第191話 ステイツ国の場合 29
「よし、行くぞ」
ハンスは満足そうな笑顔を浮かべ死んでいった。肉体が朽ち果て空へ向かっていく光の粒子へと3人は黙祷を捧げる。そうして暫く経った後に、ジョーが他の2人へと声をかける。涙の跡が痛々しいが、その表情には断固たる決意を秘めていた。
(凄いわジョー、私の役目が殆どないみたい。こんな事初めてだわ)
(っふ、ここまでとはな。このオレがまるでお荷物じゃないか。だが、このダンジョン何があるか分からん。気は抜かないでおこう)
ハンスの死を受け止めたジョーは、見違えるような動きで敵を葬っていく。火の精霊がまるでゴミのようだ。
スパパパパパッ
ボンボンボンッ
みるみるうちに、サラマンダーの屍が量産されていく。とは言っても昇天するとすぐに煙と共に消え失せるので後には何も残らない。更にハンスの遺してくれた攻略マップにより、安全なルートを迷う事なく進んでいける。沈んだムードから一転して楽勝ムードとなり、ゴメスが気を抜かないように自分を戒めるのも無理からぬことであった。
◇
「ようし、ついにたどり着いたぞ。ここが終点で間違いない」
三人は今、巨大な扉の前に立っている。扉の両脇にかがり火が焚いてあり辺りは薄暗い。そしてそのかがり火に照らされて扉に精巧な龍の紋章が彫られているのが見える。
「行くのか?」
ゴメスが緊張のあまり、ごくりと生唾を飲み込む。メリーも心なしか顔色が悪い。
「どう考えても、このダンジョンのボスの部屋だぞ。この部屋は」
ジョーの顔を覗き込み、その表情を確認する。
(っふ、迷いのない真っすぐな目をしやがって)
「ようし、分かった。突撃だな」
「おう」
ゴメスにそう告げると、ジョーは目のまえの扉を両手を使って力いっぱい押す。
ギギイ・・・
重厚な扉が少しずつ開きその内部の様子を3人へと開示していく。ジョーは更に力を籠める、そして自分の全体重を両手に乗せその扉を完全に開け放った。
「ここが内部か」
3人は中へ踏み込むが中は真っ暗でなにも見えない。真正の闇とはこういうことを言うのだろうか?夜の闇でも見通せる、ジョーのスキル「気配察知」をしても部屋の中は見通せない、どころか足元さえも覚束ない。
ボッ
すると目のまえに蒼白い炎が2つ浮かび上がった。その2つの炎が照らすのは、この部屋の奥へと続く石畳の道だ。
ボボボボボボボボッ
続いて蒼白い炎が、道沿いに何個も何十個も、いや100以上あろうか?それらが、奥へ奥へと続いていく。
「待てよ、敵の罠かもしれないぞ」
その蒼白い炎に導かれるまま先へ進もうとするジョーをゴメスが止める。そのとき、
『よくきたな、待ちわびたぞ』
「な、だれだ?」
「なあに?これ?念話なの?」
「通信系スキルがないオレにも聞こえるぞ、なんだこれは?」
急に頭の中で謎の声が響き狼狽える3人。低いがよく通る何か不思議な声でなぜかほっとするような、それでいて胸騒ぎがするようなそんな言葉では言い表せない感覚に陥ってしまう。
『なにをグズグズしておる。我をこれ以上待たす気か?早く、こちらへ来い』
3人がまごまごしていると、急かすように声がかかる。それに呼応するかのように、道を照らす蒼白い炎が揺れる。
「よし、行ってみよう」
「え?」
ジョーは、奥へと向かって道を歩き出す。釣られるようにメリーとゴメスもそれに続く。
「意外と長いな、まだ先が見えないぞ」
「ええ、部屋の中かと思ったけどなかなか終点が見えないわね」
メリーが言うようにすぐに終点へと到着しこの不思議な声の主と遭遇するかと思われたのだが、5分ほど歩いてもまだ道は真っすぐに先へと続いている。
そのまま更に10分ほど歩いた
「あ、見ろ。光が見えるぞ」
ジョーが言うように、ずっと蒼白い炎に導かれた道のその先に微かに光が見える。
「もう少しだ。行ってみよう」
「おう」
「うん」
3人はその光へと向かって歩を進めた。そして、
「うわああ、眩しい」
急に眩い光に包まれる。ずっと洞窟の中にいた3人は、その眩さに一瞬視界を奪われた。
『クワーハッハッハッハ。貴様たち卑小な人間どもがここへ来たのは初めてじゃ。褒めてやろう』
明るさに慣れた3人の目に真っ先に飛び込んできたのは、巨大なドラゴンであった。
「な、な・ん・だ・と・」
ジョーはその姿に驚愕する。王都の図書館でみた、そのものの姿に
(なんということだ。まさか伝説級、いや神話級のバケモノが出てくるとはな)
「おいジョー、これは?」
「ああ、ホワイトドラゴンだ。間違いない」
「え?この世界を創生したというあの始まりのドラゴンなの?」




