第166話 ステイツ国の場合 4
「そっち行ったぞー」
「ようし、任せろー」
ザシュッ
トムが自分の武器である巨大なオノ「バトルアックス」を大きく振りかぶり、素早く振り下ろす。するとこちらへと駆けてきたワイルドウルフの首が飛ぶ。一瞬ののち、煙と共にドロップアイテムが現れた。
「またまた行ったぞー。今度は3匹だ。気をつけろよー」
ドロップアイテムをアイテムボックスへしまう間もなく次が現れる。だが、抜かりはない。
「今度は私の番ね、それー『ウインドカッター』」
シュンシュンッ
真空の鎌が、またまたこちらへと逃げてきたワイルドウルフ達の首を刈り取る。首と胴体がお別れした哀れなウルフたちは慣性に逆らえず暫く胴体だけで走ったのち、ボンッと消え失せた。
「「ナーイス」」
トムとジェシーが自分たちの首尾のよさにハイタッチを決める。
「お前ら、うまく行ったようだな」
「ケガしなかった?」
そこへ、ジョーとメアリーが現れる。2人ともうまくいったようでにこやかな雰囲気だ。ここは、4人が冒険者になる前から特訓していた場所から少し奥へと入ったところだ。
ジョー達は前衛に攻撃力と敏捷性が優れたジョーといざという時のための回復役にメアリーが、そして仕留めそこなった敵に止めを刺す役の後衛に守備力の高いトムと攻撃パターンが豊富で応用力のあるジェシーが務めるといったフォーメーションで狩りを行っている。
このところ、ワイルドウルフの繁殖期に入っているためその数が増え、そしてクエストの依頼も増えているのだ。
「あら、トム。けがしているじゃない」
トムの右肩にワイルドウルフから付けられたひっかき傷を見つけたメアリーは、駆け寄って回復魔法をかける。
ポワッとトムの右肩辺りが鈍く光り、徐々に消えてゆく。
「あ、ありがとう。メアリー。お蔭で全然痛くなくなったよ」
「いえいえ、戦えない私にはこれくらいしかできないから」
そんな2人の様子に、ジョーはやきもきする。メアリーの手がトムの肩に添えられているのを見ると気が気じゃないのだ。
「な、なあ。もう、治ったんだろ?じゃあ、もう肩から手を離してもいいんじゃないか?」
「まあ、ジョーったら。あなたはさっき回復魔法を受けた時、『まだ痛むから』って言ってずっと離してくれなかったじゃない。自分ばっかりそんなワガママ言ってダメじゃないの」
優しくたしなめられるジョーであったが、鈍感なメアリーと違ってトムとジェシーはジョーの気持ちは分かっている。なので、すぐに2人の仲裁に入る。
「まあまあ、トムももう大丈夫だよね?」
「メアリー、本当にもう大丈夫だから」
「うーん、まあトムがそう言うなら・・・」
(それにしても、メアリーも鈍感だけどジョーもたいがいだよね。自分のことで精いっぱいで僕たちのこと全然気づいてないんだから)
そう、トムとジェシーも小さい時から想い合っていた。そして最近になってから密かに付き合い始めたのだが鈍感な2人はまるで気づいていないのだ。
「それにしても、毎日毎日ワイルドウルフばっかりだと飽きるよなあ。もっとこう。大きな依頼とかさあ、受けたいよねえ」
いつもの如くジョーがぼやく。それを他の3人がたしなめるのがいつものパターンなのだが、今日は違った。
「うん、そうだね。ボク達もそろそろもっと大きなクエストの依頼を受けたいよね。でも、難易度の高いクエストはランクの高い冒険者から埋まっちゃうから。少しでも早くランクを上げないと」
珍しくトムがジョーの言葉に同意したのだ。実は、トムはジェシーとの将来を考え一刻も早く一人前になりたいと思うようになったのだが、もちろんそんな事はジョーは知らない。
「おお、トムも分かってきたじゃないか。じゃあ、どうやれば高ランクの依頼を受けられるか一緒に考えようぜ」
上機嫌になり、意気揚々と村へと歩を進める。女子2人は、そんな単純なジョーのことをクスクスと笑いながら後ろからついていくのであった。
◇
「村長さーん、クエスト達成したぞ。これが証拠だ」
村へと帰還し、村長兼ギルドマスターの家へと直行する。村長の家は、この村の中では一番大きい。とは言ってもこんな田舎の寒村なのでたかが知れるのだが、一応応接室もありクエストを達成した冒険者はそこへと通されるのだ。この村の村長は、とても温厚な老人でいつでも冒険者たちを温かく迎え入れてくれる。そんな村長の目のまえにジョーはネックレスを差し出した。
「おお、これは間違いなくジェーンさんがワイルドウルフから奪われたネックレスじゃ。でかしたぞジョー」
村長から褒められて得意満面になる。本当に単純な男なのだ。ちなみに今回の依頼は
『ジェーンさんが奪われたネックレスの奪還とその犯人であるワイルドウルフの群れを殲滅すること』
であった。ワイルドウルフは光物を収集するクセがあり、度々貴金属を強奪されるのだ。このような村だと貴金属や宝石は滅多に出回らない。みんな、大切な人の形見であったり先祖代々の家宝であったりするのだ。それが奪われたとあっては、必死にもなる。なのでこういう依頼は結構あるのだ。
「そんな事よりさあ、もっと高ランクな依頼を受けさせてよ」
そう言いながら、ジョーは応接室の一角に設けられた掲示板に目をやる。ここにクエスト依頼が貼りだされているのだ。勝手知ったる村長の家、他の3人が神妙に座っているのを尻目にジョーは自由に部屋を行き来する。
「って、あれ?この依頼」
掲示板に貼りだされていた依頼書の数々を物色していたジョーの目が止まる。そこには、
『キンググリズリーの討伐依頼』
と書いてあった。




