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第187話 ステイツ国の場合 25

「この場合の候補でずが・・・」



少し垂れている目は泣いた名残で真っ赤だ。鼻水をすすりながら懸命に説明を進めるアニーであったが、それを心配そうに見つめるギルドマスターのゴメス。すでに孫を応援するおじいちゃんの心境に達している。



(シャアさん、ワタシ頑張りますからね。草葉の陰で見ていてくださいね)



頑張ったアニーの説明を要約すると選択肢は以下のようになる



1.ステイ、つまり様子見だ。ひょっとしてシャアたちが帰ってくる場合もあり得る。


2.次の挑戦者を募る。『灼熱のシャア』の役目をそのまま引き継ぐ形になる。


3.今回のクエストを『レイドバトル』認定し大規模な、つまり複数の挑戦パーティを募る。



「今回のクエストは、あの『灼熱のシャア』でもクリアできなかったため、3で話を進めていこうかと思っております」



アニーが話を進める。そしてその横で、うんうんと力強く頷くゴメス。だがその案にジョーが待ったをかける



「なるほど。今回のクエストは確かに難易度がかなり高い。ギルドとしては慎重策を取らざるを得ないだろう。だが、事は一刻を争うんだ。『レイドクエスト』は、準備に時間がかかる。こうしてる間にも犠牲者が出るかもしれないんだぞ」



思わず声を荒げるジョーであった。実は彼もまたシャアの悲報には心を痛めている。それは、アニーやゴメスにも劣らないくらいだ。それだけに、このクエストをなぜ自分が受けなかったのか責任を感じている。なぜあんなにいいヤツが死ななければならないんだ?オレが替わりに行けばよかったのにと。そして、自分の壮絶な過去を思い出してこれ以上の犠牲は絶対に出してはならないといきり立つ。



「なあ、オレが一人で行って時間を稼ぐ。その間にお前たちは『レイドクエスト』の準備を整えてくれ。なあに、それくらいの時間稼ぎなら十分できる。それが一番犠牲が少なくて済む方法だよ」

「な、なにを言うんだ。お前を捨て石になんかさせられる訳ないだろ?早まったこと言わないでくれよ。お前もこのギルドの大切なメンバーの一人なんだからさ」



ジョーの提案にゴメスが慌てて止めに入る。こいつは、自分の命を軽く見過ぎている。絶対に一人では行かせないぞ。



「一人で行くぞ」

「いや、ダメだ」

「そんな事言っても、すぐに出発するぞ」

「だめですよお、ちょっと待ってくださーい」

「いや、すぐに行く」

「ダメだったら」



こんな事を延々繰り返しているうちにとうとうジョーが折れる。



「分かった。じゃあ、2日待とう。それまでに『レイド』のお膳立て済ませてくれ」

「ふう、分かったぜ」

「分かったですう」




ようやく納得したジョーに胸をなでおろすゴメスとアニーであった。







「ゆるせゴメス。やっぱりこうするのが一番なんだ」



その夜、王都の城門から出ていく一つの影がある。こっそりとダンジョンへと出発するジョーだった。ジョーには分かっていた。『レイドクエスト』の準備が2日で終わる訳がないことを。まだ、『灼熱のシャア』がクエスト失敗している事は公にされていない。仮に明日発表されたとしたら、冒険者ギルドは大騒ぎになるだろう。その中で、クエストの参加パーティを募ったとしても大部分の冒険者は尻込みするに決まっている。何しろあの『灼熱のシャア』が生還できなかったクエストだ。そうこうするうちに犠牲者が増えていくのが目に見えている。やっぱり自分が一人で行って少しでも時間を稼ぐしかないんだ。





「あれ?こんな時間に散歩かい?だったらオレも付いていくぜ」



ジョーがダンジョンのある道へと進もうと前進したら声をかける男がいる。暗闇の中から現れたのはなんとハンスであった。



「ハンス、どうして?」



突然現れたハンスに驚くジョーであったが、驚くのはそれだけではなかった。



「あらハンス?何してるの?」

「おうメリー、今から夜の散歩するんだ」

「丁度良かった。私もご一緒するわ」

「おう、いいぜ。なあいいだろ?ジョー」

「お、おまえたち・・・」



行く先にはメリーまで待ち構えていた。1人でこっそりと王都を出ていくつもりだったのだが、2人にはジョーの行動はお見通しだったのだ。



「全くしょうがないヤツらだな。まあ、それはオレも一緒か・・・」

「え?ゴメス?!」



ところが、更に驚く出来事が起きる。なんと、次に姿を現したのはギルドマスターのゴメスだったのだ。これにはハンスとメリーも予想外だったようで驚きを隠せない。そんな3人にゴメスが宣言する。



「おい、このパーティに戦士職を一人加えてくれ。パーティ申請はもう済ませてあるぞ」

「な、なにを勝手に・・・」

「ガハハハ、マスター権限だぜ」

「ゴメス・・・」


愉快そうに笑うゴメスに3人は無言になる。まさかギルドマスター自らがクエストにくるとは




「ま、そういうこった。悪いが選択権はお前にはないぞ。強制参加だ」



ジョーが何か言おうとするが問答無用で遮られる。そんな3人の意思を汲んだジョーは、一瞬済まなそうな顔をするがすぐに上を向く。



「ようし、おれたちのパーティ『チャレンジャー』は今からクエストに出発だあ」

「「「おう」」」









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