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第184話 ステイツ国の場合 22

「絶対にダメだ」

「なぜ?」


メリーから信じられないものを見たって顔で凝視されるが、なんと言われても断固拒否だ。もう、二度と、絶対に、自分の目のまえで仲間の死ぬところを見たくないのだから。






「絶対にダメだ」

「なぜ?」



ここは王都の冒険者ギルドだ。そのギルドマスターの執務室でジョーは今、ギルドマスターであるゴメスと向かい合い「ダンジョンクエスト」について話をしているのだ。


「ねえ、だから言ったでしょ?『ソロ禁止』だって」


ジョーの横にはメリーがいる。ギルドの決定を覆すべく直談判にいくというので心配になりついてきたのである。



「はあ」


ギルドマスターのゴメスが頭を抱えて大きなため息を吐く。ゴメスは、身長2メートル近くあるムキムキの大男だ。ノースリーブの衣装から伸びたその逞しい両腕は歴戦の激闘を思い起こさせる斬り傷が至る所についている。スキンヘッドで左目には真っ黒なアイパッチともう、どこからどうみても『ザ・頭領』という見た目だ。



「まあ、お前のじいさんには駆け出しの冒険者の頃の恩はあるけどな。それとこれとは別だよ」

「なんでだ?オレがソロ攻略すれば問題ないし、もしできなかった場合でも犠牲は最小限で済む。オレには身寄りもないし誰も悲しまないさ」



ジョーのその言葉に隣に座っていたメリーはそっと目を伏せ、ゴメスはとても悲しそうな顔をした。



「お前、本当にそんな事を思っているのか?」

「だってそうだろ?マスターはじいちゃんの恩があるから、オレにはよくしてくれるけどさ。オレは誰とも打ち解けないし、このギルドでは浮いた存在だと自分でも思うよ」

「それは違うぞ」


いつの間にか、部屋の片隅に立っていた中年の男がジョーの言葉を否定する。いつも何かと気にかけてジョーに声を掛けてくれるハンスだ。


「ハンス・・・」

「お前さん、自分の事をギルドのみんながどう思っているのか知らなさすぎるぞ」

「いや。みんな無口で付き合いの悪いオレの事なんてなんとも思ってないだろうな」

「まあ確かにお前は近寄りがたい雰囲気を持っているからな。なかなか話しかけられないのは事実だ」

「そうだろ」

「でもな、『ソロプレイ』でプラチナランクまで登りつめた冒険者に憧れを抱かない人間なんてそうはいないんだぞ」

「え?」


まさかという顔をするジョーに向かってハンスは黙って頷く、その横でゴメスがうんうんと首を縦に振っている。


「特に若い子たちは、みんなジョーを慕っているのよ。ジョーのいないところでは『アニキ』って呼ばれているんだから」


メリーがここぞとばかりに力説する。


「オレ達中堅冒険者だって、そうさ。ジョーが危険なクエストを率先して受けてくれるからここ数年の『事故率』が格段に減ったってみんな言ってるぜ」


ハンスもメリーに追随する。自分の話が終わったメリーは、ハンスの話を嬉しそうに聞いている。


「な、わかっただろ?お前が死んだらみんなが困るんだぞ」


ゴメスが諭すようにジョーへと顔を向けた。ジョーは、そんな3人の顔を交互に眺めている。その表情は寂しそうな、嬉しそうな、今にも泣きそうにも見える微妙な顔だ。だが、次の瞬間表情を引き締めたジョーは宣言する。


「だったらなおさらの事、そんな大事な仲間を失う訳にはいかないんだ。やっぱりダンジョン攻略はオレ一人でいくよ」

「ジョー、お前ってヤツは・・・」



これほど言ってもダメなのか?強情なヤツだ。ハンスもメリーも思わず言葉を失うが、なんとかジョーを説得しようと試みる。



「それほど、仲間を失うのが辛いのか?」

「ああ?もちろんだとも!」


すると、ギルドマスター、ゴメスがまたジョーへと語り掛ける。



「じゃあ、もし目のまえで仲間が死にかけてたら助けるのか?」

「ああ、もちろんだ。当たり前じゃないか!」


なにを言っているのだ?とジョーは多少、憤慨しながらゴメスを見据える。



「そうか、お前たち良かったな。ジョーが助けてくれるってよ」



ジョーの言質は取ったとばかりに、メリーとハンスに向かってウインクする。ごっつい中年オヤジのウインクは多少気持ち悪いがその言葉の意味をハンスは瞬時に理解する。



「おおそうか、ありがとな。ジョー」

「??」


訝しがるジョーであったが、メリーもハンスの言葉の真意がまだ汲めない。ハンスに説明を求めるべく目で訴える。そんなメリーを無視してハンスは話を続ける。



「じゃあ、メリー。出発はいつにする?」

「出発?」

「そう、オレ達でそのダンジョンに行くんだろ?」

「え?私とハンスで?」


ここまで言ってもメリーはまだ分からない。なぜ自分と2人でダンジョン攻略しなければならないのか?


「うん、でもなあ。オレとメリーだけだと結構危険かもしれねえなあ。でも、大丈夫だ。ジョーが助けてくれるからな。なっ?ジョー」



ここまで来て初めてメリーもゴメスとハンスの言わんとする意味が分かった。そして同じくしてジョーにもその意味が伝わる。



(こいつらは、オレがひとりでダンジョンに行かないようにワザと2人で攻略するって言っているんだ。オレが2人のピンチを見逃さないことを見越して)



「お前たち・・・」



言葉を失うジョーの頭をゴメスの巨大な手のひらが乱暴に撫でる。



「はっはっは、お前の負けだ。今回ばっかしは、パーティで攻略するしかないだろ。な?」





ジョーは3人の顔を交互に見つめる。が、諦めたようにがっくりと頭を垂れた。




「みんな、すまない」



顔を上げたジョーの顔はとても晴れやかなものだった。メリーの胸がキュンとさせる程に。



「じゃあさ、パーティ名決めないとね。何にする?」

「なんでもいいよ、メリーが決めれば?」



ドラゴンのダンジョン攻略の間だけの暫定的なパーティだ。名前なんてなんだっていいだろう。



「ほんと?」

「ああ」

「任せるよ」


ジョーもハンスもあまり拘りがない。名前なんてなんだっていいだろうと思っている。ただ冒険者ギルドの決まりとしてパーティでクエストを攻略する場合には、パーティ名で申請することになっている。それだけの理由だ。だが、パーティ名の決定権を得たメリーは大喜びする。



「じゃあ、マスター。パーティ名は『美少女戦士メリーちゃんと愉快な仲間たち』で登録お願いします」



「おう、わかっ」

「「却下だ」」


ジョーとハンスの両名が被せ気味に反対する。大喜びしていたメリーは、そんな2人の態度に不満げに頬をぷうっと膨らます。



「なによう、なにがいけないのよ?」

「全てだ」

「全てってひどい」


ばっさり斬り捨てるジョーの態度には多少、同情するが自業自得だと何も言わない。そもそも、ジョーは口がヘタなだけで悪気は全くない。それを3人とも分かっている。ただ、パーティ名は決めないとな。ここでハンスが口を開く。


「じゃあさ、『チャレンジャー』って名前にしないか?ダンジョンに挑戦するんだからさ」

「うん、それでいい」

「ジョーがいいって言うなら反対はしないけど・・・」


しぶしぶ従うメリーは、まだ自分の意見が却下された事に納得いかないようだ。



「おう、分かった。『チャレンジャー』だな。すぐに登録するよ」



ゴメスが返事をすると、部屋のドアをノックする者がいる。



「マスター、ちょっといいですかあ~」

「ああ、アニーか。ちょうど良かった。パーティを一組登録してくれないか?」


ギルドマスターの執務室に入ってきたのは一人の小柄な少女だ。柔らかそうな明るい茶髪をゆるふわ感ある無造作なボブカットにした髪形に、大きめのブラウンの瞳はちょっと眠そうに少し垂れている。



「はーい」



王都の冒険者ギルドで事務をやっているアニーがゆるーい返事をしてゴメスから書類を貰う。そのまま退室しようと部屋の出口まで進んで、何かを思い出し、回れ右をする。



「あのう」

「うん、なんだ?」



いかついオッサンにまだあどけなさの残る少女が話しかけている。これ、傍からみたら警察に通報するレベルなんだがこれがこのギルドの日常の風景なのだ。



「『灼熱のシャア』さんたちが、ダンジョンのクエストを受注したのでその報告を・・・」

「え?あのクエストもう受注したのか?」

「はい、今朝早くにシャアさんが来まして」


アニーがゴメスへとにっこり笑いかける。そのかわいい笑顔に一瞬ほっこりするゴメスだったが、次の瞬間申し訳なさげにジョーへと向き直った。









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