへとかけられる。



「お、お前は?」



ホワイトドラゴンの声にいきり立ち、立ちあがろうとするも全身が痛くてとてもじゃないが、起き上がれそうにない。なんとか首だけ動かしてにっくき敵を睨みつける。



『ふん、今のお前にはそれくらいしかできんだろ。まあよい。我の話を黙って聞くがよい』

「な、なにを?」

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