第180話 ステイツ国の場合 18
胸糞展開、閲覧注意です。嫌いな人は読み飛ばしてください
「トム・・・」
ジョーは、必死の思いでトムの亡骸へと這い寄っていく。近くに寄ってみるとトムの体には無数の刺し傷があるのが分かる。何十、いや100に届くかと思われるその傷跡からトムの最期はゴブリンたちからめった刺しにされたのであろうことが推察された。更に、切り離されていた手足に目をやるとその切断面が荒い。残虐なゴブリンのことだ、恐らく乱暴に引き千切られたのだろう。
「トム、お前。ジェシーを守るために最期まで勇敢に戦って死んだんだな」
トムの亡骸にすがりつきジョーは涙を流す。トムの必死の形相が自分の死の無念さを表している。そんなトムからは、小さな小さな粒子が天へと立ち上っていた。
「グフフ」
「キキイ」
「キッキッキ」
そんなジョーの様子を周りのゴブリンどもがニヤニヤしながら見ている。全身の切傷から血が流れ、最早歩くこともままならないジョーに何もできないことを分かっている彼らはジョーをなぶり者にして楽しんでいるのだ。
「ジョー、ジョーなの?」
「ジェシーか?無事だったのか?」
そんなジョーの耳にトムが命を賭してまで守りたかった存在であるジェシーの声が届く。良かった、ジェシーはまだ生きている。
ジョーは、ジェシーの声がする方向へと体を向ける。だが、ジェシーの声はすれど姿は見えない。その方向には人だかりができていたのだ。そう、ゴブリンたちが何かキイキイ言いながら集まっているためにジェシーの姿が隠されているのだ。
「ジェ、ジェシー。今行くぞ」
ジョーは、その人だかりへ向かって這い寄っていく。思うように体が動かないため、本当にゆっくりとしか進めない。だがゴブリンたちはニヤニヤしながらそんなジョーを見守っているだけで邪魔はしてこない。
そうしてジェシーの周りに出来ていた人垣までたどり着くと、その人垣が割れ中の様子が見える。それは異様な光景だった。まずジェシーの小麦色の肌が目に飛び込んできた。
ジェシーは、小柄な少女であったが魔法職の割には活発で体形も均整の取れたプロポーションを保っていた。肌は健康的な小麦色で見た目はテニスなんかやっていそうなスポーツ少女といったところだった。勝気な性格でいつもトムを引っ張りまわしているが、実は2人きりになるとすごく優しいということをトムからはいつも聞かされていた。
「ははは、ジョーが来てくれたわ。トム、ねえトムったら?ジョーが来てくれたのよ」
そんなジェシーの表情からは一切の感情が抜け落ちていた。光の灯らない目には意思が感じられず、誰に語るでもなくまるで独り言のようにブツブツと呟いている。
衣服を脱がされ手足を押さえつけられ大勢のゴブリンから慰みものにされたのだろう、その綺麗な小麦色の肌はベトベトとしたゴブリンの体液にまみれていた。
「キッキッキ」
「グフフ」
「キキキ」
周りのゴブリンどもは、ジョーの絶望に打ちひしがれた様子を愉快そうに見ている。と、その時ジェシーの身に変化が起こり始める。
「あ、あ、あ、こ、怖い。どうなるの私?ねえ、怖い助けてトム、ねえ、トム?どこにいるの?」
ジェシーのお腹の辺りが急激に膨らみ始めたのだ。その勢いは凄まじくジェシーのお腹はあっという間に直径2メートルほどに膨らみ、まだなお膨らみ続けている。
「ねえ、怖い、助けて、トム、お母さん」
ジェシーは泣き叫ぶが、膨張は止まらない。そして
「パン!」
小さな破裂音とともにジェシーのお腹は破れてしまう。それだけではない、見るもおぞましいのだが、ジェシーのお腹の中から無数のゴブリンが這い出てきたのだ。醜悪なゴブリンが這い出る様は、とても直視に耐えられず思わずジョーは目を背けてしまう。
「ジェ、ジェシー!」
だがなんとか気を取り直したジョーは、お腹が破裂してしまったジェシーへと這い寄った。ジェシーは可哀そうなことに恐怖にひきつった顔をしたまま息を引き取っていた。途端にジェシーの体から小さな粒子が立ち上る。トムの時もそうだったが、人は死んでしまうと自分を構成している原子だか細胞だかが壊れて天に昇っていくのだ。
(トムは死んだ、そしてジェシーもたった今目のまえで死んでしまった)
ジョーは絶望感で目のまえが真っ暗になる。幼い頃からいつも一緒だったトムとジェシーがたった今、自分の目のまえで惨たらしく殺されてしまったのだ。到底受け入れられる事実ではない。
「ジョー、来てくれたの?」
すると更に奥から声が聞こえる、ジョーが世界で一番大好きなメアリーの声だ。
「メ、メアリー!!無事か?今行くぞ」
メアリーだ、ここでメアリーまでも失う訳には行かない。絶対に助けてやるぞ。
「ジョー、お願いだから来ないで」
ところが、そんなメアリーの口からは予想もしないセリフが出てきたのだった。




