第185話 ステイツ国の場合 23
「『灼熱のシャア』が受注したのかあ」
ハンスがため息交じりに呟く。自分の決心はなんだったのだろうかと力が抜ける思いだ。
実を言うと、ハンスはこのクエストメンバーに参加するに当たってある程度覚悟を決めていた。自分の生還は厳しいだろうと。プラチナランクのジョーやゴールドランクのメリーと違い、自分は平凡なシルバーランクだ。恐らく一番、命を落とす確率が高いだろう。だが、それでもジョーをみすみす一人で行かせる訳には行かないと奮い立ったのだが。
「まあ、『灼熱のシャア』が動いたんなら、今回のクエストは終了したようなものだな」
ゴメスが安堵した表情をする。もう、一件落着って顔をしている。
この『灼熱のシャア』であるが、この王都の冒険者ギルドで唯一のというかステイツ国でも唯一のプラチナランクのパーティだ。しかも構成されるメンバーの全てがプラチナランクという文句なしのプラチナランカーなのだ。
リーダーのシャアは、大佐という特殊な職業だ。リーダーシップを発揮しやすい正にパーティリーダーのための職業と言える。更にシャアは『三倍速』というスキルを保持しており、通常の三倍の速度で行動することができるため単独での戦闘力も高い。
斥候役は、ルパン2世というメンバーがいる。彼は『大泥棒』という職業で感知能力が非常に高いだけでなく、素のスキルも軒並み高いのだが特に知力が非常に高い。そのため迷宮のマッピング能力や罠などの危険回避能力などが非常に高く、パーティは常に安全に行動できるのだ。
攻撃役として一人目は、大魔導士のポッポという魔法使いだ。いや、魔法使いという名称を使うのは似つかわしくない、正に『大魔導士』と言って差し支えない数多の攻撃魔法を駆使するのがこのポッポである。ちなみに彼は回復魔法も使えるので『賢者』と呼ばれる方が適当なのだが、なぜか頑なに『大魔導士』と名乗っている。
物理攻撃に特化しているのは、大格闘家のキャロットだ。彼は鋼の肉体を持ち、どんな相手でも素手で立ち向かい撃破してしまう。戦闘マニアな彼は常にスリル溢れる戦いを求めており、結果命を落とすことも厭わない。今まで、何度も死線をさまよう戦いをくぐり抜けてきたがその度に強くなれる強靭な肉体を持っている。
そんな彼らが一度、クエストを請け負えば確実に達成する。それも短期間にだ。これまでの成功率は100%、つまり依頼を失敗したことは一度もないのがこの『灼熱のシャア』なのである。
「まあ、今回は彼らに任せるしかないな。すぐに帰ってくるだろうから土産話を楽しみにしていようぜ」
「そ、そうだな。それがいいよ。なんならオレがシャアに話を聞いておくぞ」
呆然としているジョーを慰めるようにハンスがその場を取り繕う。内心ほっとしているが、そんな様子はおくびにも出さない。ギルドマスターのゴメスもハンスに追随する。なんにしろジョーが自暴自棄になってダンジョンに挑まなくてよかったと思っている。
「しょうがない、傷心のジョーは私が慰めてあげるわ」
メリーもちゃっかり、2人に乗っかって好きな事を言っている。
「あいつらどれくらいで帰ってくるかな?いつもは1、2日で帰ってくるけどさ」
「まあ、今回のクエストはちょっと難しいからやっぱり5日くらいかかるんじゃないかな?」
「えー?そんなにかかるかな?シャアさんたちなら3日で帰ってくると思うわ」
もう事件は解決したとばかりに、話は進んでいき今度は何日で彼らが帰ってくるか予想をしだした。そんな3人の横でジョーはまだ呆然としている。
(ああ、オレの決心はなんだったんだろう?決死の思いでギルドに行ってソロ攻略を直談判するも聞き入れられず、せっかくハンスたちが一緒に行ってくれるということで話がまとまったところだったのに・・・)
ジョーの気持ちも分からないでもないが、クエストの挑戦は早い者勝ちだ。しかも今回のクエストはかなり難易度も高いので、最もランクの高いパーティが受注するのは誰から見ても文句のつけようがない結果なのだ。
「・・・まあ、今回は彼らに譲るしかないな。でもマスター、次にドラゴンが出たら絶対にオレ達が請け負うからな」
ようやく少しだけ立ち直ったジョーがゴメスへ宣言する。まだ完全に納得はしていないが、なんとか気持ちに折り合いをつけたのだ。
「そ、そうね。もちろんお願いよ。マスター」
「そうだぜ。今回はしょうがないが、つ、つぎこそオレたちが・・なあ?」
しどろもどろになるメリーとハンスにサムズアップしながら、にっこりと笑うゴメスであった。
(次なんて、そうそうないと思うぞ)
そうして1週間が経った。『灼熱のシャア』はまだ帰らない。




