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第173話 ステイツ国の場合 11

「みな、くれぐれも気を付けてな。絶対に無理をするでないぞ」

「ああ、分かっている。今回はあくまでも偵察だからな。やつらのアジトを突き留めたらすぐに帰ってくるぜ」



心配そうな表情のスピードワゴンにジョーは力強く応えるが、それでも不安は尽きない。前回、長年の友人でもあったシュトロハイムを失ったことに凄く責任を感じているのだ。




「まあまあ、オレ達もついてますんで。ジョーには絶対にムリさせませんよ」

「そうそう。危なくなったらすぐに退避するよね」

「心配しないでくださいスピードワゴンさん。私たち、もう子供じゃありません。ちゃんと状況判断できますから」



不安げなスピードワゴンに、トムとジェシー、それにメアリーが声を掛ける。孫くらいの年齢の彼らに気を使わせてしまい更に申し訳なく思うスピードワゴンであったが、ギルドマスターとしては力強く送り出してやらなければならない。気持ちを入れ替えていつもの精悍な顔つきになって彼らを見送るのだった。






「ようし、そろそろ昼ご飯にしようぜ」

「おう」

「お腹空いたねー」

「ふふふ、ちょっと待っててねジェシー。すぐにご飯の支度するわね」

「あ、メアリー。私も手伝うわよ」

「うん、ありがとう。助かるわ」




村を出て山を3つ越えたところで昼ごはんを食べるために休憩を取ることにした。ここに来るまでは順調で事前に立てた計画通りに進んでいる。ここに来るまでに、ゴブリンと三回遭遇しそれぞれ戦闘になったのだが、いずれも問題なく倒してきた。




「それにしてもここに来るまで思ったよりもあっけなかったな」

「そうだね。事前に予想していた出現ポイントに普通にゴブリンがいたよね」



メアリーが作ってくれたサンドイッチをほお張るジョーにトムが答える。クエスト中なので簡単に食べられる食事なのだが、料理上手なメアリーが作ってくれたサンドイッチだ。焼きたてでふかふかのパンにはさまれた野菜とワイルドウルフの厚焼きベーコン、それにメアリー特製のマヨネーズソースが絶妙にからんで最高のおいしさだ。それだけでは食事として寂しいので、ワイルドターキーを丸ごと煮込んだ具沢山スープもある。結婚したら、これが毎日食べられるのか。などとジョーが考えていると



「なにか上手く行き過ぎているみたい。ゴブリンの罠かもしれないので気を付けましょう」



メアリーが発言する。彼女は、このパーティにおける頭脳担当だ。勇者と戦士、それに魔法使いという攻撃的な職業ジョブのラインナップで構成されるパーティの中で回復薬ヒーラーの彼女が一番冷静に戦況を把握できる。その慎重な性格に加えて洞察力、戦術眼なども優れているのだ。




「メアリーの言う通りだと思うわ、ちゃんと気を付けるのよトム」

「なんだよー、ジェシーだってさっき『楽勝だわ』って言ってたじゃないか」



きゃあきゃあ言い合っている2人を複雑な表情で見るジョーであったが、同じくその様子を微笑みながら見守るメアリーと目が合った。



「あの2人のためにも絶対無事に帰りましょうね」

「ああ、ってもちろんメアリーはあの2人が結婚するって知ってたんだな」


メアリーは、天使の如きその微笑みをジョーへと向ける。日の陽に照らされたブロンドヘアーも相変わらず美しい。その美しい横顔を見ていたジョーは、もう自分の衝動を抑えることができなくなった。



「なあ、メアリー」

「なあに」

「あ、あのさ。オレ達もこの戦いから帰ったら、その」

「帰ったら?どうするの?」



メアリーの蒼い瞳がじっとジョーを見つめる。とても真剣な表情だ。ジョーは、その美しい顔を見て改めて思う。ああ、やっぱりオレはメアリーが好きなんだな、と。



「あの、結婚してください!」



ジョーは、それだけ言うとガバっと顔を伏せてしまった。メアリーの返事が怖いのだ。もし断られたらどうしようと思うと、とてもじゃないがメアリーの顔を直視できない。そのままうつむいてしまう。



「・・・ふふふ」

「?!」



恐る恐る顔を上げたジョーは、メアリーと目が合った。メアリーは今まで見たなかで一番、柔らかな笑顔をしていた。



「やっと言ってくれた」

「え?」

「ジョーったら私に興味がないのかと思ってた」

「そんなことは・・・」



戸惑うジョーに向かってニッコリとほほ笑むメアリーであったが、その大きなブルーの瞳から涙がポロポロと零れだした。



「ああー!ジョーったらなんでメアリーを泣かしてるのよー」

「ああ、いや。これは」



そんな2人の様子をいつの間にか、トムとジェシーが見ていた。ジェシーはすぐにメアリーに駆け寄る。あわてて両手を目のまえでブンブンとふるトム。もう、展開が早すぎて何が何だか



「良かったね。メアリー。やっとで告白して貰えたね」



メアリーの涙を懐から取り出したタオルで拭いてやりながらヨシヨシと頭を撫でるジェシー。メアリーは、そんなジェシーの肩に顔を埋めなおも涙が止まらない様子だ。いつもニコニコと笑みを絶やさないメアリーの初めて見せる態度だ。




「やっとで告白したか。もう、ジェシーと2人でじれったくてじれったくてヤキモキしていたんだぞ」



いつの間にか隣にきたトムがポンとジョーの肩を叩く。何という事だ。いっつも自分たちの事を見せつけやがってと思ってたトムが実はそんなにジョーの事を心配していたなんて今の今まで気づかなかった。でも、考えてみればこいつらの結婚の話を聞かなければ告白できなかった。



「ありがとうな、トム」








ジョーはこの日の事を一生忘れることはない。そう、自分の人生で最良のこの日のことを。








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