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第167話 ステイツ国の場合 5

「グリズリー種」この世界で人種の生活圏において最も戦闘力が高い猛獣の総称と言ってもよい。

その中で「キンググリズリー」は、ある意味脅威度は低い種族と言える。


どういう事かと言うと、ある程度接触を避けられるからである。



「キンググリズリー」は群れを形成する生態なのだが、その群れは基本的に「なわばり」の中で生活する。そしてその「なわばり」は分かりやすい程、その痕跡を残しているのだ。つまり、「キンググリズリー」との接触を避けるのは、「なわばり」に入らなければいいだけなのだ。


そういった中でこんな討伐依頼が出されるのは決まって「はぐれキング」と言われる個体だ。


「キンググリズリー」の群れは、成体のオス一頭とメス数頭から十数頭、子供が数頭から数十頭という構成になっている。その数頭いる子供の中で、オスはある程度大きくなったら群れから追い出される。そして追い出されたオスは自分でも、群れを作るために違う群れのボスに戦いを挑むのだ。



つまり、「はぐれキング」」とは自分で群れを形成できなかったオスのグリズリーがなわばりを持たずウロウロしている状態なのだ。






「なあ、村長さんこの依頼」

「ダメじゃ」


ジョーが言い終わる前に村長からダメを出される。頭ごなしに、言われたジョーはほっぺたをぷーっと膨らませてむくれる。



「なんでだよー」

「お主たちにはまだ早い」



これまた、取り付く島もない厳しい表情でいつもの温和な様子は微塵もない。だが、これも無理からぬことであった。



実は、ジョー達のパーティは村長を始めベテランの冒険者たち、さらに村の大人たちからも非常に期待されているのだ。何しろ、このモリオービレッジ唯一のゴールドランカーであったジョータロウの息子であるジョーのパーティなのだ。だが、それだけではない。メアリーは他では得難い「回復士ヒーラー」であるし、トムとジェシーの能力と職種ジョブもバランスが取れている。


普通、こんな田舎で冒険者たちがパーティを組んでも回復役がいないのが普通である。それどころか、勇者ばっかりのパーティみたいな組み合わせもざらにある。


そんな中このパーティは、戦力のバランスが取れているだけでなく幼い頃からの馴染みで気心も知れている。もちろん、一流の冒険者ならば相手に合わせることも難しくないのだが、まだ子供である彼らの場合、お互いの事をよく知っているに越したことはない。正にパーティとして理想的と言える。


そんな彼らを、大事に大事に育てて欲しいという願いは村全体の大人たちの暗黙のルールであった。なので、今までも危険性の少ないクエストだけを依頼してきたのだった。



そんな状況にジョーは不満がたまる一方だったが、こちらとしても引けない理由がある。厳しい表情の村長とほっぺたを膨らませたジョーのにらみ合いは続く。







「村長さん、大変だ」




そんな時、バーンとドアを開け入ってきたのは村の青年だった。よっぽど切羽詰まっているらしく、部屋の中のジョーたち4人には目もくれずに村長に歩み寄る。



「例のキンググリズリーにマイケルが襲われた。群れの縄張りからかなり離れているところで木の実を取りに行っていたところだったんだ」

「なんだと!それで、マイケルのヤツは大丈夫だったのか?」

「ああ、なんとかな。だが、なんとか一命はとりとめたものの足に大けがを負ってしまって歩けるようになるまで暫くかかりそうだ」

「そうか、それは不幸中の幸いってヤツじゃな」



安堵のため息を漏らす村長に向かって、だが青年はまくしたてる。



「今回は良かったけど、次はどうなるか分からないぞ。あの「はぐれキング」はどんどん村の近くまで来ているって目撃情報が集まっているんだ。このままだと誰か命を落とすことになりかねないぞ」

「そりゃいかんな」

「ああ、一刻も早く討伐してくれよ」

「わかった、すぐに・・・」



村長が次の言葉を出す前にジョーと目が合う。目をきらきらと輝かせているジョーと。そして、村長室に入ってきた青年も初めてジョー達の存在に気付きハッとする。



「ライナーさん、大変だったね。このクエストはオレ達に任せてくれよ」

「あ、ああ。ジョーか。そりゃあ頼もしいけど、なあ、村長?」

「お、おう。このクエストは他の冒険者に頼もうと」



すると、ここまで沈黙していたトムが初めて口を開く。




「村長さん、今、この村のベテラン冒険者の人たちは皆、他のクエスト依頼を受け出払っていますよね」

「あ、ああ。そうだったかな?」

「通常、クエストの依頼はギルドマスター権限で行うとありますが、村で緊急の依頼があった場合はその限りではありませんよね?」

「う、よく知っているな」

「ええ、昨日冒険者規約を読みましたから」

「さっすがトムだぜ。頼りになるなあ。じゃあ、村長。オレたちがこの依頼受けてもいいよな?」



期待に満ちた視線をジョーとトムからまともに受けた村長は、暫し考え込むがやむを得ず結論を出した。




「うむ、ではジョーよ。トムとジェシー、それにメアリーの4人でこの依頼を受けてもらうぞ」










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