第163話 ステイツ国代表の場合
ステイツ国代表、ジョーが生まれ育った村は一言でいうなら「典型的なファンタジー世界」だった。
四方を険しい山に囲まれた寒村には、およそ産業と呼ばれるようなものは発達しておらず痩せこけた土地を耕しても収穫できる作物はたかが知れる。その苦労した作物も片っ端から魔物に強奪されるため、人々は武器をとり魔物と戦わざるを得なかった。
そうして自衛のために魔物と戦うこととなった人々は、すぐに魔物と戦うことのメリットを知ることとなる。それはドロップアイテムという名の文字通り報酬であった。
例えば「ワイルドボア」という魔物がいる。人里近くに生息し度々、畑を荒らしていく人間からすると害獣指定されている魔物だ。見た目はイノシシを巨大化させ、キバをより鋭利に性格を狂暴にした感じの魔物であるがコレを討伐した場合、ドロップアイテムはそのものズバリ「肉」だ。それも4人家族がひと月からふた月ほども食いつなげるくらいの大量のそれも「旨い肉」をゲットできる。
この「ワイルドボア」であるが、そこそこの繁殖力があり村から離れると結構な確率で遭遇する。群れを形成せず単体で行動する生態のため、「狩り」の対象としては比較的容易い部類に入る。また、その攻撃方法も単純にキバの攻撃力頼みの突進のみであり気をつけてさえいれば回避することもそう難しくはない。
ある一定の条件を満たせば・・・の話であるが
もちろん、その条件とは「戦闘力」の事でありその「戦闘力」とは魔法を含む「スキル」であったり力や敏捷性、防御力などの体力面であったり魔物固有の攻略方法を練ることができる知識である。そしてもう一つの大きな要素は「装備」である。例え、1の力しか持たないものでも100の攻撃力が付与されている武器を装備した場合、101の攻撃力が生まれるのである。
もちろんこれは極論であり、「戦闘力」という言葉が指す意味は純粋な生身の体での素の能力を指すことが多い。「鬼」に「金棒」を持たせたら無敵となるが、一般人に「金棒」を持たせても「鬼」には勝てないのが世の常なのだから。
人族の国の中も最大の強国であると言われている「ステイツ国」であるが、それは「戦闘力」を有している人間が多いからである。そしてそれは「ステイツ国」が他の3国に比べて魔物の出現率が圧倒的に多い事が理由であり、結果として魔物を討伐する冒険者の絶対数が多いからだ。
「・・・お前、冒険者になるのか?」
ジョーは10歳になると祖父に連れられて「王都」へと足を運んだ。この国の決まり事として10歳になった子供は、「鑑定」スキル持ちしか就く事ができない「司祭」に能力を「鑑定」して貰うのだ。もちろん、『冒険者認定』されてすぐ冒険者になれる訳ではない。冒険者として登録できる年齢は15歳からだ。つまり、『最低5年間』は準備期間がありその間に各自、修行を積むなり、勉学に励み他の道を探すなりするのだ。
「鑑定」結果、ジョーの種別は、「勇者」だった。冒険者としては最もポピュラーなジョブだ。ポピュラーと言えば聞こえはいいが、戦闘力特化の「戦士」や「格闘家」、魔法特化の「魔法使い」回復特化の「僧侶」などと比べれば取り立てて特徴がない器用貧乏なスペックだと言える。現に冒険者となった場合、最も事故率が多いのはこの「勇者」ジョブであった。ちなみに事故率とは死亡率とも言い換えられる。
だが、例え他のジョブに比べて適性が劣っていたとしても「冒険者」の資質があることには違いない。この国では「冒険者」の資質が認められた場合、「冒険者」になるかならないかの選択肢は本人の判断に委ねられることとなっている。
それは魔物という脅威に対して「戦闘力」を確保するためではあるが、国民の「事故率」を減らすという側面もある。魔物から人々を守る「冒険者」という職業は、子供たちからするとプロアスリートに憧れるのと同じ感覚の花形職業である。
その昔、「鑑定」が義務化されていなかった時代には「資質」のない幼き冒険者たちが大量に「事故」に遭ったこともあったのだ。国は「資質」のないものは、「冒険者」を選択することを固く禁じることによって「事故」の発生を大幅に減らすことに成功した。
「うん!」
祖父の問いかけに元気よく答えるジョー少年。自分に「冒険者」の資質があることを認められて心底嬉しそうだ。
「・・・そうか」
元気一杯に答える孫の表情に比べジョーの祖父であるジョースターは浮かない表情だ。
(いっそのこと資質がなければよかったのにな)
冒険者だったジョーの両親は彼がまだ幼い頃に「事故」で亡くなっている。決して珍しい事ではないのだが、それでもジョースターの立場からすると孫が冒険者になることに賛成できるはずもない。
「ねえねえ、じいちゃん」
「なんだ?」
「ボクにとっておきの武器を作ってよ」
「・・・そうだな」
◇
武器職人だったジョースターは息子夫婦の訃報を聞くとすぐに王都の店を畳み、ジョーを育てるために辺境の村まで引っ越した。「武器職人」を継ぐのを嫌がって王都から出て行った息子が結婚していたことも自分に孫ができていたこともその時初めて知った。
随分前に妻に先立たれて天涯孤独となった自分に肉親がいたことを知り、孫に会いたくなったのかもしれない。王都で武器職人をしている上でのしがらみに嫌気がさしていたのかもしれない。
辺境の村で隠居生活を始めるくらいのつもりだったジョースターだが、ジョーが生まれ育った村での生活はとても居心地が良かった。
「ジョースターさん、オレの剣もうガタガタなんだけど直してもらえねーかな?」
「・・・またお前か?見せてみろ」
(こんな安物の剣を大事に使いやがって)
ジョースターが武器職人だということを聞きつけて村の冒険者たちが、ジョースターの元へ訪れるようになるまで時間はかからなかった。はじめは面倒くさがっていたジョースターだったが、村人たちの相談に乗っているうちにすっかりこの村に馴染んでいた。
こんな辺境の村には武器屋もなく村人たちはろくな設備もないまま自分たちで武器の修理を行っていた。
そんな彼らがジョースターの元へ持ち込む武器は、使い古されたボロボロのものばかりでそれを使う彼らもまた、決して一流とは言えない冒険者ばかりであった。満足な謝礼も払えない彼らであったがジョースターが直してやった武器を手にすると本当に嬉しそうな顔をする。そして彼に何度も礼を言って大事に大事にその武器を持って帰るのだ。
「3日後に取りに来い」
「え?直るのかい?」
「ああ、直してやるよ」
「ありがとう、この剣は死んだオヤジの形見なんだ」
何度も何度も、頭を下げながら帰っていくその冒険者にジョースターはぶっきらぼうに手を振る。が、気分は悪くない。根っからの職人気質であるため感情を表すのが苦手なだけなのだ。
「やっぱりじいちゃんは凄いや」
冒険者と祖父とのやりとりに目をキラキラと輝かせるジョー少年。
そんな孫の様子に自分の後継者となってもらう淡い夢を抱くジョースターであったが、それはすぐに打ち砕かれることとなる。
◇
場面は王都からの帰り道へと戻る
(それにしても、ジョーの『鑑定結果』これをどう考えるべきか)
ジョースターは古い付き合いの大司祭から伝えられたジョーの『鑑定結果』について考えていた。だが、いくら考えても答えはでない。
ちなみに、ステイツ国の10歳の子供全員が受ける『鑑定』であるが、『鑑定』スキル持ちの中にもレベル差がある。鑑定スキル初級と鑑定スキル中級では、同じものを『鑑定』したとしてもその『鑑定結果』については内容が異なる。もちろん、初級だろうがウソの鑑定結果は出ない。その結果が詳細か否かというだけだ。『鑑定』スキル持ちはステイツ国にもそんなに人数いない上にそのほとんどが初級スキル持ちなのだ。もしジョーをその鑑定スキル初級持ちの者が鑑定した場合の結果だが、
「鑑定結果」
ジョー
勇者
とこのように名前とジョブクラスだけが表示される。
そして彼を実際に鑑定した結果であるが、
ジョー
勇者Lv2
種別:人族
HP19
MP25
使用可能な魔法:初級火魔法
因子:狂戦士
(狂戦士の因子ってなんだ?イヤな予感しかせぬのだが・・・)
ジョースターはその後しばらくの間、ステイツ国でも数人しかいない特級鑑定スキル持ちの友人から告げられたこの内容が頭から離れることがなかった。




