第155話 ダルシム国対ステイツ国 その2
「残念だが、ワシに火球の類の攻撃は効かん」
姿を現したヨガ行者が口を開く、物静かな口調だがこの激しい闘いが行われている騒々しい状況の中でもよく通る澄んだ声色だ。このヨガ行者の言っている事だが解析スキルによると、火属性への耐性持ちというのと火球の類は体内へと取り込む事ができるようだ。スキルによるシミュレーション映像によると、火球をまるで池のコイがエサを食べるが如く、パクパクと吸い込んでいるようだった。
これには、ステイツ国代表のイケメン冒険者も唖然とするほかない。口をパクパクさせてこちらもまるでエサを貰うときの池のコイのようだ。
「ラマフレイム」
そして次の瞬間にバリアの内側に瞬間移動したヨガ行者が、イケメン冒険者に炎を浴びせかける。「ぐわあ」火だるまになったイケメン冒険者が地べたを転がる。
「アツ、アツツツ。水魔法」
シュウウウ・・・
体中から煙を出しながらも消火活動が終わり、その場に座り込みホッと一息をつくイケメン冒険者。まるで、ギャグアニメを見ているようでなんかイケメンに親近感を感じてしまう。
「いい加減、茶番は終わりにしたらどうだ?お主が本気を出していないのは、お見通しなのだが」
と、ここでダルシム国代表のヨガ行者が口を開く。今までの静かな口調からすると少し語調が荒い。ちょっとイライラしているように見受けられる。すると、今までその辺を転げ回ってたイケメン冒険者がむくりと起き上がった。
「はははっ、さすがに芝居が過ぎたかな?」
「当たり前だ、いくらなんでも手応えが無さすぎる。それに、お主のチャクラは全然減っていないからな」
「チャクラ?そんなもので戦闘力を計れるのか、噂ではダルシム国は不思議な呼吸法を使うことにより色々な事を出来ると聞いたがそんな事もできるとはな」
愉快そうに頭をポンポンと叩きながら「いやあ、こりゃあ手厳しいなあ」なんて言っているイケメン冒険者を戦闘力測定スキル(スカウター)の示す色が黄色から赤へと変わる。
なるほど、今まで(あいつオレと同じくらいの実力だな)って思ってたんだが、実力を隠していただけか。まあ、予想通りではあるが、ちょっとがっかりしたなあ。
「まあ、悪く思うな。次の対戦相手に、あまり手の内を晒したくないんでな」
そう言うと、こちらに向かってウインクする。(なるほど、コレ系の性格の人なんだな、オレとは気が合わなそうだな。)
「ふん、小賢しい真似を。手の内なんぞ、いくら見せても実力でねじ伏せれば問題なかろう」
「おうおう、かっこいいねえ。オレはチキンなんでな。慎重にやらせてもらうよ。おっと、準備ができたようだな」
ピーン・・
その時、シュウの感知スキルが高エネルギー反応を検出する。反応はホワイトドラゴンの方からで、その体内にとんでもないエネルギーが収束していくのが分かる。
『ジョー、我の方はいつでもいけるぞ』
「了解、ゴー、ドラゴ!」
ピカ――――――
次の瞬間、シュウの視界をガードするアイシールドが自動的に装着される。先ほどコジロウが放った魔法から目を守ってくれたものと同じものだ。だが、このドラゴンが放った攻撃はそのシールド越しでも直視出来ないほどの光量だった。ハッキリ言って先ほどのコジロウの放った魔法攻撃よりもかなり上のエネルギー反応だ。
「あんなのを喰らったら、さすがに一たまりもないよな・・・」
「おいシュウよ、それはフラグか?」
ケンが横からドヤ顔で話しかける。相当眩しかったハズなのに根性あるな。まあ、目がまだシパシパしてるところに可愛げがあるが。そして、その横でトキさんは目を瞑って微笑んでいる。これは眩しくて目を瞑っているのか、いつも通りの笑顔なのか、その自然な仕草になんの違和感もない。さすがだ。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
「おいおいおいマジかよ」
『むう、我のバーストストームが効かぬとは』
光の中から魔方陣に囲まれたダルシム国代表のヨガ行者とでっかいカメが現れる。なるほどあの魔方陣、解析スキルによると物理無効と魔法無効の効果があるようだ。そう、目の前の魔方陣には『物理無効・魔力無効』とAR表示されている。レベルやスキルなどは秘匿されているために表示されない事が多いが、その効果や現象などから解析可能なものはこうやって表示されるのだ。
光の中から現れたヨガ行者とでっかいカメは目を瞑って瞑想状態だ。後光が差しているその様子は、教科書でみた歴史上の偉人そのものである。そんなシュウの感想をヨソにスキルによる解析は続いていく。どうやら魔力の供給は、カメが行い、術式の構築はヨガ行者が受け持っているみたいだ。
それにしても、某カードゲームなら必殺の一撃を跳ね返すなんて、さすが防御力に極振りのキャラだけあるな。つうかあんなヤツどうやって倒すんだろう?そう思って、試合の行方を見守るがとっておきの必殺技が通用しなかったステイツ国側の2人は、自分の技が防がれたことに感心するばかりで特に動揺もない。というか少しうれしそうにしている。
「しょうがないな、オレ達の手の内をこれ以上晒すわけにもいかないし」
『むう、委細承知した』
そう言うとドラゴンが翼を広げる。ロールプレイングゲームから抜け出してきたかのような外見のドラゴンが翼を広げるととても幻想的だ。まるで、高級な白磁のようななめらかなウロコの一枚一枚がキラキラと光っている。シュウがそんな事を思っていると、闘技場上空にモクモクと真っ黒な雲が立ち込める。いわゆる雷雲というヤツだ。時折、稲光が走るだけでなく、かなり強力な風も吹いているように見える。そんな雲がどんどんと湧き出してきて、そうしてあっという間に闘技場全体を覆ってしまった。
「ああんもう、全然見えんくなったやん。もう、好っかーん」
文字通り暗雲が立ち込める視界に、一生懸命情報収集をしてくれていたアイが悲鳴をあげる。通常の煙幕であれば、暗視スコープやサーモセンサー、超音波を含む各音波の反射など様々なデータを収集し、それらを分析することより敵の情報を多少なりとも引き出せるものだが、目の前の暗雲はその全てを完全に遮断している。文字通り打つ手なしの状態だ。
「コレで気兼ねなく実力を出せるぜ」
「がっかりさせるでないぞ」
暴風荒れ狂う結界内で、本気を出したステイツ国の戦いが今始まる。




