第177話 ステイツ国の場合 15
「はあっ、はあっ、はあっ」
(なんだったんだいまのは?)
急に自分の体が自分でないように素早く、そして力強く動かせることが出来た。そのお陰であの手強かったゴブリンソルジャーのうちの一体を葬ることができた。だが、今まで出したことのない力をつかった反動で体中が悲鳴を上げている。荒い息を吐きながらジョーは先ほど自分の身の上に起こった現象について考察する。
(確か、絶望感に目のまえが真っ暗になった後、急に光が差し込んだような気がして)
「キキーイ!」
「!!」
間髪入れずゴブリンたちの攻撃が始まる。たった一匹倒したくらいでは、やつらは止まらない。むしろより苛烈な攻撃を繰り広げてくるのであった。
キンキンキンッ
伝説の冒険者を父に持ち、国選武器職人を祖父に持ったジョーはこと戦闘に関しては天才だった。その才能で生まれてからこのかた、戦闘で敵に不覚を取った事がなかったのだ。もちろん、この時に至るまで強敵に巡り合うことがなかったのが事実ではあるが。
だが、今この時、ジョーは初めて強敵と呼べる相手と相対している。そして、自分の仲間がピンチという状況の中かつてないほどの集中力を発揮したジョーはその潜在能力を開花させることに成功したのだった。
ドサドサッ
ジョーに斬りかかってきた3匹のゴブリンソルジャーたちの体が真っ二つになった後、地面に倒れる。そして倒れたゴブリンの体から粒子のようなものが立ちこめて空へと昇っていく。普通のゴブリンは、魔物と同じく煙に包まれた後、一瞬で宝箱へと変化するのだがゴブリンソルジャーの時は違うエフェクトが用意されていた。そしてそれは人種が戦闘で死んだ時と同じであった。
「キイ」
ゴブリンジェネラルの顔から余裕の笑みが消え真剣な表情になる。本気でかからないといけない相手だということを認識したのか、後方で待機していたのが前へと歩み寄ってくる。そしてそれに呼応するように残ったソルジャーたちは、ジェネラルを囲むように左右へと別れた。
キンキンキンッ
ドサドサッ
本気になったゴブリンたちであったが、覚醒したジョーの敵ではなかった。ジョーは、ゴブリンたちの攻撃を楽々と躱しかれらに愛刀「デュランダル」の攻撃を叩き込む。ジョーの攻撃はゴブリンたちの急所へ吸い込まれるように正確にヒットし、そしてゴブリンたちの命の灯を狩っていった。
「よし、メアリーたちはあっちだ。急ごう」
ジェネラルを始め、敵は全て葬り去った。仲間たちとの距離はまた開いたがここから数百メートくらいだ。まだ、気配は探れる。ただしメアリーたちの体力はかなり減っているので急がないと。でも、ここからは敵の気配もないし走ればまだ間に合うはずだ。
ジョーは仲間たちの気配へと向かって一直線に走り出した。
「ここからメアリーたちの気配がする」
仲間の気配を追って着いた先には、大きな洞窟の入り口が口を広げていた。「気配察知」によるとこの洞窟の奥約100メートル先に、メアリーたちの気配がする。彼女たちはこの中で激しい戦闘を繰り広げているようで、その体力をどんどんと減らしていっている。一番、強いトムの体力消耗が一番激しい。その数値は最大値の半分を切っている。もちろんメアリーとジェシーの体力も心もとないレベルまで下がっている。もはや一刻の猶予もない、すぐに助けに入らなければ。
「よし、突入するぞ」
ジョーが、洞窟の内部へと足を踏み出した瞬間であった。今までに経験したことがないような強烈な脱力感が全身を包み込む。体を動かそうとしても、一歩も進めない。それどころか、全身を覆う倦怠感により目を開けていられないほどの眠気が襲ってきてその場に立つことさえもままならない。
急な覚醒により力を使い果たしてしまったジョーは、気力だけでここまで到着したのだがそれもここまでで、今のジョーには一滴の体力も残ってなく一歩も進むことが出来なくなっていた。
(だ、だめだ。メアリーを助けないと、トム、ジェシー今行くぞ。待ってろ・・・)
◇
「はっ、オレは気を失って・・・」
それからどれくらいの時が過ぎたのだろうか?実際には、小一時間ほどの時間であったが意識を失ったジョーが再び目が覚めた時、状況は劇的に変化していた。
(いや、そんなことよりも早くメアリーの元へと行かなくては)
急いで、彼らの気配を探る。嫌な予感がどんどんとジョーの中で大きくなっていく。祈るように彼らの気配を探るジョーであったが、
「気配が2つしかない。ト、トムの、気配を、、、感じない・・・」
それだけではない。メアリーとジェシーの気配もまるで最後の灯のように今にも消えそうにどんどんと小さくなっていたのだった。




