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第192話 ステイツ国の場合 30


目のまえに神話クラスのドラゴンがいるという現実味のないシチュエーションに対峙している3人は、思考が停止していた。



「きれーい、まるで宮殿の大理石みたい。いや、あれよりももっと滑らかで透き通るような白さね」



ホワイトゴラゴンは、まるで白磁のような純白な鱗に包まれている。その一枚が、光に反射してキラキラと輝く様は、どんな高価な宝石よりも美しい。美しいものが好きなメリーが思わずウットリとしてしまうのも無理もない。



いつの間にか3人は、広大な草原の真っただ中にいた。四方はそれぞれ地平線が見える程広く、自分たち以外は何もいない。真っ暗な洞窟を抜けてなぜ自分たちがこんなところにいるのか、それを考える余裕もないほど彼らは目のまえの存在に心を奪われていた。



『では、かかってくるがよい。ここまで待ちわびたのだ。存分に我を楽しませるのだぞ』



ドラゴンが3人に語り掛ける。その時、今まで瞑目していた瞳が開かれた。「完璧な蒼」とでも表現したら良いのだろうか?美しい、まるで吸い込まれるようなその蒼い瞳を。



「・・・」

『おい、』

「・・・」

『ふむ、腑抜けおって。ここまで来た事でちと過大評価しておったようだな。ただの虚け者であったか』



3人は目のまえのドラゴンの存在感に圧倒されている。その、神秘性、美しさ、内包されてなお溢れ出す巨大な力。ぼうっとしてドラゴンの言葉が耳に入ってこないのだ。



『しょうがない、我から攻撃を仕掛けるか。ひょっとしたら死ぬかもしれんがな』



ゴオオオオオオオオ・・・



ドラゴンがそっと息を吐く。ドラゴンの主な攻撃手段の一つである、いわゆる『ブレス』だ。だが、このホワイトゴラゴンがそっと吐いた息はとてつもない威力がこめられている。その灼熱の息は、数千度にも達しジョーが通常使う火魔法の「ファイアーボール」の数百発分の威力がある。



その凶悪な攻撃が3人に達しようとしたその時、ジョーが動く。聖剣『デュランダル』を抜くとブレスに向かって全力で斬りかかった。




ズボオッ



ジョーの魔力を纏った聖剣『デュランダル』は、物質だけでなくサラマンダーのような精霊にもダメージを与えられる。そしてもちろん、『ブレス』にも有効だ。ジョーが振りぬいた『デュランダル』によりホワイトゴラゴンの『ブレス』が真っ二つに割れ、ジョー、メリー、ゴメスの3人を避けて通りすぎて行った。



「ふう、間一髪だったぜ。2人ともけがはないか?」

「おう、助かったぜジョー」

「ありがとう。私もケガはないわよ」



3人の無事を確認しホッと胸を撫でおろす。その様子をドラゴンは冷ややかな目で見ている。



『ふん、たかが今の攻撃を喰らったくらいで大げさな。次はもっと力を籠めるぞ。覚悟はできておるか?』



そう言うと、先ほどより多少力を籠めたブレスをジョーたちへと向け放った。



ブオオオオオオオオオオ



先ほどとは段違いの攻撃がジョーたちを襲う。ドラゴンの口から放たれたブレスは、燃え盛る炎を纏い、まるで生き物のように意思を持って3人へと襲い掛かる。



「くそ、これでも喰らえ!」



そんな攻撃にも怯むことなく勇猛果敢に向かっていくジョー。またしても聖剣『デュランダル』を振りかぶり、一気にブレスに向かって振り下ろす。



「っぐ、ぐえっ」



だが、今度は様子が違う。聖剣『デュランダル』を突き立てられたブレスはまるで生き物のように、ジョーを聖剣ごと包み込みその身を焼いていく。必死に纏わりつく炎を振りほどこうともがくが、その勢いは止まらない。



『くふふ、たかがこれくらいの攻撃もいなせないとは。いくら『因子』を持っててもいまだ萌芽状態ではこんなものか』

「ぬ、なにを?」

『いいのか?このままでは貴様の脆弱な仲間どもが、また虫けらのように焼け死んでいくぞ』

「な、なに?!」


ジョーが振り向くとメリーとゴメスの2人は成すすべもなく炎に包まれていた。



「メリー、ゴメス!!」

「オレはいい、メリーを助けてやってくれ」

「でも・・・」

「はやくしろ、手遅れになるぞ」



ゴメスに急かされメリーの許へと駆け寄るがその様子は絶望的であった。



「・・・メリー」



魔法使いのため魔法耐性があるハズのメリーであったが、ホワイトドラゴンのブレスにはそれも通用せずダメージを殆ど軽減できていない。炎に包まれたメリーはドラゴンの言った通りもはや虫の息であった。



「ふふふ、私の夢だったんだ」

「え、なにを?」

「私より強い人に抱きかかえてもらうのが」


ジョーが抱きかかえている腕の中でメリーがそう言って微笑んだ。



「私って昔っから魔法適正が高くてね。大抵の人には負けなかったのよ」

「メリー・・・」

「でもね、こんな私でも人並の幸せは掴みたいじゃない?でも、やっぱり自分よりも強い相手ってのは絶対に譲れないし」

「そうか」

「あ~あ、でも私の人生もこれまでか。せっかく理想の人に巡り合えたのに運が悪かったわ。いや、出会えただけでもラッキーか。あはは」


そこまで言ってメリーが目を閉じる。ジョーは、必死にアイテムボックスの中から上級回復薬ハイポーションを取り出してメリーへと振りかける。だが、瓶の中の液体は灼熱の炎によって一瞬で蒸発してしまう。



「メリー、メリー、死ぬな。頑張れ。オレを置いていくな」



ジョーの記憶が呼び覚まされる。思い出したくもない、あの悪夢が再び目のまえで起きようとしているのだ。



「さよならジョー、楽しかったわ」



囁くように最後のセリフを言ったあと、メリーはジョーの腕の中でぐったりとして動かなくなった。



「メリー?おい、起きろ。メリー、メリーーーーーー」



声を限りに叫ぶが、その声はもうメリーには届いていなかった。





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